ジュリアン・ラージのジャズギタリスト講座 音楽家が歴史を学ぶべき理由とは?

ジュリアン・ラージ、昨年11月のコットンクラブ公演より(Photo by Tsuneo Koga)

 
ジュリアン・ラージ(Julian Lage)の演奏からはジャズ・ギターの歴史が聴こえてくる。ブルーグラスやカントリー、フォーク、インディーロックといった音楽ジャンルのみならず、アメリカ音楽史そのものを自由に横断するようなプレイには古さと新しさが同居し、伝統的だからこそ過激で実験的ともいえる。そんな彼の音楽に、コーシャス・クレイを含む世界中のジャズミュージシャンたちも魅了されている。

僕(柳樂光隆)はこれまでジュリアンに何度か取材してきたが、昨年11月の来日時に行なった今回のインタビューでは、彼の本質に近づくべく「アメリカ音楽とギターの繋がりを戦前ジャズから考える」をテーマに話を訊いた。

このあとのQ&Aでは、ジュリアン本人の作品について一切言及していない。それなのに、ありがちなインタビューよりも遥かに、彼のギターがもつ魅力の謎を解き明かすものになったと思う。気づいたらフリージャズの話に着地してしまったが、結果的に彼の音楽の核にある「ジャズ」を深く引き出せたような気がしている。そもそも、彼はなぜ音楽の歴史にここまで精通しているのか? みんなが気になる質問への回答も鮮やかだったので、ぜひ最後まで読み進めてほしい。



ジュリアン・ラージは今年3月、ジョー・ヘンリーをプロデュースに迎えた最新アルバム『Speak To Me』をリリース予定。収録曲の「Omission」「As It Were」「76」が先行配信されている


ギターとバンジョーの歴史的つながり

他の媒体で取材したとき、ディック・デイルとサーフギターについて質問したら、1950年代に活躍したカントリー・ギタリスト、ジミー・ブライアントの話をしてくれましたよね。彼らの登場がエレクトリック・ギターの新しい波をもたらし「突然100ワットになって、ギターの音が大きくなりブライトになった」と。今回はそういう話をもっと掘り下げたくて、アメリカ音楽とギターの繋がりをお聞きしたいです。

ジュリアン:うん、わかった。

―アメリカにおけるギターがヨーロッパのそれとは異なる特殊なものになった背景の一つとして、(奴隷制度によって連れてこられた)アフリカの人々が持ち込んだ楽器から作られた、バンジョーをルーツにもつことが挙げられるのかなと。

ジュリアン:それはとても重要なポイントだね。もっと多くの人々がそのことを知るべきだと思う。君の言うとおり、ギターはアフリカからやってきて、カナダ北部のノバスコシア州(米ニューイングランド州の北にある島を含むカナダの州で、フランス移民の子孫であるアカディア人の文化が根付いている。18世紀半ば、イギリス人によってカナダを追放されたアカディア人は、ルイジアナ州に辿り着きケイジャン文化を生み出していく)、フィドル、カリブ海、そういったすべての伝統と繋がりあっているんだ。

だから、ギターにはそれぞれの地域の文化、アフリカの文化、フォークロアが反映されている。一部の地域だけでなく、島々のすべての背景が複雑に絡み合っているんだ。僕らそれぞれがどんな地域で生まれていたとしても、人類の文化は互いに繋がり合っているんだよね。ギターは、そういった大事な関係性に気づかせてくれる楽器だ。

ヨーロッパのギターに関しては、リュートやウードといった楽器にルーツがあって、ルネッサンスや北アフリカの影響が反映されている。もっとも、原点を突き詰めれば同じところに辿り着くだろうけど、僕の見解では、ギターに関してはそうとも限らないと思ってる。ギターがどのように浸透していったのか、何を象徴していたのか、どうやって表現を形にしてきたのか……ギターの歴史には、そういった問いがあって、すごく惹かれるんだ。


バンジョーと黒人フォークミュージックの繋がりを解説した動画

―いきなり壮大な話! ジュリアンさんは一時期バンジョーを演奏していたことがあるそうですが、先にバンジョーという楽器が存在したことが、後のギターにどういった影響をもたらしたと思いますか?

ジュリアン:最初に思い浮かぶことは、パーカッション、つまりリズムだ。バンジョーはスタッカートで短いサウンドを奏でる楽器だから、タイミングやフレージング、プロポーション(形状)がキーワードになってくる。ギターを弾くときも、歌詞とのバランスをとるためにそれらの要素が不可欠だ。その2つをうまく組み合わせることができたら、完璧なオーケストラが生まれるよね。

バンジョーはそもそもリズム楽器として使われていた。リズムをプッシュする役割だったんだ。ジャズにバンジョーが使われるようになってから10〜15年後になってから、ソロ楽器としても使われはじめた。僕は、バンジョーのリズム楽器としての一面についてよく考えるし、エレキギターでもアコースティック寄りのサウンドが好きなのは、タイミングがクリアに聴こえるからなんだ。

―バンジョーを実際に弾いてみて、リズムに特化した楽器だと感じましたか?

ジュリアン:うん、本質的にデザインに組み込まれていると思う。ドラムに弦が張ってあるって感じかな。音を弾いてるんだけど、ドラムを叩いているような感覚だから。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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