「セックス・ドラッグ・R&R」は過去のもの 音楽業界が取り組むメンタルヘルスケア

Photographs in Illustration by GL Askew II; Amy Sussman/Invision/AP; Getty Images



「生活水準を保つために、彼らは以前の倍働かないといけなくなっている」

アルバムのセールスは下降を続け、ストリーミング収益の大半をレーベルやデジタルディストリビューターが持っていく状況下で、アーティストたちは延々とツアーを続けることを余儀なくされている。「アーティストやクルーを含めて、現在の音楽業界に生きる人々は商品のようになってしまっている」。ワープド・ツアーの創始者であり、南カリフォルニア大学の音楽校で教授を務めながら、メンタルヘルスの問題に長年取り組み続けているケヴィン・ライマンはそう話す。「生活水準を保つために、彼らは以前の倍働かないといけなくなっている。彼らは大きな重圧に晒されています」

経済面での不安だけでなく、ツアーを繰り返す生活には様々な弊害がつきまとう。孤独感、ドラッグやアルコールの誘惑、人間関係の悪化、睡眠障害、摂食障害、健康保険が利用できないなど、彼らは多くの問題を抱えている。「最も深刻な状況にあるのは、規則正しい生活を送ることが困難になっているアーティストたちです」。トロントで精神科医として、ミュージシャンたちのメンタルヘルスの問題に取り組んでいるハイム・ニューマン医師はそう語る。「ツアー先やスタジオで、長時間にわたって疲労を伴う作業を強いられる生活は、健康的な生活習慣や人間関係の維持を困難にします」。オズボーンはそういった生活をこう表現する。「精神崩壊への一本道さ」

トップクラスのミュージシャンたちもそういった問題とは無縁ではないものの、少なくとも経済的に豊かでヘルスケアの心配をせずに済む彼らは、その問題の中心にいる存在ではない。「コンサートやツアー、またはアルバムのキャンペーンにおいては、ステージに立つアーティスト1組につき、舞台裏では大体10人から100人程度のクルーが関わっています」。ニューマンはそう話す。「彼らもまた、アーティストと同じように消耗しています」

数多くのアーティストが精神疾患を患うのには、神経学的要因も関係している可能性もあるという。「負の感情をコントロールする大脳辺縁系の中枢は、脳の右側に偏る傾向があります」。ニューマンはそう話す。「感情豊かな『右脳型』の人間とされるアーティストたちの場合、そういった神経が負の感情を生み出す右脳に密集している傾向があるのです」。彼はそう話している。「彼らはそういった症状に悩まされやすい体質といっても過言ではありません」

さらに、連日のパフォーマンスはアーティストの健康状態を著しく損なう可能性がある。「ステージ上でプレッシャーと緊張感に晒されているアーティストたちは、一種の興奮状態にあります」。ニューマンはそう話す。「意図的なものだという点こそ異なるものの、それはいわゆるパニック状態のようなものです」

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE