ルイス・コール×長谷川白紙 フジロックで実現した夢のブレインフィーダー対談

ルイス・コール、長谷川白紙(Photo by Kazma Kobayashi)

 
フジロック開催直前の7月25日、長谷川白紙とブレインフィーダー(Brainfeeder:フライング・ロータス率いる、現代ポピュラー音楽を代表する先鋭的レーベル)の契約が発表された。そこで公開された新曲「口の花火」は各方面に衝撃を与え、フジロック2日目(7月29日)深夜のパフォーマンスも、初見の観客まで巻き込んで圧倒的な盛り上がりをみせた。ルイス・コール(Louis Cole)はその直前にWHITE STAGEのトリとして出演。こちらもビッグバンド編成による素晴らしいステージを披露した。

レーベルメイトとなった2人による今回の対談は、同日の夕方、フジロック現地にて行われたもの。お互いの音楽についての印象、「口の花火」にベーシストとして参加したサム・ウィルクス、ジェームス・ブラウンをはじめとした共通の影響源、タイムレスな音楽を作るために必要なことなど、非常に興味深い話を聞くことができた。5月末に行われた長谷川白紙のインタビューとつながる事柄も多いので、併せてお読みいただけると幸いである。(質問作成・構成:s.h.i. 取材:小熊俊哉)

【画像を見る】ルイス・コール×長谷川白紙 フジロック撮り下ろし&ライブ写真(全22点)


−長谷川白紙さんは先日ブレインフィーダーとの契約を発表されたばかりですし、ルイスさんも2018年からブレインフィーダーに在籍しています。今回は、音楽的な共通点が多いと思われるお二人にお話を伺いたいです。まず、長谷川さんはルイスさんのファンだと聞きました。ルイスさんの好きなところについてお聞かせ願えますか。

長谷川:どんなところも好きですけど、パッと浮かぶことで凄く影響を受けていると思うのは、ドラムのサウンドメイキング。もちろん演奏もなんですけど、どちらかというとミキシングの方で凄くくらうことが多くて。あと、非常にシグネチャーなコードワークを持っている。そういったところが凄いと思っています。

ルイス:ありがとう! 僕のミキシングを嫌いな人もいるからね。時々、僕のミックスが完璧にクリーンじゃないことに文句を言う人がいる。そういう時はいつも、もし僕がクリーンにミックスしてたら君はここに来てないだろ?って言うんだ。理解してくれる人もいればそうじゃない人もいるね。僕の曲の中にはクリーンなミックスもある一方で、ダーティーでローファイなのもあるから。一番大事なのは、その曲の良さを引き出しているか。曲に合っていなかったらなんの意味もないだろ?「○○のルールに沿ってなきゃいけない」っていう考え方に固執した人は、一つの解に物事を当てはめようとする。僕はその考え方には懐疑的だね。それよりも、自由でオリジナルなアイデアが含まれた曲をどう提示するか考えている。

−長谷川さんも、ミックスに対して規格外の発想を持ち込んだりしているところもあるのでは?

長谷川:いやー、そんな……そうですかね?  サウンドメイキングについては、たしかに、いろんなことをやったるぞ!とは思っているんですが、そんなに規格外のことをやっているとは思っていないです。わたしが多分求めているのは、質感とかテクスチャーにおいて、異質なものが異質なまま存在するっていうことがものすごく重要で。ルイスも以前言っていましたが、クリーンにすることやナチュラルにすることってやり方が色々あって、簡単というわけではないですが、可能なことなんです。でも、その異質さを損なっていないままの状態が私はすごく好きで、それを求めているところがあります。


Photo by Kazma Kobayashi

−ルイスさんは、長谷川さんのことは知っていましたか。

ルイス:最近、世の中のことをチェックしてないから、音楽を聴いたかどうかはっきりは覚えていないんだ。もしかしたらブレインフィーダーのスティーヴ(フライング・ロータス)やスティーブン(サンダーキャット)が聴かせてくれたかもしれない。僕は名前を忘れっぽいんだ。でも、もう覚えたよ。必ずチェックする。

−せっかくなので、ブレインフィーダーから初めてリリースされたシングル「口の花火」を聴いていただいてもいいですか。

(※iPadで同曲を再生)



ルイス:(MVを食い入るように観て)かっこいい、素晴らしいよ! いい作品だ。ヘッドホンで聴きたいな。あとでチェックするよ。ビデオは誰が作ったの?

長谷川:釣部東京っていう映像制作の方々が監督とエディットをしてくださって、影山紗和子さんというアニメーターが可愛らしいアニメーションを描いてくださり、Yoon Jiさんという韓国のダンサーがダンスパフォーマンスをしてくださいました。あと、海野林太郎さんという現代美術家の方がフッテージを提供してくださって、その要素が釣部東京さんによって繋がれているという感じですね。

−その「口の花火」について、長谷川さんに制作背景を伺いたいと思います。どういった曲を作ろうと思ったのでしょうか。また、自分の中で何かテーマはあったのでしょうか。

長谷川:「口の花火」に関しては、一番にわたしの喉が運動していることを、正確にもう一度捉え直そうと思って作ろうとした曲ではありました。だから、わたしにとっては踊れるものでなくてはならなかったし、非常に異質なものでなくてはならなかったというのはあります。

−この曲でみんな驚いたのが、ベースを演奏しているのがサム・ウィルクスさんだということで。

ルイス:そうなんだ!

−サムさんはルイスさんとも一緒に音楽を作られていますね。

ルイス:彼はとても几帳面で丁寧だよ。ここのパートを覚えてきてほしいって言ったら、彼はオリジナルの意図を見つけるために何時間もかける。知り合ったのは2012年か2013年かな。ノウワーのライブに来てくれたんだ。その頃は新しい音楽についていろいろ試していて、ハウスパーティーでエレクトロニック・ミュージック的な音楽を演奏した。それまでは自分たちのライブをレコーディングしたことがなくて、一体どんな感じに見えるのか気になったから、その日はフロアから動画を録っていたんだ。そしたら一人、めちゃくちゃ盛り上がって楽しんでる奴が映ってて。それがサム・ウィルクスだったんだ。ずっと映ってるんだよ。それまでは自分たちの音楽に満足したことがなかったんだけど、彼の様子を見たら「もしかしたらいけるんじゃないか?」って思ったね。それで彼と仲良くなって、数年後に一緒に演奏することになった。


ルイス・コールとサム・ウィルクス、サム・ゲンデルの共演ライブ映像(2019年)

−長谷川さんがサムさんと一緒に制作をすることになった経緯はどんなものだったのでしょう。彼と制作をやってみてどうでしたか。

長谷川:経緯は、わたしが単純に「この曲のベースはサム・ウィルクスがいい」と言って、頑張って押し通したみたいな感じです。凄かったですね、演奏が。まず、リズムの軸が全然ブレなくて。複数のテイクを貰ったんですけど、どれを使っても問題ないくらい全部のクオリティが高かったし、演奏していくなかでもクリエイティビティが凄くて、各々のテイクでコンセプトが変わっているのが伝わってくる。Zoomで画面越しにレコーディングしたんですが、ビデオで観たとおりの感じで(首を揺らしながら)こんなふうにずっとやってて……。

−揺れてたんですね(笑)。

長谷川:「本当にこれなんだ……!」って。

ルイス:彼はずっと動いてるよね(笑)。

Translated by Emi Aoki, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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