サマラ・ジョイが語る「歌声の秘密」 ジャズボーカルの新星が夢を叶えても学び続ける理由

ショウケース・イベント「SAMARA JOY Special Showcase」より(Photo by Eiji Miyaji)

 
グラミー賞の最優秀新人賞、最優秀ジャズ・ボーカル・アルバムの2部門を受賞したことで一躍注目を集めることになったサマラ・ジョイ(Samara Joy)。2021年のデビュー作の時点でジャズ界隈では話題になっていたが、グラミーにより一気に知名度は跳ね上がった。そんな彼女が3月にプロモーション来日、恵比寿BLUE NOTE PLACEでショウケース・イベントを行った。

「トラディショナルなジャズを復活させた」「ヴェルヴェットのような歌声」「TikTokで人気」といった言葉で語られる彼女の音源や動画はもちろんチェックしていたので、それなりに魅力をわかっているつもりだった。それなのに、実際にその声を初めて生で聴いたとき、あまりの凄さに圧倒されてしまった。はっきり言って「上手い」とかそういうレベルではない。恐ろしく上手い現代のボーカリストたちと比べても、ずば抜けた凄みがある。さらに表現力も豊かで、歌詞を丁寧に届ける彼女はストーリーテラーとしても卓越しているうえに、観客を惹きつける華やかさもある。

なんというか、サッカーのキリアン・エムバペ、バスケのヤニス・アデトクンボ、もしくは大阪なおみを生で観たら、こんな衝撃を受けるのだろうか。ジャズ・ミュージシャンとしてはエスペランサ・スポルディング以来となるグラミー最優秀新人賞も当然の結果だと思った。もはやポテンシャルだとか、この先が楽しみとかいう次元ではない。新たなスーパースターの歌唱に、ため息とも歓声ともつかない声が会場中に溢れていた。

その翌日、サマラに取材することができたので、ここでは彼女の技術や音楽的志向についてじっくり掘り下げることにした。そこでわかったのは、若干23歳(1999年生まれ)のサマラは既に完成度の高い作品を生み出しているにもかかわらず、その先のビジョン
が明確にあり、そこに向けて着実に自身を磨いていることだった。

ちなみに、取材現場に向かう途中にインスタを見たら、サマラが控室からライブ配信を行っており、「さっきゲットしたエビ味のチップスが美味しすぎる、日本最高!」みたいなことを話していた。これはエビ味のチップスの話をした直後のインタビューである。


ショウケース・イベント「SAMARA JOY Special Showcase」より(Photo by Eiji Miyaji)


大ヒット中のメジャーデビューアルバム『Linger Awhile』デラックス・エディションが5月19日にリリース決定(詳細は記事末尾)

基礎を支えるクラシックのレッスン

―昨日のライブを観て、特にボイスのコントロールに驚きました。何か特別なボイスレッスンをしていたことはあるんでしょうか?

サマラ:ええ。初めてちゃんとしたボーカルレッスンを受けたのは大学の時。それ以前は、練習はしていたけどあまり意識はしていなかった。他の歌手のレコードをコピーして練習したりっていうくらい。16歳の時に教会で歌い始めて、17、18歳に初めてレッスンを受けました。レッスンを通して、自分の発声が正しくできているって確認できたのは良かったと思う。

―それはどんなレッスンだったんですか?

サマラ:ジャズのボーカルレッスンを3年受けて、フレージングや歌い方のスタイル、声色の使い方といった基礎を学びました。あと、ブレスコントロールやハイトーンの発声方法といったクラシックのレッスンも1年間。これは特にクラシックで大事なスキルだと思いますけど、どんな音域でも一定の強さを保ち続ける方法を学びました。

―クラシックのレッスンを通じて学んだことは?

サマラ:そこで私が学んだメソッドは、一貫して正しい発声が最も大事だということ。これはロック、R&B、ジャズ、ジャンルが異なっても応用可能だと思うし、アーティストとしての基礎作りになると思います。


第65回グラミー賞プレミア・セレモニーでのパフォーマンス

―昨夜のライブでは、さっきもお話されていたハイトーンが非常に印象的でした。ハイトーンをコントロールしながらベンドしたり、そういった特殊なテクニックを身につけるためにどんなことをしてきたのでしょうか?

サマラ:ただトライしているだけ。今でも続けているクラシックのトレーニングがあって、クラシックのレッスンは声域を拡げるのにとても役立っています。でも正直なところ、練習の積み重ねとは関係なく、歌っている時にただ頭の中に音が聞こえてくることがあるから……この発言はちょっと変に聞こえますよね(笑)。つまり、頭の中に浮かんだアイディアをそのまま表現しているってこと。幸いにもウォームアップはできているから、頭にアイディアが思い浮かんだ時に即興ができる。これを実践するには、基礎が整っていて、どうクリエイティビティを掛け合わせるかというバランスが大事だと思います。

―クラシック音楽のボーカリストで特に好きな人は?

サマラ:コンテンポラリーシンガーのネイディーン・シエラ(Nadine sierra)と、ジャニーヌ・ドゥ・ビク(Jeanine De Bique)。彼女たちは30~40代で、ネイディーン・シエラはアメリカ出身。ジャニーヌ・デ・ビケはたしかトリニダード出身だったと思います。彼女たちはヘルシーな声と何でも歌えるパワーを持つ代表的な2人。その上で軽やかさがある。私も歌う時に自由でありたい。練習不足やスキルが足りないことで自分に制限をかけたくないと思っています。




―ボーカリストと言えば、声を楽器として使う手法を拡張したボビー・マクファーリンのような存在もいます。そういった技術に対して関心はありますか?

サマラ:え、私が?……まさか! できるかどうか自信がないから……「もしかしたら?」ですかね(笑)。

―というのも、昨日のライブを観て、あなたの「声」の可能性を感じたんですけど。

サマラ:本当に?

―今のところ、特殊な歌唱法や声の出し方にチャレンジすることには興味がない?

サマラ:今の段階ではないですね。自分にそういったことを強制したくないから。自然に発生する形が理想だと思う。もしいつか、私がアル・ジャロウやボビー・マクファーリンのようになりたいと思う時が来たら、自然と近づいていくような気がします。

―昨日のライブを観ていたら、明日にでもレイラ・ハサウェイみたいに同時に2種類の声を出したりしそうな気がしましたが(笑)。

サマラ:どうだろう(笑)。レイラは信じられないスキルですよね。彼女は素晴らしい歌手だし、私も彼女からたくさんのインスピレーションを受けていますけど。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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