アメリカのバンドマンが居酒屋バイトをしないわけ、もしくは『ラ・ラ・ランド』に物申す

これは友達のGBのウェディング現場(自分の写真ってないものです)。スタイリッシュでも都会的でもないドレスアップした白人がタコ踊りしてる感じ、伝わるといいのですが。この瞬間に演奏されていたのはボン・ジョヴィ「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」

いきなりスイッチが入り、音楽留学のためアメリカに渡米。40代を自分らしく生きる元編集者が、NYの日常と海外ミュージシャン事情を綴る。

※この記事は昨年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.01』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。

こんにちは。唐木元と申します。2年ほど前に軽く気が触れてしまって脱サラ、渡米。ボストンにあるバークリーという音楽大学に留学して卒業したのち、今はブルックリンに居を移して音楽を制作したり演奏したりしています。ミドルエイジ・クライシスっていうんでしょうか、怖いですね。

今の僕はレコード会社との契約もない駆け出しだから、あした幼女誘拐かなんかで捕まったら(しませんが)、日本のテレビのテロップにはたぶん“自称ミュージシャン”って書かれる気がしてるんですが、こちらでは割とミュージシャン面しておりまして、どうしてかというと音楽での収入がちょっとばかりあるからです。

具体的に何をやってお金をもらってるかって結婚式なんですが、こちらのウェディングって生バンドが入るスタイルが多くて、結婚式の他にも、企業の新作発表会から、誰かが昇進したとか果ては子どもの誕生日まで、毎夜数えきれないくらいのパーティがあちこちで催され、パーティには生バンドが入るのがお約束で。

その生バンド文化を裏支えしているのがエージェントと呼ばれる派遣業者。僕がいる東海岸北部だけでも4つの大手エージェントがあり、ミュージシャンはバンマスに勧誘されて、都度、もしくは年間の契約を結ぶことになります。パーティ主催者はウェブサイトから予算とスタイルを申し込むと、ミュージシャンがPA一式とともにデリバリーされてくるという仕組み。

そういったパーティ・バンドのことを、ミュージシャン同士では“GB”と呼んでいます。ギグ・バンドの略なんだけど他にも含意があって、たとえばジェネラル・ビジネス、つまりは何でも仕事ってこと。“クラブ・デイト”と呼ぶ人もいるし、聞いた話ですが西海岸では“カジュアル・バンド”と呼ぶらしい。

バンマスによって異なるのですが、事前に300〜400曲のソングリストが渡され、そのなかから、運が良ければ1週間前、たいていは前日におよそ40曲のセットリストが送られてきます。演目はおおよそご想像のとおり、テイラー・スウィフトにブルーノ・マーズ、スティーヴィーからマイケル、EW&Fのヒットメドレー。あと結婚行進曲は絶対に。

会場は誰かの家かレストランか公民館か、なんにせよ日本の結婚式場に比べたら質素なもんです。バンドさんはたいてい4部構成、入場時に数曲やったのち、カクテルタイム。ここはピアノだけになるので鍵盤奏者はギャラが5割増です。食事とスピーチにひと段落ついたら、あとはお楽しみのダンスタイム、休憩を挟んでたっぷり2セットやるのがお定まりです。

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE