ジャズの未来を担う若者たちへ ミシェル・ンデゲオチェロが語る共感・信頼・リスペクト

ミシェル・ンデゲオチェロ(Photo by Charlie Gross)

 
ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)の5年ぶり最新アルバム『The Omnichord Real Book』は、ブルーノートに移籍してのリリースとなる。1968年生まれの彼女はもともと、ロバート・グラスパーの『Black Radio』、ジェイソン・モランの『All Rise』、マーカス・ストリックランド率いるTwi-Lifeの『Nihil Novi』など、同レーベルによる21世紀の重要作にいくつも参加してきた。

そもそも、ミシェルの音楽はR&Bにカテゴライズされることが多かったが、最初期のリーダー作『Plantation Lullabies』(1993年)の時点でジェリ・アレンやジョシュア・レッドマンを起用しているし、2000年代のアルバムにはクリス・デイヴ、ケニー・ギャレット、ジャック・ディジョネット、パット・メセニー、ジェイソン・リンドナー、ロバート・グラスパーらを迎えていた。また、2003年にはロイ・ハーグローヴ率いるRHファクターの名盤『Hard Groove』に起用されている。この30年間、ジャズの最先端で起きていた重要な動きの近くにいつもミシェルがいた、そう言っても過言ではないだろう。

そんなミシェルの最新作『The Omnichord Real Book』にはジェイソン・モラン、アンブローズ・アキンムシーレ、ジョエル・ロス、ジェフ・パーカー、ブランディー・ヤンガー、ジュリアス・ロドリゲス、マーク・ジュリアナ、コリー・ヘンリー、サム・ゲンデルといった現代屈指のジャズ・ミュージシャンが集結し、マルチ奏者のジョシュ・ジョンソンがプロデュースを担当している。ミシェルの作編曲家/ボーカリストとしての個性が、それぞれのプレイヤーたちとがっちり噛み合った傑作だ。

ちなみに、アルバムタイトルに含まれている「オムニコード」は、教育用楽器を開発/生産する日本の鈴木楽器製作所が1981年に発表した電子楽器。子供でも扱えるシンプルかつ独特の構造とチープな音色が魅力的で、簡単に和音を奏でることができるのに加え、リズムマシンのような機能も搭載。今なお根強い人気を誇り、この秋には復刻モデルが発売されるという。

また、「リアル・ブック」はポール・ブレイ、スティーヴ・スワロウ、チック・コリアが70年代にまとめた譜面集のこと。セッションに適した様々なスタンダードソングが集められており、バークリー音大などのジャズやポピュラーミュージックの教育機関で教則本として使われている。

ということは、今作はオムニコードを使ったスタンダード・カバー集なのかと思いきや、ミシェルが全曲を書き下ろしたという。2つのワードはどういう経緯で組み合わさることになったのか。さらにミシェルは、若い世代への想いも愛情たっぷりに語ってくれた。



―『The Omnichord Real Book』という変わったタイトルは、いったい何を意味してるんでしょうか?

ミシェル:オムニコードが何かは知ってるよね? COVIDのロックダウン中、ずっと一人で過ごしてたでしょ。コンピューターの画面をずっと見てるのに疲れちゃって。それでオムニコードでたくさん作曲をしてたの。

―オムニコードが制作の出発点になったということですか?

ミシェル:そういうこと! 音楽教育用の楽器で、今も手元にあるんだけど……(触っていると)心が落ち着くというか。コード・ストラクチャーとハーモニーのことだけを考えるから、そこからメロディや言葉、ビートが生まれてくる。ネットに繋がってない、コンピューターじゃない、というのが良かったの。

―古いテクノロジーがあなたを癒したと。オムニコードを使って作曲した影響がよく出ている曲はどれになりますか?

ミシェル:それはなんと言っても「Omnipuss」!

―タイトルからしてそうですよね(笑)。

ミシェル:うん(笑)。あれは良いビートにハーモニー……そこに本物のベースを乗せただけ。オムニコードで作曲した曲として突出している。


―全曲オリジナルのアルバムなのに、『Omnichord』のあと『Real Book』と続くのはどんな意図があったのでしょう?

ミシェル:私の両親が亡くなって、実家を片付けてたら、父からもらった最初のリアル・ブックが出てきたの。そこで気づかされた。音楽を作り始めて30年になるけれど、私の頭の中の大きな部分を占めているのは「いいソングライターになりたい、ミュージシャンたちが”演奏したい”と思うような曲を書きたい」ってことだって。そもそもリアル・ブックというのは、ミュージシャンが(その曲を演奏するために)一つになって繋がる、そういう曲のコレクションだから。

だからそう、日本のミュージシャンが「Omnipuss」や「Virgo」を聴いて、自分たちのやり方で演奏してくれたら嬉しい。要するに、ドラマーがビートで実験したり、ホーン奏者が実験できたりするような優れたストラクチャーを持つ曲を書く、ということをやりたかった。

―アルバム全曲の譜面があるわけではないですよね?

ミシェル:スコア的なものは一応あるけど、書いたりはしていない。幸いにも、みんな慣れてるから。私とギタリスト、ドラマー、キーボード奏者は一緒にテレビ番組のスコアを書く仕事をしているけど譜面に書く必要はない。互いにパートを書き、補い合う。私がこういうパートがほしいと頼み、それを全員で埋めていくという感じでやってる。

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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