ヒラリー・クリントン VS バーニー・サンダース:充実の戦いの全貌





民主党の世論調査専門家ピーター・ハートの見るところ、クリントンの最大の難点は「有権者に有能だと思われているが、思いやりに関しては納得してもらえていないこと、そして誠実さについては完全に疑いの目を向けられている]」ことだ。そのせいで、共和党が本選挙に中道寄りのジョン・ケーシック(オハイオ州知事)やポール・ライアン下院議長──ともに共和党全国大会での決選投票にもつれ込んだ場合の「トランプ阻止」のシナリオに名前が取りざたされている──を立ててきた場合、クリントンにとって「大きな脅威」となる。トランプに関しては、かねてからサンダース陣営が、トランプに対してはクリントンよりサンダースのほうが戦えるという世論調査結果を引き合いに出しているが、ハートはそのような数字に「まったく信頼性はない」と言う。「それと同じ世論調査からベン・カーソンがヒラリー・クリントンを上回るか互角という結果が出ていた」と、ハートは言う。「だから私は初期段階での世論調査に目を向けることにためらいがある。(サンダースやカーソンのような)知られていない人物と、評価が分かれる著名な人物という構図になっているからだ」



しかしながら、ビル・クリントン政権で労働長官を務め、ヒラリーをウェルズリー大学1年の学年委員長だった19歳の頃から知っている経済学者のロバート・ライシュは、別の結論に至り、それを理由の1つとしてサンダースを支持している。「トランプのようなナルシシスティックで品のない偏見に満ちた人物が、あれほどの差で勝っていることをどう説明するか」と、ライシュは問いかける。「アメリカに反応を引き起こす部分に触れているからだとしか説明できない。人々は今の政治に完全にうんざりしている。その感情が30年間、積もりに積もり、もはや公然たる反逆寸前の段階まで来ている。トランプは怒りを導き、人々にわかる言葉で話すことができる──彼のお粗末な考え方、お粗末だが大胆な考え方について」

『となると、彼女が指名を獲得し、トランプのようなポピュリストの候補と戦うことになるとするなら、彼女は信頼してもらえる形でこの反逆に加わらなければならない──それも望むらくは指名獲得まで待たずに。今の彼女は、経済を私たちの手に取り戻し、私たちの民主主義をよみがえらせるための運動の一部でなく、体制側の一部と見なされている」

トランプはもう終わりだと切り捨てながら逆の結果を突きつけられることを繰り返した数カ月の末、政界人はほとんど迷信のような恐れをトランプに抱くようになった。まるで彼が、特別な力を与えてくれる猿の手のミイラをポケットに忍ばせているかのように。しかし、アメリカ進歩センターのタンデンは「このレースの類例を探すなら、最も似つかわしいのはヒラリー自身が実際に経験した選挙戦」だと言う。それは2000年の上院選、相手はやはり奔放さが支持者に愛されていた押しの強いニューヨーカー、ルディ・ジュリアーニだった。「彼とトランプは似ている。そしてジュリアーニへの対抗策は、彼は何をしているのかという点をはっきり示すことだった。私たちの選挙戦は彼を笑い物にするところまで行き、それが本当に効いた」

ジュリアーニは結局、結婚生活の破綻と前立腺がんの診断を受けて選挙から撤退した(クリントンは後継候補のリック・ラツィオを難なく退けた)。ニューヨーク・タイムズ紙によると、クリントンは「挑発的な市長(ジュリアーニ)の愚弄をうまくあしらう術を見出した。まともに取り合わず、悪さを続けるティーンエージャーの子どもを前に腕組みをして、片足を軽く踏みならしながらため息をつく母親になった。ジュリアーニ氏を子ども扱いして怒らせる戦略だった」

1999年のクリスマスの数日前、ニューヨーク州北部での遊説中に、クリントンは「市長が怒るたびに反応してはいられません」と微笑みながら言った。「私が怒らせることばかりしているのですから」

予備選でのクリントンの選挙戦は、もう一つの大きな部分として政策に焦点を合わせている。具体的には、サンダースの提案が進歩的左派にはどれだけ魅力的であろうと、実際にはあやふやな数字と、急進的政策が共和党主導の議会を通過するという夢物語のような前提に基づく非現実的な大風呂敷であるという点だ。

この主張には、いくつか問題がある。まず一つに、議会の主導権が、ことあるごとにオバマ大統領を妨害した共和党に握られ続けるとすると、いずれにせよ民主党の政策はほとんど議会を通過する見込みがない。上院は勢力逆転の可能性もあるとはいえ、たとえトランプが大統領候補になって共和党に壊滅的な影響を及ぼす結果になったとしても、民主党は不利な区割りのせいで下院の主導権に手が届かない公算が最も大きい。「現状では何もできないという点をはっきりさせなければ」と、ライシュは強調する。



Translation by Mamoru Nagai

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