ビリー・アイリッシュを発掘した敏腕起業家の素顔

起業家としての姿勢を貫きたかった

ーDarkroomを立ち上げたきっかけは?

EDMのアーティストがロサンゼルスのあちこちでプレイするようになったころ、これはチャンスだと思った。当時、大勢の世界的アーティストが現地にちゃんとしたマネージャーを抱えていなかった。それで僕はブログで――クリエイティビティと基本的なマーケティングの知識で――彼らのアメリカでの露出を上げるのに一役買いたいと思ったんだ。大学生が同じ大学生に売り込むという観点でね。まさにそこがターゲット層だった。おかげでクライアントをパートナーにどう伝えればいいか、お互い得をするにはどうすればいいか、お金をかけずにアーティストの露出をあげるにはどうすればいいか、とことん理解できた。最終的にはいろいろなアーティストやクラブ、フェスティバルと一緒に仕事をするようになっていた。

それからRepublic Records社の制作部で、ロブ・スティーヴンソンのコンサルタントを始めた。もともと彼は僕をマーケティング部に入れたがったんだけど、僕は起業家としての姿勢を貫きたかった。僕にとっては、独立した立場でいることと自分の会社を経営することが、仕事をする上での大前提だった。仕事のチャンスをもらった時はいつも雇われる身ではなく、パートナーとして仕事ができるようにしていた。だから制作部のコンサルタントにしてもらえないかと頼んだんだ。僕はブログもやっていたし、アーティスト発掘にもすごく興味があったし、いろんなマネージメントチームともいい関係を築いていたからね。

ロブとは1年間一緒に仕事をした。何人かのアーティストと契約を結んでかなりいい業績を上げて、正社員として残る選択肢もあった。その時ちょうどデヴィッド・ゲフィンのドキュメンタリーを見て、彼の企業家精神やレーベル創業までの経緯に感銘を受けてね。最終的にはジョン・ジャニックを介してチャンスが巡ってきた。彼には心底惚れ込んだよ。彼も僕の中に自分の姿を見出したんじゃないかな。彼自身も起業家だから、僕がビジネスを興すのを助けてくれる完璧な指導者だった。すぐに成果をださなきゃ、というプレッシャーはなかったよ。もしミスをしても、彼がそばで励ましてくれるという気がしたんだ。

ーそこから現在に至るまでは、どんな感じでしたか?

山のようにいろんなことをしてきた。ただ、音楽業界のひとつの分野に集中しろ、といつも言われていたけどね。Darkroomはマーケティング会社だけどマネージメントもするし、音楽出版業務も始めた。ブランド契約もやっている。レーベル側の仕事に専念しようと決めたのはたぶん今回が初めてじゃないかな。もちろんマネージメントもしているけれど、それは業務を一括化しようとしているからなんだ。自分たちの知見を様々な分野で活かして、僕らと一緒に仕事をするのは面白そうだと、アーティストに思ってもらいたいんだ。

僕らはマネージメントの経験があるから、ツアーのこともツアーの宣伝方法も心得ている。音楽出版もやっているから、楽曲制作やA&Rのことも理解している。マーケティング事務所を経営しているから、マネービルや才能発掘も理解している。そういう多様なことをすべてスリム化して、レコードレーベルとして自分たちをアピールしつつ、可能な限りの時間と資金を個々のアーティストに投入している――あまり大勢のアーティストを抱え過ぎないようにもしている。

今のチームを構成するときも、ひとつの分野に詳しいエキスパートを雇ったわけじゃない。普通のレーベルとは違って、僕らのチームには1つのことに特化したメンバーはいないんだ。全員がなんでも全てこなし、なんでも全て助け合うという感じなんだ。

Translated by Akiko Kato

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