ヒラリーとバーニーは、ビジョン、アイデア、約束に満ちた選挙戦を展開している──そして、私たちにアメリカ政治の最良の部分を示してくれている。
3月1日のスーパーチューズデーの夜、フロリダ州マイアミでの集会で支持者を前にしたヒラリー・クリントンの演説は、その3日前に私がサウスカロライナ州コロンビアで聴いた演説に磨きをかけた内容だった。コロンビアでの集会は、サウスカロライナ大学のバレーボール施設が会場だった。床はブルーシートで覆われていた。傷がつかないようにしたのだろうが、床に大きく描かれた「ゲームコックス」というチーム名とマスコットの赤い軍鶏──脚に闘鶏用の刃物も着けている──を隠す意図もあったかもしれない。
民主党の大統領候補指名争いにおいて、すでにクリントンは新たな自信を壇上でにじませていた。対抗するバーモント州選出の上院議員バーニー・サンダースは、大衆のための経済政策論が共感を呼び予想外の強さを示していた。これに対し、「天性」の演説家ではないことを自認するクリントンは、序盤の失敗をふまえてメッセージと語り口に磨きをかけた。オバマ大領領の支持基盤の1つである若者については、サンダースが支持を固めていた。これに対しクリントンはオバマ大統領のもう一つの支持基盤、アフリカ系アメリカ人の支持をそれ以上に強く固め、サンダースの代議員獲得の見通しを険しくするまでに至っていた。クリントンはサウスカロライナ州での勝利に続き、スーパーチューズデーの南部各州──テネシー、アーカンソー、テキサス、アラバマ、ジョージア、バージニア──であっけなく勝利を収め、サンダースを大きく引き離した。サンダースが巻き返すには、形勢を一転させるだけの数の代議員を積み重ねていくことが必要となった(その翌週、サンダースはミシガン州で予想外の勝利を収めたが、獲得代議員数では大きな差をつけられたままだった)。