大切なことはスケートボードから学んだ Wu-Luの音楽が「何でもあり」になった理由

Wu-Lu

 
Wu-Lu(ウー・ルー)にインタビューすることになって、僕は頭を抱えた。率直に言って、彼の音楽は語るのが難しいからだ。つまり話を訊くのも難しい。

彼のことはロンドンのジャズシーンを調べていく過程で知った。でも、きっとヒップホップの文脈から好きになった人もいるだろうし、トリップホップのように聴こえる部分に惹かれた人もいると思う。Spotifyを見てみると、彼の楽曲「Night Pill」はパンク系のプレイリストにも入っている。パンクやヒップホップが組み合わさっているという意味では、ミクスチャーを継承しているとも言えそうだ。Warpから発表されたデビューアルバム『LOGGERHEAD』には、そういった様々な要素がざっくりと入っていて、曲ごとにテイストが全然違ったりする。それらの要素について、どれか一つにフォーカスするのも違う気がするし、まとめて質問するのもキリがなさそうだ。

どうしようかなと悩んでいたところで、上述の「Night Pill」がスケートボードをテーマに書いた曲で、Wu-Lu自身もスケーターであることを知る。もしかしてWu-Luを語るなら、音楽のスタイルやジャンルではなくて、スケートボードのカルチャーを切り口にしたほうがいいんじゃないかと、そこで思いついた。



スケートボードのカルチャーを遡ると、当初はパンクやハードコアと密接な関係にあり、そこからヒップホップや、その両方を含んでいるミクスチャーなども好まれてきた歴史がある。スケーターたちはスイサイダル・テンデンシーズやNOFX、ビースティ・ボーイズやNAS、スリップノットやKornを、同じカルチャーの一部としてフラットに親しんできた。その感覚こそが、Wu-Luの音楽そのものなのではないか。そんなふうに考えたわけだ。

スケートボードは競技でありながら文化でもあり、音楽やファッションのみならず、コミュニティとの関わり方、生き方や人生哲学に至るまで、スケーターたちのライフスタイルにも影響を及ぼしてきた。以前、スケート文化を愛するジャズ・ピアニストのジェイソン・モランに取材したとき、「何度失敗しても自分なりのチャレンジし続けるところにスケーターの美しさがある」といったことを話してくれたが、その言葉は近年のロンドンを盛り上げている音楽家たちのDIYな姿勢とも重ねられるだろう。

Wu-Lu本人は来日する気満々だ。日本のスケーターにもWu-Luの音楽が届いたらいいなと思いつつ、彼のバックグラウンドについて尋ねた。ここまで饒舌なミュージシャンも珍しい。



―あなたはブリクストン出身ですよね。そこで生まれ育ったことは、自分にどんな影響を与えていると思いますか?

Wu-Lu:俺はブリクストンで育って、ここしか知らないから、どういう影響があったのかよく分からないんだよね。何しろ人生のすべてをここで過ごしてきたから。

ブリクストンには多文化的な環境があって、この辺りにはいろんな種類の人がいる。そしてすごく帰属意識があるんだよね。地域のみんなが顔馴染みだから。俺は人種が混ざっていて、母は黒人、父は白人なんだ。同じ地域に白人の家族もカリブ海の家族もみんないてさ。ジャマイカ料理やアフリカ料理を作る材料も全部近所で揃うし、それと同時に、すぐそこの角でウスター(イングランド国教会のウスター大聖堂がある街)出身の人と立ち話したり。それってすごく重要なことだと思う。

それに俺の10代のすべてがここにあった。すぐ近くにスケートパークもあって、あとはストックウェル・ホール・オブ・フェイムっていうグラフィティで有名な場所もあって。そのすぐ隣にブリクストン・アカデミーもあるし、ブリクストン・マーケットもある。だからスケートをやりたいと思えば行けるし、グラフィティが描きたければ描ける。それで、この地域で似たようなことをしている有色の人たちと繋がってさ。そこからコミュニティの秩序からも学んだね。かなりリアルなんだよ。

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―というと?

Wu-Lu:たとえばスケートパークに行って、自分が大人になる上での悩みとかを誰かに相談したり、自分と似たような経験がある人の話を聞いたり。あるいは誰かと揉めた時にアドバイスをもらったり。そういう時も誰も耳障りのいいことは言わないんだ。何をすべきかものすごく明確な答えが返ってくる。

一度、タバコをくれって年上の人に言ったことがあったんだ。そしたら彼は俺を見て、「いいか坊主、これはお前にやる。でもそれで俺の人生がどうなったか教えてやる」っていうさ。俺に対してすごく真剣に向き合って、まだ子どものうちに分からせてくれた。たぶん俺はそういうものを自分の音楽のなかに取り入れたんだと思う。音楽にメッセージを込める時とかさ。というのも、俺が語ることの多くは、ほとんど若い頃の自分だったり、近所の若い連中に語りかけているようなもんだから。自分で経験したことを元にメッセージを発するっていうね。

単純に「100%リアルであれ」ってことだね。それがあの地域が俺に与えてくれたものかな。イエスか、あるいは断固ノーかっていうさ。

Translated by Akiko Nakamura

 
 
 
 

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