ビリー・アイリッシュを発掘した敏腕起業家の素顔

ビリーの母親はチャリティ活動に取り組んでいる

ーコロナの影響で、どのような変化がありましたか?

アイデアを練るにはちょうどいい機会だった。経済にとっては最悪な時期だし、いま苦しんでいる方々には心から同情するよ。とんでもない大変な時期だけど、同時に仕事量が少し減った分、僕らのチームには自由に考えて、戦略を立てて、創意工夫を凝らす時間ができた、という部分もあるんだ。

僕はとても恵まれていて、幸運だと思う。レコードレーベルを経営しているから、世間が音楽を聴いてくれる限りビジネスを続けられるしね。もちろん音楽業界全体や、とりわけショウができないアーティストは被害を受けている。でも僕たちに限って言えばある意味「通常営業」している。グリフィンと組んで素晴らしい仕事をしているオースティン・エヴェンソンは、かなりの時間をかけてデジタルの世界に詳しくなった。チームの別のメンバーと組んで、それぞれのプラットフォームや世界各地のマーケットで楽曲がどう受け止められるかを理解するイカしたツールを作ったりとかね。レーベルマネージャーでマックス・レオンを担当しているレイン(・クーパースタイン)も忙しくしている。A&R担当でもっぱらクリエイティブ方面を担当しているディラン(・ボーン)は、新人アーティストの発掘に専念している。僕のアシスタントのオリバー(・ジョーダン)は、いつでも手を差し伸べられるよう、これから契約しようとしている新人アーティストと密に連絡を取っている。僕はチームの背中を押して相談に乗りながら、みんなが今までやりたかったけど時間がなくてできなかったことに専念してもらっている。ビリーの母親のマギーは(COVID-19危機に合わせて)地元の工場併設のレストランをサポートし、食料を必要な場所――病院や老人ホームやフードバンクに届けるという素晴らしいチャリティ活動に取り組んでいる。やりたかったプロジェクトが実を結ぶチャンスなんだ。

うちの若手アーティストに関しては、どのみち全てデジタルだから、プラットフォームが協力的で、かつソーシャルメディアやクリエイティビティを活かした戦略がある限り、とくに問題はない。ビデオ撮影ができないから推しの1曲をリリースするわけにはいかないけど、それでも楽曲はリリースできる――普段ならリリースしないような曲だったり、出すタイミングがなかった曲だったり。そのおかげで今までと違うファン層を呼び込めるかもしれない。もう少しビッグなアーティストの場合もほぼ同じだ。ビデオや激しい売り込みがなくても、気運を生み続けられる音楽に出番が回ってきたんだ。もちろん、どのクライアントの場合も継続的にリリースするという戦略は変わらない。どのアーティストとも、楽曲リリースや音楽制作について話し合っているよ。

ー現在、音楽業界でもっとも過大評価されているトレンドは何でしょうか?

ストリーミングの時代は、プラットフォームが個々の楽曲にばかり注目するところまで来てしまった。プラットフォームから――アーティストの意思に反して――曲がヒットすると世間はしばしば懐疑的になる。TikTokが出てきてからそういう傾向が見られるようになったんじゃないかな。そういう曲が拡散すると、レーベル側はどこも大枚をはたいてそのアーティストと契約しようと躍起になる。でもその後は、その曲以外は鳴かず飛ばず状態だ。

とはいえ、TikTokそのものはけっして過大評価ではないよ。今までにない方法でクリエイターがアピールできるようになった素晴らしいソーシャルメディアプラットフォームだ。ややネガティブな響きを持つようになったものの、次のTikTokソング探しも行われている。でも僕ならそこからは身を引いて、プラットフォームとしてのTikTokをどう活かせばアーティストの違う一面を引き出せるか、というところに注目するね。

基本的に、過大評価されているトレンドは、エキサイティングで新しいマーケット手法になり得るものから生まれていると思う。問題は、1人の人間としてアーティストに着目しつつ、いかにそのツールを使うか、なんだ。

Translated by Akiko Kato

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