オスカー・ジェロームとは何者なのか? UKジャズの逸材が音楽遍歴を大いに語る

オスカー・ジェローム

 
オスカー・ジェローム(Oscar Jerome)といえば、UKのジャズ・シーンでジョー・アーモン・ジョーンズやココロコの作品に貢献しつつ、自身のソロ作品ではジャズを軸に様々な要素を巧みに融合させた歌もので高い評価を得てきた。

最初期のEP『Oscar Jerome』(2016年)や『Where Are Your Branches?』(2018年)は、そのハイブリッドなサウンドがトム・ミッシュと比較されりしていた。2020年の1stアルバム『Breathe Deep』ではスピリチュアルジャズやアフロビートなども織り交ぜた即興性の高い楽曲でギタリストとしての実力をいかんなく発揮。2022年にはUKジャズ・アーティストが多数参加した『Blue Note Re:imagined II』に抜擢され、「(Why You So)Green With Envy」での空間的なエフェクトを駆使したパフォーマンスで異彩を放っていたし、同年にリリースした2ndアルバム『The Spoon』ではシンガーソングライターとしてのベクトルで新境地を開拓していた。作品ごとに新たなチャレンジをしながら、自身の個性を確立している。

そんなオスカー・ジェロームが5月に来日したので単独公演を観に行ったのだが、これが予想をはるかに超えて素晴らしかった。ギタリストとしての実力もシンガーとしての個性もずば抜けていたし、音源で聴いていたのとは異なるムードやエモーションを持っていた。古典的なジャズから現代ジャズまで、更にはネオソウルもアフロビートも含まれていたし、意外にもUKのギターポップやネオアコにも通じるフォークやロックの感覚もあった。この人はこれまでにどんな音楽を吸収してこんな音楽を作り上げたのか、ますます知りたくなった。

というわけで今回はオスカー・ジェロームとは何者なのかをひたすら掘り下げた。その音楽遍歴はかなり深くて、かなり広い。今、UKから出てきているアーティストが歴史を大事にしながらも自身の感性も信じながら、新たな音楽を作り出していることがわかるだろう。ちなみに彼は最新シングル「Far Too Much」を7月21日にリリース。すでに新たなモードへと動き出している。

 

ギタリストとしてのルーツ

―イギリスのノリッジ出身とのことですが、ロンドンから離れた場所の出身ということは自身の音楽性に関係していると思いますか?

オスカー・ジェローム(以下、OJ):ああ、自然との距離が近い環境で育ったんだ。自然との関わりは自分の音楽にかなり影響を与えていると思うよ。

―10代の頃からソロでライブをやっていたんですよね。当時はどのような音楽を演奏していたのでしょうか?

OJ:クラシックギターを練習したのが初めだったかな。ロックやヒップホップ、ファンクにハマってた。当時好きだったバンドはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、ジミ・ヘンドリックス、ニルヴァーナ。ティーンの頃にはロック・ミュージックをたくさん演奏していた。それから15歳の頃にジャズを学び始めて、作曲をするうえで重要なことをたくさん学んだよ。


2023年5月26日、渋谷duo MUSIC EXCHANGEで行われた来日公演にて(Photo by Yosuke Torii)

―ジャズをやろうと思ったきっかけは?

OJ:父の影響かな。ジャズが好きで、ビリー・コブハム、ジョージ・デュークといったフュージョンをよく聴いていたんだ。あとフランク・ザッパも。父はフランク・ザッパの大ファンだったからね。

ある日、学校のピアノでブルースを弾いて遊んでいたら、先生に「ピアノ奏者が学校に来るから、もしブルースが好きならレッスンを受けたらどう?」って言われたんだ。彼の名前はジョシュ・ダニエルといって、ラスベガスでカジノをしていたり、ビッグバンドのジャズのアレンジメントをしたり……そんな人。彼にピアノを習い始めることになったのはいいものの、僕は本当にピアノが下手で、それも音符から教えてもらうレベルだった。ある時、たまたま僕のギター演奏を聴いていた彼が「ギターは上手じゃないか! レッスンにギターを持ってきなよ」って言ったんだ。それから、彼にギターを学ぶことになって、ジャズやハーモニーを教えてもらった。そして、彼は僕の人生を変えることになったジョージ・ベンソンの音楽を教えてくれたんだ。ジョージ・ベンソンの演奏は、僕にとって衝撃的だった。

―これまでも、ジョージ・ベンソンのファンであることを何度も言及されていますが、どこが好きなんですか?

OJ:ファンクミュージックの要素が感じられる初期の頃かな。馴染みのあるサウンドだって感じたし、彼のパーカッシブで激しいストリングスが好きだった。心に響いたんだ。50〜60年代の彼の初期の作品がお気に入りだよ。そして、ジョージ・ベンソンは、僕にとってジャズギターの世界の入り口なんだ。



―ジョージ・ベンソンの初期の頃は、ウェス・モンゴメリーの要素が強く感じられると思います。あなたはウェスにもたびたび言及していますよね。

OJ:ジャズギターを学ぶ上で、ウェス・モンゴメリーは避けて通れないと思うな(笑)。彼はジャズギターの神様だからね。今までにないサウンドを生み出したんだ。

Translated by Yuriko Banno, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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