ビッグ・シーフのバック・ミークが語るギタリスト論、コミューナルな音楽のあり方

カントリー・ミュージックの歴史と文化の継承

—過去のインタビュー記事では、グレイトフル・デッドやジュディ・シルのハーモニーの魅力について、コードを分析しながら詳しく解説されていたのが印象的でした。自身の曲作りにおいても、そうしてロジカルなアプローチが取られている部分が大きいのでしょうか。

BM:僕はバークリー音楽大学に行っていたから、音楽理論は学校で学んだよ。音楽教育については自分の中でも賛否両論あって、音楽教育は非常に役立つものだと思っている反面、少し疑問視している自分もいる。音楽理論も、感情を表現するためや、意思疎通を促進するためや、クリエイティブなアイデアを目的として使うのであればとても役に立つ。でも、そういう使い方と、音楽理論に依存することの間には微妙な境界線があって、正直な気持ちを表現する代わりに、自分の不足を埋めるために音楽理論を用いたり、既存の音楽理論を用いて自分たちの音楽という言語を定義してしまったりすることも多々ある。だから僕は今までずっと悩んできた。音楽理論については多くのことを学んできたからね。

—はい。

BM:だから、毎回、ある理論に立ち返って、自分との関係性を再定義する必要があった。学校では複雑なジャズ・ハーモニーなどを学んだけれど、何年も作曲を続けていくたびに、音楽理論に立ち返って、改めて自分がどのように解釈すればいいのかを考えた。学校では最初に全ての曲のコード置換を学んだ。「Giant Steps」(ジョン・コルトレーン)のコード置換から、メロディックマイナーのコード7の演奏など数々のことを学んだ。でもそういうことに圧倒されてしまって、大学卒業後は、3つだけのコードしか使わない曲に回帰したんだ。カントリー・ソングだよ。家に帰って、G、C、Dしか使わない曲ばかりを1日中、書き続けた。自分を浄化させる必要があったんだと思う。でも、徐々に自分の作曲や演奏に、ハーモニーや音楽理論を取り入れていった。ただそれを注意深く、意図的に使っていった。「メジャーセブンスの11thコードは、どんなフィーリングを喚起するんだろう?」と自分に問いかける。このコードを演奏すると、少し切ない感じがして、緊張感も多少あり、ノスタルジックな感じもあり、不協和音らしさもある。だから、ノスタルジックな歌詞を際立たせるためにこのコードを使ってみようと思う。ディミニッシュコードは完全な不協和音にしか聴こえなくて、怖い感じがする。それなら、何か怖いことについての歌詞にこのコードを合わせてみようと思う。こうやって、1つ1つのコードに立ち返って、自分の脳をプログラミングし直すにはかなりの時間と労力を要したよ。



—今も話の中で出ましたが、ミークさんの音楽的なルーツに関して、出身地であるテキサスと縁の深いカントリー・ミュージックから受けた影響について教えてください。ミークさんがカントリー・ミュージックの歴史や文化からどのようなものを受け取り、それを自身の音楽にどう還元し、今のスタイルへと昇華してきたのか、興味があります。

BM:僕は子供の頃、ブルースとジャズを弾いて育ったんだけど、ボブ・ウィルスなどのウェスタン・スウィングという30年代・40年代の古いカントリーも弾いていた。60年代のカントリーも少しは弾いていたね。僕が育ったテキサスの小さな町では、毎年7月にロデオが開催されて、カウボーイたちが暴れ牛や暴れ馬に乗ったりしていた。そしてロデオ終了後は、壮大なダンスパーティが開催された。カウボーイやカウガールや子供たちが、カントリー・ミュージックの生演奏に合わせて2ステップダンスを踊るんだよ。あらゆる世代の人たちが一緒に踊る。ブルースやジャズを演奏していた時と同様に、僕が育ったテキサスで、それらの音楽はダンスのための音楽だったんだ。パートナーと踊って一緒に動いたり、恋に落ちたり、パートナーを変えて踊ったり……そして、そこにはダンスと切り離せない要素として音楽が常にあった。僕が音楽を愛している理由の1つだよ。音楽は「動き」のためにある。また、ソングライターとしてカントリー音楽に魅力を感じるのは、自分の弱みをさらけ出せる勇気が感じられることや、複雑な感情を表現できること。例えば、男性のカントリー・シンガーは、自分の感情を露わにしている。心を曝け出して、泣いてしまったことや、自分がいかに傷ついたことなどを歌っている。微妙な感情の変化などについても歌っている。そういうことができる強さに共感するね。それに、やっぱりカントリー音楽は僕にとって「故郷 (home)」という感じがするんだ。



—カントリー・ミュージック、そしてもちろんブルースやフォーク・ミュージックもそうですが、そうした音楽はさまざまな人々の間で歌われ、アレンジを変えて演奏されたり、歌詞を変えたり新たに加えたりされながら受け継がれてきた歴史や文化を持ちます。そうした音楽が持つ「コミュニティ」としての側面は、あなたのソロ作品やビッグ・シーフに伺えるコミューナルなあり方と通じる部分が大いにあると感じるのですが、いかがでしょうか。

