ビッグ・シーフのバック・ミークが語るギタリスト論、コミューナルな音楽のあり方

ギタリストとしてのバックグラウンド

—バック・ミークという「ギタリスト」についての話も聞かせてください。ギタリストとして、ソロ名義のレコーディングやライブに際してプレイや音作りの部分で意識しているのはどんなことですか。ギタリストとしての自身のスタイルをどう築き上げてきたのか、興味があります。

BM:ビッグ・シーフで活動してきて学んだことは、「曲を敬う」ということなんだ。曲に対する尊敬の念。僕が思うに、最も大切なのは曲であって、それ以外のものは、曲のために尽くすべきだと思っている。少なくとも歌詞がある音楽に関しては。ビッグ・シーフにおいては、エイドリアン(・レンカー)のメロディや歌詞、彼女の曲の意味を考慮して、彼女をサポートし、持ち上げるようにしている。実際には何をしているかというと、僕がギターの伴奏をしてメロディを二重にしたり、ギターを使って彼女のメロディにリズムやハーモニーを加えて深みを出したり、彼女のギター演奏がとても複雑で濃いものだった場合には、バランスを取って、僕はアンビエントなギター演奏をしたりする。逆に彼女のギター演奏がアンビエントな時は、それとは対照的な要素を提供するために、シンコペーションのあるギター演奏をすることもある。曲の邪魔をするのではなく、曲が生き生きとするような環境を作り上げていくのが僕の役割だと思っている。エイドリアンの作る曲はものすごくパワフルだから、僕は毎回謙虚な気持ちになる。曲本来のパワーに自然と圧倒されてしまうんだよ。

—なるほど。

BM:その一方で、自分のソロ・プロジェクトでは、リズム・ギターを演奏するのが実はすごく楽しいんだ。そして自分は“物語を語る”ことに集中するようにしている。それはビッグ・シーフの役割とは全く違う。ソロ・プロジェクトでの僕の主な役割は物語を語ることであって、歌や物語を通して観客を導くことだと思っている。だからアコースティック・ギターか、エレクトリック・ギターのリズム・ギターしか演奏していない。僕が世界で最も好きなギター演奏者の1人、アダム・ブリスビンは、ソロ開始当初から僕のバンドで演奏してきてくれた。彼に全てを任せるのが好きなんだ。彼は曲を「敬う」ことができると信頼しているし、すごく実験的で刺激的なギターパートを書いてくれると信じているから。




—その築き上げてきたギタリストとしてのスタイル、プレイや音作りに関して、『Haunted Mountain』において最も手応えや達成感を得ている曲を挙げるなら?

BM:今回のアルバムのプロデュースを担当して、ペダルスティールも演奏し、僕の1stアルバムではベースを演奏したマット・デビッドソンが、今回のアルバムでは僕がソロパートを演奏するように勧めてくれたんだ。今まではアダム・ブリスビンがソロを担当していたんだけど、今回は僕がソロを演奏するべきだとマットが強く望んだ。だから「Where You’re Coming From」の中盤では僕のギターソロが入っている。これは自分のソロ・プロジェクトにおける新たな瞬間だったね。自分を全面に出して、ギターソロを演奏するということ。自分が裸になったような、脆弱になったような気がした。それに今まではリズム・ギターの役割を楽しんでいたのに、ギターソロとなると、どこか身勝手な気がして抵抗があったんだけど、実際にやってみたら自信が湧いてきて、それ以来、ライブでもギターソロを演奏するようにしているんだ。

それから「Haunted Mountain」という曲ではアダムと僕がギターソロを一緒に演奏している箇所がある。今、考えてみると、それが最も達成感を得た曲だと思うね。僕とアダムがギターソロを同時に演奏していて、先ほど話したように、お互いの演奏を聴いて、それに反応しているのが聴き取れる。同じ空間で全てを録音していたから、アコースティック・ギターの方がずっと音が小さくて、アダムのエレクトリック・ギターの方がずっと大きな音だから、耳を澄まさないとアコースティック・ギターの音は聴こえないんだけど、僕とアダムが、リアルタイムでアイデアをやり取りしているのが聴き取れると思う。先ほども話したけれど、アダムは、僕が最も好きなギタリストの一人だから、彼とそういう機会が持てたのはすごく楽しかった。




