現代最高峰ジャズギタリスト、メアリー・ハルヴァーソンが明かす「実験と革新」の演奏論

愛用ギターは2本だけ、楽器へのこだわり

―その頃にギタリストとしては、どんなプレイヤーを研究していたんですか?

MH:大学の頃によく聴いていたのは、現代のギタリストだとマーク・リーボウ、ネルス・クライン、ビル・フリゼールの3人。NYに移って、1年間ニュースクール大学で学んでいた時はそれこそ毎晩ライブに通っていた。今、私はそのニュースクールで教えている。でも、生徒たちはそれほどライブを観に行っていない。「NYにいるんだから、生の音楽を聴きに行かなきゃ」といつも言ってるんだけど……。私も今では思うように行けなくなってしまったけれど、それでもなるべく行くように心がけている。(ライブの現場は)は常に何かが生まれている場所なんだから。20歳の頃はそれこそ毎晩、音楽をオーバードーズするくらい浴びていたあの時期が、自分にはすごく重要だったと思っている。





―ギター以外の器楽奏者も分析していましたか?

MH:ええ。私はギター以外の楽器を採譜するのが昔から好き。コルトレーンがハープを採譜していたとどこかで読んで、なんてクールなんだろうと思ったのもある。音楽研究のために採譜をする上で気をつけなければならないのは、自分と同じ楽器でやるとその相手に似てきてしまうこと。でも、例えばサックスを採譜し、それをギターに置き換えれば、音がまったく違うから面白い結果が得られる。ギターのために書かれた音楽ではないから、指の動かし方も普通とは異なるので、異なるパターンが生まれてくる。なので、ギター以外の楽器の影響を取り入れることに昔から興味があった。

例えば、トランペットやサックスといった管楽器のソロはよく研究した。ピアノをギターに採譜するのも面白いけど、ピアノだとギターではその通りに演奏できないことがある。あとはベースライン。私の演奏はアコースティックベースからの影響も大きいと思う。大きいホロウ・ボディのギターの“木”の音、共鳴やアタックが聴ける演奏がしたいから。

―ギターとも近い弦楽器はどうですか? 例えばスティールギター、バンジョー、リゾネーター・ギターとか。

MH:それほどはないかな。人から借りたリゾネーター・ギターを少しだけ弾いていた時期はあったし、アコースティックギターも少しだけ。高校の時、ネックがギターネックの6弦バンジョーを友人が作ってくれたのでそれも弾いたけど、今持っているギターは2本だけ。一つは日本にも持っていくツアー用のギター。もう1本のGuildギターは大抵家に置きっぱなし。この2本以外は滅多に弾かない。



―ギターは2本だけしか持っていないということですが、あなたがアーチトップのホロウボディのギターにこだわっている理由は?

MH:まるでアコギのような木の音、アタック。楽器の音がはっきり聴こえるのに、実際はエレキだっていう二面性が昔から好きだった。エレクトリックギターの楽しさはエフェクトペダルで遊べる点。レコーディングではギターとアンプそれぞれにマイクをつけ、アコースティックサウンドとアンプの音が両方聴こえ、ミックスできるようにしている。大きなホロウボディのギターだと、ギターが持つアコースティックさとエレクトリックさが聴こえやすいし、出しやすいから。

―ご自身のメインギターはどういうきっかけで入手したんですか?

MH:ウェズリアン大学でトニー・ロンバードージーというジャズギタリストに学んでいた時、新しいギターを探していると言ったら「君にぴったりのがある」と勧められたのが、Guild Artist Awardという、ちょっと変わったモデルだった。それがたまたまニュージャージーで売りに出ていて、あまり本数はないのでチェックするといいと言われたから、車で3時間、ニュージャージーに行って弾いてみたら、トニーの言うとおり完璧なギターだった。それが24年前の話。1970年製造のギターなので、私より10歳年上ってこと。

―珍しいギターなんですね。

もう1本はカスタムビルドのギターで10年ほど前に手に入れた、フリップ・スキピオが作るLuthier(ルシエー)というギター。この頃から、楽器を飛行機で運ぶのに苦労することが多くなっていて。そんな時にベース奏者がネックを取り外して運んでいるのを見て、「取り外せるネックのギターって作れる?」と聞いたら「やったことはないけど喜んでやってみるよ」と作ってくれた。裏にある小さなネジを回すとネック部分が外れるので、あとは専用の四角いスーツケースに納めて手荷物で機内に持ち込める。Guildギターに似たサウンドになるように作ってくれているので、2本を持ち替えるのもとっても楽。ピックアップも同じヴィンテージのディマジオ・ピックアップなのでサウンドも似ている。どちらも気に入っているけど、ツアーに持って行くのは後者だけ。



動画上がGuild Artist Award、下がLuthier

―それらのギターのどんな音色や質感が好きなんですか?

MH:さっき話したアップライトベースの話にも通じるんだけど、特に解放弦を鳴らした時のパワフルなサウンドに似ている。木の振動までもが聴こえてくる感じ……というか。私は昔からギターを強く弾く傾向があって、アタックがシャープで、薄っぺらいピックではなく分厚いピックで、弦をハードに鳴らしている。それに開放弦も多用する。それもアコースティックベースからの影響。私の好きなサウンドは特定のギタリストというより、そういうアコースティックのサウンドというイメージ。

あと、ジャズギターについて学んでいくうちに、多くのジャズギタリストがホロウボディのギターを弾いているのを知ったのもある。例えば、ジョニー・スミス。私は20代になって初めて知って、それから信じられないくらいハマった。これまで聴いた中で5本の指に入るジャズギタリストだと思う。彼も大きなホロウボディのギターを弾くんだけど、なんと私のGuild Artist Awardはそもそも彼のために作られたギターで、「Johnny Smith Award」 と呼ばれるはずだったもの。でも、彼はそのギターを欲しがらなかったので「Artist Award」と呼んだらしい。彼はGuildではなく、ギブソンを弾いてたらしくて(笑)。私が弾いているのが元々ジョニー・スミスのために作ったギターだったなんてびっくり。



ビル・フリゼールとメアリーによる、ジョニー・スミスのトリビュート作『The Maid With the Flaxen Hair』(2018年)

Translated by Kyoko Maruyama

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE