ビッグ・シーフのバック・ミークが語るギタリスト論、コミューナルな音楽のあり方

Photo by Shervin Lainez

昨年待望の初来日を果たしたビッグ・シーフ(Big Thief)に続き、ギタリストのバック・ミーク(Buck Meek)のソロ公演が12月14日に東京・渋谷WWW、15日に大阪・東心斎橋CONPASSで行われる。

実はビッグ・シーフよりもソロとしての実績の方がわずかに長く、ミークが本人名義の作品を自主制作で初めて発表したのは2013年のこと。以来、ビッグ・シーフの活動と並行してソロ作品の制作を継続してきたミークは、その過程で様々なミュージシャンの手も借りながら自身の作家性を確かなものへと築き上げてきた。今年の夏に4ADからリリースされた3枚目のアルバム『Haunted Mountain』は、フォーク・シンガーのジョリー・ホーランドとの共作も含む充実したソングライティングと、作品を重ねるごとに輪郭を増すヴォーカルが「ソロ・アーティスト」としてのミークの魅力を力強く伝える一枚。そして、ミークが最も信頼を置くギタリストのアダム・ブリスビンら手練のプレイヤーとライブ演奏で録音されたダイナミックなバンド・サウンドは、そのまま今度のステージでも大きな見どころとなるにちがいない。

そんなミークに、彼のキャリアをあらためて振り返る意味も込めて話を聞いてみた。ソロとビッグ・シーフの関係、ギタリストとしてのバックグラウンド、そしてカントリー・ミュージックの歴史と文化の継承について。なかでも、音楽をコミューナル(共同体的)なものとして捉えるミークの考えは、彼がライブやバンドという形式/形態に価値を置く理由と深く関係しているように思えて興味深い。



—もうすぐあなたのライブを日本で観られること、とても楽しみにしています。昨年にはビッグ・シーフの初来日公演が行われましたが、作品が伝えるフォーキーでアコースティックな印象とは異なり、ロックンロールを感じさせる荒々しさがあり、時にメタル・ミュージックも思わせるアグレッシブで音が分厚いバンド演奏に驚かされました。あなたの最初のソロ・アルバム(『Buck Meek』)がリリースされて5年が経ちますが、この間を通じて「ライブ・ミュージックとしてのバック・ミークのサウンド」はどのような変化を遂げてきたと言えますか。

バック・ミーク(以下、BM):僕が今まで作ってきた全てのレコード、演奏してきた全てのライブは、自分を解放して、直感を信じるための訓練だったと思っているんだ。自分を制御している殻を脱ぎ捨てて、自分がなりたいと思う理想像からも離れて、自分を振り返ったり、自分のレコードを聴き返すことで、真の自分を見つけて行く過程だと思っているんだよ。音楽を作れば作るほど、僕は自由になり、自分の直感を信じられるようになっている。だからこれまで遂げてきた変化というのは、ビッグ・シーフでも、僕自身のプロジェクトでも、自分たちが、ありのままの自分であることに対して、心地良さを感じられるようになっていることだと思う。

—新作の『Haunted Mountain』も、レコーディングではヘッドフォンもつけずにライブで演奏が行われたと聞きました。もちろん、ショーでのライブ演奏とスタジオでのそれは全く異なるものだと思いますが、ただ同時に、そこにはあなたのライブ・ミュージックへのこだわりのようなものが感じられます。ライブで演奏すること、自分以外のミュージシャンと空間や時間を共有することで一緒に音を作り上げていくことについてあなたがどんな哲学をお持ちで、どんな価値をそこに見出されているのか、ぜひ伺いたいです。

BM:僕が音楽を愛する理由の1つとして、音楽の本質とは、自分たちが、どのように自分たちの置かれた環境を処理しているかの表れだということがある。つまり、外的環境を、自分の脳や身体というフィルターに取り入れて、それを自分の楽器や声に反映させているということ。その行為を、他の人たちと共有したり、その行為に反応したりできるから、僕は音楽が大好きなんだ。その同時性……何が言いたいかというと、音楽で最も大切なことは「聴く」ということなんだ。「歌う」ことや「演奏する」ことよりも「聴く」方が大切なんだよ。自分がどのようにアウトプットするかよりも、どのように聴いているのかが大事なんだ。どのように聴いているのかによって、その人の演奏が決まってくる。だから、「演奏する」ために演奏していると、フィードバックのような現象が起こってしまうことがある。でも「聴く」ために演奏していると、音楽の本質というものが現れてくる。だから、1つの空間で他のミュージシャンと一緒に演奏しているときは、常にお互いの演奏を0.1秒単位で聴いているということなんだ。人間の脳はものすごい速さで反応する。反応速度が速いんだ。無意識に、そして神経系を通じて。意識的に何かを決断するよりもずっと速いスピードで、お互いに反応することができるんだ。僕はそういう反応を聴くのが大好きなんだよ。楽しいし、断然効率的だからね。

—ミュージシャン同士の間で起こる相互作用が大事、と。

BM:うん。それから、何の隔離もされていない部屋で、みんなと一緒に演奏するのが好きなのにはもう1つ理由があって、今回のアルバムでは、部屋に16個のマイクが設置されていた。そして(演奏された音の)信号は全て、同時に16個のマイクに録音されていった。空間が隔離されていないからね。その時に起きる、トラックに漏れ出たブリード(bleed)を受け入れて、最大活用できるエンジニアやミュージシャンと音楽を作りたい。なぜなら、個人的な経験上、その方が、リスナーにとってより現実的な環境を作り上げることができると思うから。その空間で実際に何が起こっているのかを聴き取ることができると思う。現実の世界だって、そういう状況だから。僕たちは、今いる空間の全ての音が、全ての表面から跳ね返ってきているのを聴いている。全てが同時に起こっている。上音(overtones)もリバーブもディレイも同時に聴こえているという状態。それらの要素が、僕たちの脳にとっての空間という環境、つまり現実の世界を作っている。そういうものを自分のレコーディングから聴き取れるようにしたいと思っているんだ。




上から1st『Buck Meek』(2018年)、2nd『Two Saviors』(2021年)、3rd『Haunted Mountain』(2023年)

—ビッグ・シーフの作品はもちろん、あなたのソロ作品もまた、あなた一人ではなくバンド・メンバーと共に制作されたコミューナルな音楽であります。そうした異なる二つのコミュニティに属していることは、音楽家としてのあなたの人生やクリエイティビティをどう育み、またどう豊かにしてきたと言えますか。

BM:いい質問だね。友人たちの視点を信頼できるようになったと思うし、謙虚になって、他人の目から物事を見て、他人の耳から音を聴くということができるようになったと思う。自分が全てをコントロールするという意識を捨てて、コミュニティ単位で学んでいく。そうする方が得られるものは大きい。相手を考慮することができるようになると、より共感能力の高い演奏者や作曲家になれると思うんだ。また、自信というのも育まれてくる。僕の経験上、健全なコラボレーションには、相手の考え方を聞くことや、それを素直に受け入れる姿勢、そして、相手の考え方に対して謙虚になることのバランスが重要なんだけれど、同時に、自分も自信を持って前面に出る必要がある。コラボレーションで片方が何も提供しなかったから、それは成立しない。自信を持って自分が持っているものを提供することと、相手の言い分を聞いて、色々と変えていく姿勢との繊細なバランスの上にコラボレーションが成り立っている。健全なコミュニケーションを通じて、その作業ができる相手となら一緒に音楽を作れるということなんだ。

—例えば、ビッグ・シーフでの活動がバック・ミークというソロ・アーティストに与えた最も大きな影響はなんだと思いますか。そこにはフィードバックし合う関係もあれば、逆に違いを意識する部分もあると思いますが。

BM:最も大きな影響は、素直になるということを学んだことだね。ビッグ・シーフでの活動でこれは色々な場面で、何度も証明されてきたことなんだけれど、正直であること、つまり作曲において、演奏において、自分のミスや人間らしさを隠して完璧な人工物を作り上げるのではなく、リアルな自分、ありのままの自分でいるということは、弱い一面を見せることになるかもしれないけれど、その方が堅実味があるんだ。人々はそういう堅実味を必要としているんだと思う。だからみんなビッグ・シーフに惹かれるんだと思う。僕もそれを学んだ――自分を信じて、自分に正直でいることをね。

Translated by Emi Aoki

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