—ちなみに、ミークさんが初めてギターを手にしたのは5歳の頃で、曲を書き始めたのは高校生になってからと聞きました。ミークさんが影響を受けたギタリスト、理想とするギタリストを教えてください。

BM:最初に影響を受けたギタリストで理想としていたのは母親だよ。初めてギターのコードを教えてくれたのが母親だった。母は長い間、児童心理学者をやっていたんだけど、プライベートではとても美しい曲を作っていた。それを僕や、僕の兄弟、父親に歌って聴かせてくれた。外部の人の前で演奏することはなかったけれど、今までに聴いた中でも非常に美しい曲を作っていた。彼女が最初に影響を受けた人だね。それから子供向けのミュージシャンだったラフィも大好きで(笑)、5歳の時は彼みたいになりたかった。彼はアコースティック・ギターを弾いて、「Brush Your Teeth」とか「Baby Beluga」など、とても素敵な子供向けの曲を歌っていたんだ。音楽を通じてコミュニケーションを取るということを彼から初めて学んだよ。高校時代は、スティーヴィー・レイ・ヴォーンに影響を受けていた時期もあって、その後は、ジャンゴ・ラインハルトに影響を受けた。僕にとって最も大きな影響を与えたのはフランスのギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトだった。彼に夢中になり、彼の曲を何年もかけて全部覚えて、練習した。ジャンゴ風のギターも持って、ジャンゴみたいな細い口髭を生やして、ジャンゴみたいなスーツを着ていたよ(笑)。




—先ほどの話にもありましたが、ミークさんのギター・プレイには、例えばリズムを補完するリズム楽器的な側面だったり、テクスチャーを構成するアンビエント的な音色だったり、自由で幅広いアプローチが感じられます。そうした背景には、いわゆるギター・ミュージックとは異なるエレクトロニック・ミュージックだったり、あるいはワールド・ミュージックと呼ばれるような音楽からの影響も窺えるのですが、いかがでしょうか?

BM:その通りだよ! 僕が受けてきた影響は大まかに2通りあって、子供の頃は、年上のメンターがいた。ジャンゴ・ポーターとスリム・リッチーという地元のギタリストで、僕よりも年上だった。僕は何年もの間、彼らの弟子で、彼らがギターソロを演奏する傍ら、僕はずっとリズム・ギターを演奏していた。僕の役目は、リズムを保つことで彼らをサポートすることだった。それを10,000時間くらいやっていたんだよ。寿司職人が、実際に寿司を握るまでに、酢飯を作るのを何時間もやらされるみたいに。

—へえ。

BM:僕は5年間くらい、1日中リズム・ギターを演奏していた。その経験から、相手をサポートする重要性を学んだし、リズムの基礎も学ぶことができた。それ以降は、ビッグ・シーフについて話したように、曲には神聖さがあるような感じがして、僕がギターでできることはアンビエントな空間や、抽象的な環境を作って、曲が生きるようにすることだと考えている。特にエイドリアンのギターパートは元々複雑なものが多いからね。また、僕は、ビッグ・シーフのドラマー、ジェームズ・クリヴチェニアからも大きな影響を受けている。彼はエレクトロニック音楽やアンビエント音楽に対する造詣が深くて、自分でもエレクトロニック音楽を制作している。ビッグ・シーフのレコーディングにジェームズは、「マジック・ボックス」と自身が呼んでいるものを毎回持ってくる。さまざまなペダルが設置されたペダルボードなんだ。ジェームズは、ミキシング・コンソールから、何らかのトラック(それはボーカルのトラックやスネアドラムのトラックの時もある)を取り上げて、その信号を再処理して、それをミックスに加えたりする。だからアルバムで聴こえるアンビエント音は、ジェームズがスタジオで加工した音で、僕はその音をライブで再現したりする。今では、その影響が、スタジオでの自分のギター演奏にも表れていると思う。僕はアンビエント音楽が大好きで、よく聴いているんだ。グルーパーやジュリアナ・バーウィック、カマル、ウィリアム・バシンスキー、もちろんブライアン・イーノも。それ以外にもたくさん。

Translated by Emi Aoki

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