岡林信康とともに紐解く、コロナ禍で生まれた23年ぶりのアルバム

蟬しぐれ今は消え / 岡林信康

(以下、インタビュー)

田家:アルバムの「復活の朝」と「蟬しぐれ今は消え」の流れは、年齢みたいなことも含めて対になっているようにも聞こえました。

岡林:9曲書いて、じゃあアルバムにしようということになって曲順を決めていくわけで。聴いていて一番気持ちいい曲順というのが正解なのね。だから、とかく「復活の朝」と「蟬しぐれ今は消え」というのは、深いところで繋がっているなと思う。

田家:この年齢だから、こういう秋を迎えている日々でもあったんでしょうね。

岡林:田舎に住んでいるから、夏の終わりにセミの死骸が転がっているのは珍しくもないんだけど。去年だけはそれを見た時に、ある種の儚さとか俺の旅もそろそろ終わりに近づいているかなという気持ちになって、「蟬しぐれ今は消え」が生まれてきた。

田家:"君の心に宿り生き続けたい"というのが、この年齢を迎えられた岡林さんの音楽に対する想い方の変化でもあるのかなと思ったりしたんですよ。

岡林:僕は「千の風になって」という歌が嫌いでね。お墓の中に私がいないというのは分かるんだけど、千の風になってどうだこうだっていうんじゃなくて、良き思い出になって誰かの心の中で生き続けられることができたら、それは嬉しいなというか。それの方が正解じゃないかと思って。だから、この曲ができた時に「やっとあの歌をやっつけてやったぞ」って思って(笑)。

田家:なるほどね(笑)。今仰った去年の秋の状況っていうのがまさにコロナ禍で。3曲目「コロナで会えなくなってから」は、こういうことだったんだよって説明している感じがありますね。

岡林:コロナ禍ということを抜きにして、このアルバムはできなかったね。俺はあんまり意識していなかったんだけど、今全部揃ってから聞き返してみると、コロナなくして生まれてこなかったやろうなって思う。

田家:歌の中にもありますけど、やっぱり色々なものと改めて向き合ったり、失くして初めて気がついたこと、できなくなって分かったことがいっぱいあるんですね。

岡林:人との交わりとか他愛のない馬鹿話がどれほど大切なことかというね。何も特別感じてなかったことが、コロナ禍で人に会えなくなったりもするし。俺も東京に行けなくなって。東京に音楽仲間とか友達多いから、コロナになって奪われたことによって逆にその大切さを知るというか。それと、どこかで皆が死というものを意識したと思うねん。特に俺らは、年齢的にも今年の夏に75歳になるし。

(以下、スタジオ)

田家:アルバム『復活の朝』2曲目「蟬しぐれ今は消え」についてのインタビューをお聞きいただきました。岡林さんだけでなく、色々な方がこんな風に思いながら去年の秋を過ごしていたんだろうと思います。それがこういう歌になりました。歌詞を見ると「良き思い出になって 君の心に宿り生き続けたい」という部分があります。岡林さん、こういう心境になったんですね。岡林さんはずっと自分のことを歌ってきた。自分の音楽、自分が歌うべきことはなんだろう、と。私小説的なものが多かったんですけど、この「蟬しぐれ今は消え」はこんな風に聞き手のことを考えるようになったんだなあ、と思いました。「千の風になって」へのアンサーソングでもあります(笑)。3曲目には、正にコロナ禍での想いが歌われた曲が入っています。今まで当たり前だったことがなくなって初めて分かること。そして、自分の人生がそろそろ終わりに近づいていること思い知らされた。続いて、3曲目「コロナで会えなくなってから」、4曲目「恋と愛のセレナーデ」です。

コロナで会えなくなってから / 岡林信康
恋と愛のセレナーデ / 岡林信康

Rolling Stone Japan 編集部

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