ビリー・アイリッシュを発掘した敏腕起業家の素顔

大事なのは「自由な時間をたくさん作って考えること」

ー仕事とプライベートのバランスは大事だと思いますか?

僕の場合、ブレストや考え事をしているときに一番いいアイデアがたくさん出てくる。口を開けてただ待つのではなく、常にアイデアやチャンスを追いかけているんだ。ごく最近も、どうすれば自分の時間をうまく配分できるか考えていたところさ。みんな、目の前の仕事をできるだけたくさんこなせばもっと成功できる、と教わって育つけど、僕は根本的にその意見には反対だ。仕事に一生懸命になるあまりいつも俯いていたら、顔を上げて物作りをしたり、さらなるチャンスを考えたりする時間がなくなる気がするんだ。僕にとって本当に大事なのは、仕事に邪魔されてばかりじゃなく、自由な時間をたくさん作って考えることなんだよ。

運動や散歩にも多くの時間を割いている。あいにく、サーフィンやジェットスキーみたいなメジャーな趣味は持ち合わせていない――旅行は大好きだけどね。(自由な時間を)勉強やブレストや体調管理に充てるようにしているんだ。オーディオブックやポッドキャストも聞いているよ。大好きなのはマルコム・グラッドウェル。ガイ・ラズの『How I Built This』もいいね。

ー頻繁に旅をするのはなぜですか?

いつもクライアントのそばにいる人間でいたいんだ。振り向けば僕がいる、という風にね。それに、アーティストを発掘してどう売り込むか理解するにはグローバルな視点が必要だ。世界各地のマーケットを理解するためには、実際にその場に行かなくてはいけない。実際に人と会って、人間関係を築かないと。所属するアーティストを一番大事に思っているのは自分しかいない。大勢の人々を介するよりも、現地マーケットの人間と直接コミュニケーションを取っていれば、相手もこちらのプロジェクトを優先してくれる。例えば、UMGスウェーデンは世界中の全てのUMGアーティストを扱っているけれど、同時に地元のアーティストも抱えている。だから個人的関係を築いて、現地マーケットに予算を割り当てて、目的をもって進めていかない限り、優先順位を上げてもらうのは非常に難しいんだ。

僕は世界の主要な音楽マーケットにはほとんどすべて行った。各地に行き始めた最初のころは、現地の人にいつもこう質問していた。「地元のアーティストが現地で直接契約した場合、ストリーミングやラジオ以外の宣伝方法を5つ挙げるとすれば何か?」。従来のマーケティング手法以外にも、できることは山のようにある。そういうことは現地に行かないとなかなか理解できないものさ。アジアのようなマーケットではとくにそうだ――ソーシャルメディアのプラットフォームも違うし、ファンの音楽の聴き方も、アーティストとの交流の仕方も違うからね。

そんな風にアーティストを支援するためにも、僕はあちこち飛び回っていたいんだ。とりわけビリーに関しては、大勢のスタッフがチームとして各公演地を回る予定だ。僕はまだ20代だし――もうすぐそうじゃなくなるけど――旅行資金もあるし、いろいろ背負っていて旅行できないということもない。あと何年続けなきゃいけないか分からないけれどね。この数年間で、ものにできるチャンスがあると思ったら即座に飛行機に飛び乗る度量が身に着いた――すごく役に立ったよ。一度アデルのマネージャーのジョナサン・ディキンス氏と電話で話したことがあってね。彼はいつも素晴らしいアドバイスをくれるんだ。僕はビリーの1stアルバムで温めていたプランをいくつか彼に話した。可能な限り世界各地のマーケットに出向いて、アルバムのプロモーションに手を貸したり、プランを説明したりするのはなかなかいいアイデアだと思うんだけど、って。そしたら彼も、アデルのアルバムのとき同じように全ての音楽マーケットを回った、と教えてくれた。アデルがあれだけ成功したんだから、俄然僕もやる気になったね。さっそく飛行機に飛び乗りたくなったよ。

Translated by Akiko Kato

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