チャーリー・クリスチャン、オスカー・ムーア、アーヴィング・アシュビー―ギターの歴史でその後に出てくる名前が、チャーリー・クリスチャンだと思います。ソロイストとして言及されることも多いですが、ベニー・グッドマン楽団で演奏していたことも重要ですよね。コンボの中での演奏に関してはどこに魅力があったと思いますか? ジュリアン:素晴らしい質問だね。誰もそんなことを質問したりしない。彼は偉大なリズム伴奏者の1人だよ。特に、ベニー・グッドマンのバンドにおいては。驚くべきことに、彼は小さいギブソンのアンプからのトーンをヴィブラフォン、ベース、ドラムセット、ピアノと見事にブレンドさせているんだ。完璧としか言いようがない。彼のソロが始まると、ボリュームを上げて前に出てくるんだけど、ソロを終えたら、ベニー・グッドマン、(ヴィブラフォン奏者)レッド・ノーヴォへと受け渡す……なんて、素晴らしいんだろう!
ジム・ホールの音楽を聴いたとき、彼はチャーリーのアンサンブルのスタイルを取り入れていると思った。ソロにおいてチャーリーが素晴らしいのは明らかだけど、彼が素晴らしいアンサンブル奏者であることも疑いようがない。
―そうか、チャーリー・クリスチャンとジム・ホールを比べてみるというのは考えたことがなかったです。ジュリアン:ジムの初期作は、チャーリー・クリスチャンに通じるものがあると思う。チャーリーは、ジムにとってヒーローのような存在だったと思うんだ。18歳の彼は、きっとチャーリーの音楽を聴いていただろう。チャーリーがまだ生きていた頃にね(ジム・ホールは1930年生まれ、チャーリー・クリスチャンは1942年死去)。
ベニー・グッドマン楽団で演奏するチャーリー・クリスチャン(1916 – 1942)ジム・ホール(1930 – 2013)―チャーリー・クリスチャンは音源が少ないから謎の部分が多いんですよね。チャーリー・パーカーのようなソロをギターで弾いてしまうイメージが強いんですが、他にも何かがあるんだろうなと思っていて。そこは今日、あなたに聞きたい重要なポイントのひとつでした。ジュリアン:チャーリーはオクラホマ州に住んでいたから、当時人気のあったカントリーミュージックと関わりを持っていた。ブルーグラスが誕生する10〜15年前(1930年代)くらいかな。彼はサックス奏者のような演奏をするんだけど、僕にとって、彼は本物のカントリーギター奏者のような演奏をするという印象だ。でも、君の言うとおり、彼の音源はほとんど残ってないからね。
―あと、当時のジャズでギターといえば、ナット・キング・コールのトリオも興味深いですよね。彼の音楽におけるギタリストの役割はどういうものだと思いますか?ジュリアン:(ギタリストの)オスカー・ムーアやアーヴィング・アシュビーとのトリオは最高だよね! もちろん今の音楽と比べると古く聴こえるけれど、あの当時に彼らの音楽と出会っていたら、きっと感嘆したはずだ。フレッシュなメロディに、興奮するようなオーケストレーション。僕にとっては、今もなお生き続けている音楽だ。
当時のギタリストは、今とはまったく違うタイプだった。つまり、多くのギタリストがリフにフォーカスしていたんだ。オスカー・ムーアやアーヴィング・アシュビーは、キース・リチャーズやロン・ウッドみたいだったと言えるんじゃないかな。ソロをやっているわけじゃない。もちろん、キースやロンはソロをやってるけど、それは彼らがそのパートで有名だから。僕は彼らのそういったところが好きなんだ。
ナット・キング・コール・トリオ:上の動画はオスカー・ムーア(1916 – 1981)、下はアーヴィング・アシュビー(1920 – 1987)がそれぞれギターを演奏―彼らとローリング・ストーンズを対比させる視点はなかったです。1940年代のビバップ以降、ドラムとベースがリズムセクションの中心を担うようになりますが、その前の時代はナット・キング・コールのトリオのように、今となっては変則的な編成が存在しました。あなたもそういった編成をやろうと思ったことはありますか?ジュリアン:うん、何度もあるよ! ドラムがないと、ギターの倍音がよく聴こえるからね。もちろん、素晴らしいドラマーと演奏するなら話は別だけど。シンバルやドラムが加わることで、そうだな……「衝突」って言い方はあまりしたくないけど、でも少なからず衝突が起こる。
僕が、ベーシストのホルヘ・ローダーとのデュオを好む理由はそれなんだ。さっき述べた理由で、僕が作曲している音楽には、ドラムがまったく入っていない。ギターとベースだけですべてが聴こえてくるから。そこに、敢えてドラムを加えることで新しいサウンドが生まれる。その感覚が好きで、伝統に倣ってドラムを入れたりもすることはあるよ。でもやっぱり、デュオこそが僕のスタイルだね。ギターとベースだけの方が、多くの伴奏やハーモニーを聴くことができるから。
ジュリアン・ラージ&ホルヘ・ローダー、昨年11月のコットンクラブ公演より(Photo by Tsuneo Koga)―ここまで話してきたようなギターのスタイルを、今日に受け継いでいる人がいるとすれば誰が挙げられると思いますか?ジュリアン:僕が長い間慕ってきたのはマット・ムニステリだね。彼はニューヨークのギタリストで、僕のソロギターアルバム『World's Fair』(2015年)のプロデュースを手がけてくれた。彼は古いL-5を弾いていて、ディキシーランドやルイ・アームストロングのバンド界隈から出てきた、その伝統に則った偉大なギタリストだ。今もそのスタイルの実践者だと思うよ。他にもたくさんいるだろうけど、多くのアーティストはもう少しビバップ寄りで、もちろんそれも素晴らしいけど、僕らが話してきたスタイルとは明らかに違う。その点でいうとマット・ムニステリは本物だ。僕も多くを学んだよ。
マット・ムニステリ(1964 – )とビル・フリゼール(1951 – )の共演