サマラ・ジョイが語る「歌声の秘密」 ジャズボーカルの新星が夢を叶えても学び続ける理由

 
ミュージシャンシップとストーリーテリングの両立

―では、ご自身としては「歌」と「歌詞」を届けるボーカリストという位置付けの方がしっくりきますか?

サマラ:ええ、その表現はしっくりくる。というのも、私は歌を届けることを楽しんでいるから。しかも、その時々で自由にパフォーマンスができるでしょ。例えば、昨夜のライブの曲は長い間歌ってきた曲だけど、そういった曲でさえ、ライブごとにニュアンスや表現は変わるし、声も変わる。その瞬間に私らしく表現できることが大事で、それは私の今を表現する方法としては最適だと思っているから。

―最新作『Linger Awhile』ではレスター・ヤングやファッツ・ナバロのソロに、オリジナルの歌詞を新たに付けていますよね。以前取材したとき「古いスタンダードの中から現代のリスナーに訴える曲を選んでいます」と話していましたが、歌詞を付けることや歌詞の意味も、あなたの音楽において重要なことなんですね。

サマラ:そう、私は音楽を伝える橋渡しができればいいと思っているから。今は「Guess Who I Saw Today」や「Nostalgia」といったスタンダード曲をやっているけど、数年後には自分の曲を発表するかもしれない。だとしても、曲に込められたメッセージは今とは変わらないはず。偉大な作曲家たちの功績を私なりに解釈して、みんなに届けたいと思っているから。




―歌詞を豊かに届けるという点について、どんなボーカリストを研究してきましたか?

サマラ:テクニックとエモーションの繊細なバランスを保つといった特別なスキルは、カーメン・マクレエやサラ・ヴォーンから学んできました。彼女たちは私のフェイバリット。あとアビー・リンカーン、ベティ・カーターも。たとえ1曲しか聴かなくても、彼女たちの曲からは、語り手としてのあるべき姿を感じられる。そして、語ることだけじゃなくて素晴らしいシンガーでもある、その絶妙なバランスを持っているシンガーだと思う。だから私は彼女たちに憧れている。ジャズを始めた時、サウンドを理解するために一番参考にしたのは彼女たちの音楽だった。

―今、カーメン・マクレエの名前が出ましたが、『Linger Awhile』ではセロニアス・モンク作曲の「Round Midnight」を、他の人はあまりやっていないカーメン・マクレエのバーションの歌詞で歌っていたので、あなたが彼女をリスペクトしているのだろうなと思っていました。あなたが思うカーメン・マクレエの魅力はどんなところですか?

サマラ:彼女はピアニストで、メロディを歌う時のハーモニーのチョイスがとてもユニークだと思います。今までに何人もの歌手を聴いてきたけれど、彼女のフレージングと感情表現は飛び抜けている。彼女はタイムを自由自在に操ることができる。しかも、聴いている私たちが気づかないうちに。何度か聴き直した時にやっとその凄さに気づくくらい自然にやっている。フレーズを歌うタイミングが遅れていても、いつのまにか追いついていて、全体として調和がとれていたりもする。たとえメロディから逸れても目立ちすぎないというか……彼女はサラ・ヴォーンほどオペラ的ではないと思うけれど……ベティ・カーターのような自由さもありますよね。その自由さを別の言い方にすると、「自分の曲に作り変えることができる」という感じですね。

カーメン・マクレエは、ピアノを通して曲のハーモニーを理解し、メロディの基礎を持っていると同時に、ミュージシャンとしての感情表現、シーズンシンガーとしての素晴らしいテクニックも備えていた。彼女はミュージシャンシップとストーリーテラーの両方の才能を持ち合わせた稀有な存在だと思います。




―ミュージシャンとしての部分とボーカリストとしての部分が良いバランスで成立しているところは、あなたの目指すところでもあるのでしょうか?

サマラ:ええ、それはジャンルを問わず、表現者にとって大事なことだと思う。基礎を築いて理解すること。さもないと、自分がどこまでいけるかっていう表現の可能性を理解できないままだと思うので。例えば、私にピアノの知識しかなくてハーモニーのことがわからないとしたら、バンドをどうやって引っ張っていけばよいかわからない。他のミュージシャンともうまくコミュニケーションがとれない。私の耳が育っていないから、それ以上の可能性が見いだせなくなるわけですよね。

昔のボーカリストは数枚のレコードしか制作しなかった人も少なくないと思うけど、(短いスパンで多くの作品を発表する傾向にある)2023年の現代において、ミュージシャンシップを持つことは重要だと思いますね。別に何かを示す必要はないけど、それを確立することで世界中で活躍できるアーティストになれるはずだから。

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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