アルファ・ミストが語る「ジャズの探求に終わりはない」音楽的冒険を支える仲間たちの貢献

アルファ・ミスト(Photo by Kay Ibrahim)

 
アルファ・ミスト(Alfa Mist)はUKジャズのみならず、世界の音楽シーンにおいても唯一無二の存在だ。トム・ミッシュやジョーダン・ラカイなどとコラボするJ・ディラ系譜のビートメイカーでありながら、ユセフ・デイズやマンスール・ブラウンなどとのセッションでフェンダーローズを奏でる鍵盤奏者でもある。UK屈指のラッパー、ロイル・カーナーの作品ではその両面で貢献していたりもする。

しかも、演奏のみならずコンポーザーとして他にはない個性がある。ヒップホップへの憧憬を感じさせる演奏が得意なのは先にも述べたが、彼はビル・エヴァンスなどを好むオーセンティックな志向性も備えている。それに加えて、21世紀以降のコンテンポラリージャズをも取り入れている。アカデミックな教育は一切受けていない「独学の人」でありながら、ビートを打ち込む傍ら、アヴィシャイ・コーエンやシャイ・マエストロといったジャズの最前線をも自身の音楽に反映させようとしてきた。演奏とビートメイクを兼任し、新旧のジャズをアカデミックではない方法で共存させる。その両方を同時に実践しているアーティストは、他にそう思い浮かばない。

通算5作目となる最新アルバム『Variables』では、その表現が更なる進化を遂げている。トランペット奏者のジョニー・ウッドハム(Johnny Woodham)、ギタリストのジェイミー・リーミング(Jamie Leeming)、ベーシストのカヤ・トーマス・ダイク(Kaya Thomas-Dyke)、ドラマーのジャズ・カイザー(Jas Kayser)という、それぞれ個性溢れるプレイヤーのキャラクターを活かすことで、その音楽を豊かに響かせている。

今回のインタビューでは『Variables』の制作背景に加えて、アルバムに貢献したバンドの仲間たちについてもたくさん語ってもらった。6月5日に大阪、7日に東京、8日に横浜のビルボードライブで開催される来日公演にも、このメンバーが揃って出演予定。ぜひ予習編としても役立ててほしい。



―『Variables』のコンセプトを教えてください。

アルファ・ミスト(以下、AM):今、僕がいる場所について考えること。そして、僕が人生でこれまでに下した決断、もしくは人生によって下された決断についてだね。その決断の結果、僕は今の場所にいる。別の選択をしていたら、僕は別の方向に向かい、別の場所にたどり着いていたかもしれない。このアルバムでは、それがコンセプトになっているんだ。

―サウンド面ではいかがでしょう?

AM:アルバムには10種類の曲があるけど、それはつまり、僕が作ることのできたアルバムが10種類あったことを示している。10曲それぞれのサウンドが、新しいアルバムの方向性になったかもしれない。その可能性の全てを示すことが、サウンド面でのコンセプトだったんだ。

―10の異なる決断があったと。つまり、曲によって別の可能性やポテンシャルがあるってことですね?

AM:そうだね。無限の可能性があるということを表現したかった。例えば、「ギターと歌だけで一枚のアルバムを作る」みたいに、それぞれの曲のサウンドだけで一枚ずつアルバムを作れたかもしれない。伝統的なジャズのアルバムや、ドラムとベースだけのアルバムを作ることだってできたかもしれない。そんな感じで、このアルバムには僕が作れたかもしれない10の可能性が詰まっているんだよ


Photo by Kay Ibrahim

―『Variables』での作曲や制作プロセスはどんなものでしたか?

AM:僕の場合、プロセスはいつも同じ。まず最初にビートを作るから、今までリリースした全ての曲のビート・バージョンも持っているんだ。で、次のステップはそのビートをバンドのみんなに聴いてもらう。そしてスタジオに入って、その場で演奏をテープに録音していく。ただ、今回のプロジェクトでこれまでと違った点は、たくさんのライブをやっている時期にアルバムを制作したこと。だから、ライブで演奏したときのエネルギーがたくさん収められている。その影響で、前作よりもエネルギッシュなサウンドになっていると思うね。より力強いサウンドになったんじゃないかな。

―たしかにライブ感が強いですよね。それもあって個々のメンバーの演奏が活きているし、そこにはコンテンポラリーなジャズの要素が多く含まれていると感じました。そういったインスピレーションはあったりしますか?

AM:僕が本当に尊敬するモダン・ジャズ・アーティストたちはたくさんいる。僕は常にたくさんの音楽を聴いているからね。アーロン・パークス、カート・ローゼンウィンケル、ロバート・グラスパーを始め、素晴らしいアーティストはたくさんいるけれど、「よし、このサウンドを僕も作ってみよう」と考えることはないかな。もちろん、僕の音楽へのアプローチの仕方や音作りにおいて、彼ら一人一人からインスピレーションはもらっていると思うけどね。

―例えば、ギターのフレーズはモダンな現代のギタリストをよく研究してるのがよくわかります。全体的に新しいジャズの技術をインストールした人たちの演奏が入ってるアルバムだなと思ったんですよね。

AM:ピアノだったらブラッド・メルドー、アーロン・パークス。ギターラインは、リオーネル・ルエケとカート・ローゼンウィンケル。トランペットはアンブローズ・アキンムシーレ。彼は本当に素晴らしいトランペット奏者で、僕のお気に入りなんだ。それから、ベースはアヴィシャイ・コーエン。今はとりあえず彼らの名前を挙げておくよ。

―こういったコンテンポラリーなジャズを取り入れているビートメイカーってすごくめずらしいと思うんですよ。

AM:そうなのかな? 僕はほとんどの人と逆のことをしてきたのかもしれないね。ジャズミュージシャンの中には、後からヒップホップに取り組み出した人がたくさんいるけど、僕はその逆だったから。まずヒップホップから初めて、その後にジャズに興味を持った。でもある意味、僕はそっちのほうが面白いと思うんだよね。ジャズって複雑で終わりがないから、永遠に探求が続けられるし、常に新しい発見があるから。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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