BM:僕にとっての音楽は、コミュニティが全てだと思う。幼少時代から、今までずっとそうだったし、これから先もずっとそうだと思う。先ほども話したように、僕は子供の頃から、ダンスやコミュニティのための音楽を演奏して育ったし、16歳の頃からはテキサスのKerrville Folk Festivalに行くようになった。世界中からソングライターが集まるフェスティバルで、大きな牧場で開催される。キャンプ場があって3週間、みんなでキャンプファイアーを囲んで、自作の曲を歌うんだ。参加者の多くはパフォーマーやプロのミュージシャンではなくて、大工や医者や、おばあちゃんやおじいちゃんだったりする。とにかくみんな、自分の曲をみんなに聴いてもらうために参加している。僕は毎年それに参加しているんだけど、そういうことがソングライティングの本質だと思っているんだ。自分の経験を他の人たちと共有して、歌を通して自分の経験を神話のように昇華させる。


Kerrville Folk Festivalのドキュメンタリー映像(2019年)

—ええ。

BM:でもニューヨーク・シティに移住して、ビッグ・シーフやソロ・プロジェクトを始めた時、僕たちは、バンドやソングライターという数々の星からなる巨大な星座のうちの星1つに過ぎなかった。僕たちは2012年から2018年にブルックリンに住んでいたミュージシャンたちで、毎晩のようにライブをやっていた。その同じ夜には、きっと他にも50組くらいのバンドがブルックリンでやっていて、みんな友達同士でお互いのバンドを知っていた。ドラマーのジェームズなんかは5組くらいのバンドに所属していたし、僕も当時は5組か6組くらいのバンドに所属していたし、マックス(ベースのマックス・オレアルチック)はニューヨーク・シティ中のジャズバンドで演奏していた。まさに音楽家たちからなる星座だったんだよ。僕たちがいつも通っているライブハウスがあって、そこでお互いのバンドをサポートしたり、新しい音源について話し合ったりした。お互いを助け合うという気持ちがとても強いコミュニティだったね。そこから、アメリカの他の地域に活動を拡大していった。自分たちの知り合いをツテに、ツアーを自分たちで企画して行ったんだ。シカゴにいる友人に電話して、僕たちと一緒にライブをしてくれるようなバンドは知り合いにいないかと尋ねたり、ハウスパーティーやバックヤードパーティ、バースデーパーティなどでも演奏した。コミュニティを通じて、できる限りたくさんのライブをやるようにした。僕が今までに得た音楽関連の機会というのは、ほとんどが友人から来たものだった。仕事関係の人からではなく、毎回、友情関係から始まったんだよ。

—ちなみに、カントリー・ミュージックについて言うと一方で、現在、オリヴァー・アンソニーやモーガン・ウォーレンのようなカントリー・シンガー、カントリー・ポップが全米でヒットしている状況があります。彼らの音楽は聴いたことはありますか

BM:彼らの音楽は聴いたことがないね。でもアメリカには現在、素晴らしいカントリー・シンガーたちがたくさんいるよね。チェックしてみるよ!

—カントリー・ミュージックは、保守的でキリスト教的な価値観を肯定する、白人による男性主義的な音楽だという見方が古くからされて来た一方、近年は女性や有色人種のカントリー・シンガーも珍しくありません。さまざまなジャンルとクロスオーバーしたサウンド(リル・ナズ・X、RMR)も多く聴かれます。そうした広がりを見せるカントリー・ミュージックの現在、受容の変化をミークさんがどう見ているのか、興味があります。

BM:とても素敵なことだと思うよ。僕がカントリー・ミュージックを好きな理由は、遊び心があって、ダンスが付随しているからなんだ。それに、ソングライティングも、心が温かくなるような、心を開くような、告白的要素があるから、誰にでも受け入れられるものだと思うし、聴き手を限定していない。そこが良い点だと思う。それからカントリー・ミュージックは、問題児的要素もあって、カントリー・ミュージックの歴史には、いつの世代でも、反逆者たち(rebels)が関連しているものがある。以前それは、あまり表向きには出ていなかったけれども、最近ではそういう感じも知られるようになってきているから、今後のカントリー・ミュージックでも、もっとそういう例を挙げてくれたらすごく面白くなると思う。トラブルメイカーたちの歌だよ(笑)。

—ありがとうございます。では最後に、今回の日本のライブで楽しみにしていることを教えてください。ステージの上でも、あるいはステージの外でも。

BM:日本は世界の中でも大好きな国なんだ。日本の観客はライブをすごく尊重してくれて、じっと耳を傾けてくれるから、日本で演奏することができて光栄だよ。日本では数回しかライブをやったことがないけれど、観客の注意力や集中力、優しさにはすごく感動する。本当に僕たちの音楽を聴いてくれているのだと実感できる。だから日本のみんなの前で演奏するのが楽しみだよ。それから日本の食事もすごく楽しみ! 僕の1番好きな料理は和食なんだ! 和食とテキサスBBQ が一番好き。前回、日本に行った時はツアー終了後に1週間、東京、京都、大阪の都市部に滞在していたんだ。今回は四国に1週間行って、山の方に行く予定なんだ。日本の山地を訪れるのがすごく楽しみだよ。四国にある「かかしの里」に行って、時間があれば海岸も訪れたい。山の文化を見に行くのもすごく楽しみ。僕も山に住んでいるからね。あとは森の中の温泉なんかに行けたらいいな!


バック・ミーク来日公演では、今年3月にデビュー作『Midnight Game』を発表した妻のジャーメイン・デューンズ(Germaine Dunes)がオープニングアクトを担当




BUCK MEEK Japan Tour 2023
2023年12月14日(木)東京・渋谷WWW
2023年12月15日(金)大阪・東心斎橋CONPASS
ゲスト:Germaine Dunes
OPEN 18:00 START 19:00
料金:前売り¥5,500(ドリンク代別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3990


バック・ミーク
『Haunted Mountain』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13441

Translated by Emi Aoki

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