「2023年のジャズ」を総括 様々な文脈が交差するシーンの最前線

過去と未来をつなぐサイクル

ジャイルス・ピーターソン編纂のコンピレーション『We Out Here』によってUKジャズが脚光を浴びたのが2018年のこと。エズラの受賞はそこからの5年間で、UKジャズの音楽家たちが力をつけ、作品のクオリティを底上げしてきたことを証明する出来事でもありました。エズラと並ぶシーンの柱、ヌバイア・ガルシアとシャバカ・ハッチングスの来日公演からも確実にレベルアップしている様子が伝わってきましたし、ライブは想定外にネオアコ的だったオスカー・ジェローム、パンキッシュで尖りまくりだったWu-Lu同時期にビルボードライブへ出演したヤスミン・レイシーやアルファ・ミスト、マンスール・ブラウンもそうですが、表現の完成度が高まったことでUKならではの個性とサウンドも色濃く滲み出ていたように思います。


ヌバイア・ガルシアが熱弁、UKジャズとクラブミュージックの深く密接な関係
Photo by Fabiola Bonnot


オスカー・ジェロームとは何者なのか? UKジャズの逸材が音楽遍歴を大いに語る


アルファ・ミストが語る「ジャズの探求に終わりはない」音楽的冒険を支える仲間たちの貢献
Photo by Kay Ibrahim


UKジャズ最重要ギタリスト、マンスール・ブラウンが語る孤高のサウンドと日本文化への愛

ヌバイアが以前、「電話一本で駆けつけてくれる豊かなコミュニティがロンドンにはある」と語ってくれましたが、コンペティティブ(競争的)ではなくてサポーティブ(協力的)であるというのもシーン周辺の大きな特徴で、「みんなで一緒に成長しよう」という仲間意識がものすごく強いんですよね。「起用する」というよりはフラッと遊びにくるようなノリというか。しかも、リトル・シムズのようなヒップホップや、ブラック・ミディなどロック寄りの界隈とも距離が近い。その一例ともいえるのがサンファの『LAHAI』で、UKジャズ人脈の重要プレイヤーが集結し、R&Bシンガーという既存の肩書きからは想像もつかないサウンドの飛躍ぶりに貢献しています。


サンファが語る新たな傑作の背景 抽象的なサウンドに込められた「過去と未来のサイクル」
Photo by Jesse Crankson

サンファは『LAHAI』のなかで、西アフリカからイギリスへと移住してきた両親のルーツに思いを馳せつつ、ロンドンでクラブミュージックやグライムに親しみながら育ってきた自分の生い立ちとも向き合い、パーソナルな物語を娘の世代へと語り継ごうともしています。その過去と未来をつなぐサイクルを、彼はエレクトロニックとアコースティックのハイブリッドで表現していて、実験的かつスピリチュアルな音楽性が歌詞の世界観とも密接に結びついている。本人に取材したとき、コドウォ・エシュンの著作から「音楽によっては(過去に)遡れば遡れるほど、未来的に聴こえてくるものがある」という一節を引用し、「アフリカ音楽は直線的な方向に進むのではなく、建築物のように新たな要素を積み上げていくんだ」と語っていましたが、この古くて新しいとしか言いようのないフィーリングは2023年最大の収穫のひとつだと思います。




歴史やルーツと丁寧に向き合った作品でいうと、UKジャズ・ムーブメントの先駆的ユニットであるユセフ・カマールの片割れで、サンファ『LAHAI』にも参加していたドラマーのユセフ・デイズの『Black Classical Music』は海外での評価も高いですね。レゲエやアフロビート、グライムなどアフリカ/カリブ海からの移民がイギリスに持ち込んだリズムを取り入れつつ、黒人蔑視のニュアンスを含む「Jass」(ジャズの語源)を嫌った昔のミュージシャンが代わりに使った呼称をタイトルに掲げている。自分なりにブラックミュージックの古典を再提示しようという志が伝わってきます。




ヌバイアがトリニダードとガイアナ、シャバカがバルバドス、エズラのフェミ・コレオソとTJ・コレオソの兄弟がナイジェリアにルーツをもつように、UKジャズシーンではアフリカ/カリブ系移民の2世・3世が多く活躍しています。自身のバンドでカリブ海や南アフリカとのコネクションを深めてきたシャバカは、Kofi Flexxx名義で発表した『Flowers In The Dark』にもそういった音楽要素を持ち込みつつ、尺八など非西洋文脈の楽器も導入。かたやレゲエ/ダブやジャングルにも精通するヌバイアは、最新シングル「Lean In」でUKガラージに接近しています。共に自分たちのルーツにまつわる文脈を掘り下げながら、独自の表現を探求しているように感じました。



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