ギターソロ完コピをめぐる複雑グルーヴ、イーグルスの王道曲から鳥居真道が徹底考察

ソロのディティールやバッキングとの関係がはっきりとすればするほど、精度も上がって行き、自分の演奏と音源の演奏が溶けて聴こえるようになってきます。シンクロ率が100%に近づいてきているような感覚を抱きます。このあたりが演奏していて一番楽しくて一番気持ちが良いときです。よし、これはなかなか良い感じに弾けているに違いないと思って録音したものを聴いてみると、たいていイメージしていたよりもショボくて心からがっかりします。才能ない。自分にギターは向いていなかったのだ。やっとわかった。家にあるギターはすべて買い取りに出してしまおう。そんな風に思うほどです。

どうして大したことのない演奏を良い感じだと錯覚してしまうのでしょう。これは単純な話で、実際の音源の演奏が自分の演奏を良い塩梅でマスキングしてくれているからです。家で大滝詠一の曲に合わせてシンガロングしていたら、なかなか自分の歌も悪くないじゃないかと思って、いざカラオケで歌ってみたら下手すぎて落胆するのとほとんど同じ現象です。

ここまで来たら自分の下手さと受け入れて向き合うしかありません。気を取り直して自分の演奏を聴いてみます。私は根がビビりなのでチョーキングを怖がる癖があります。弦が切れると毎回心臓が止まりそうになるので、それを想像して不安になるのです。そうなると当然ピッチが甘くなります。チョーキングするときに力む癖もあるので尚更ピッチが上がりきらない。ここを修正していきました。試行錯誤するうちに、指の腹に弦を引っ掛けてフレットと平行になるように刷り上げればチョーキングにそこまでの力は必要がないことに気が付きました。20年以上ギターを弾いていてもまだ伸び代があることに感動すると同時に、20年も自分は何をしていたんだろうという悔恨も湧き上がってきました。またビブラートもやりすぎてしまう癖がありました。冷静に聴いてみるとフェルダーもウォルシュもいわゆる「泣き」っぽいチョーキングをしているわけではなく、先入観抜きに聴いてみるとわりと淡白に弾いていることに気がつくはずです。

自分ひとりの演奏とお手本の演奏との差異を確認しつつ精度を上げていきます。むろん何度やっても似せられない箇所もありますが、段々と諦めがつくようになってきます。気が向いたらがんばろうという構えが取れるようになりました。

ここまでこだわって取り組んでみても結局納得のいくような演奏はできていません。録音した音源を聴くと「俺のポテンシャルはこんなものなのか」とついつい考えてしまいます。とはいえ、少なくとも耳は鍛えられたからよしとしましょう。それにギターを弾いていてとても楽しいのだから何も問題はないのです。


鳥居真道



1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。
Twitter : 
@mushitoka / @TRIPLE_FIRE

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Rolling Stone Japan 編集部

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