ルイス・コール×長谷川白紙 フジロックで実現した夢のブレインフィーダー対談

 
タイムレスな音楽を作るために必要なこと

−長谷川さんから、ルイスさんに聞いてみたいことはありますか。

長谷川:あーー……めっちゃあります(スマホに用意してきた質問を眺めながら)。厳選しようかな……何個くらい聞けるのかな。

−大丈夫です、どんどんいきましょう。

長谷川:はい。えっと、ルイスが過去のインタビューで、「自分が使ってるコードとかマジで分かんない」みたいなことを言っていて、すごくびっくりしたんですよ。ルイスの曲って、ルイスが作曲したって分かるシグネチャーみたいなコード進行があって。それはなんか、トニックが無限に遅れていくとか、常に3度とか同主調とかの展開が残されているような。浮遊感というのとはまた違うんですが、調整的な重力がないコード進行が上手で、すごく独自だと思っているんですね。だから、私はなんていうか、誰かの音楽理論を引いているわけじゃなくて、自分の中に確固とした理論があって作曲をしているタイプの作家だと思っていたんですよ。それなのに、「コードの名前とかマジで分かってない」みたいなことを言ってたから……。

ルイス:ああ、その通りだよ。

長谷川:じゃあ、じゃあどうやってるんでしょう? 感覚ってこと……?

ルイス:そう。耳で聴いた感覚を頼りにしてる。基礎の理論は知ってるけど、それほど詳しく学んだわけじゃない。

長谷川:……そうなんだ(呆然)。凄い……あんなに、ちゃんとシグネチャーがあるのに。

ルイス:ありがとう。

長谷川:ちょっとびっくりしすぎて……。あと聞きたかったのは、それもおなじインタビューで知ったんですけど、合唱音楽からすごく影響を受けてるとルイスが言っていたんですね。確かに、いつも使っているコーラスワークとか、お家でみんなでやっている映像とか、外でみんなで歌っている映像を観ても、サウンドメイキングを聴いても、コーラスのテクスチャーがルイスに与えている影響というのは、印象的には分かります。それで、日本の音楽教育って合唱が課程であるじゃないですか。で、みんな歌うことになるじゃないですか。半ば強制的に。それが良くも悪くも、日本の音楽シーンや音楽家の醸成に与えている影響ってすごく大きいんじゃないか、合唱と吹奏楽部はすごく大きいんじゃないか、って私は思っていて。それで気になっていたのは、ルイスが育ってきた環境で合唱ってどういうものだったのか、どういう過程で合唱に触れていたのかということなんです。

ルイス:子供の頃に合唱はしなきゃいけなかったけど、好きでやってたわけじゃないよ。みんな下手だったし、いつも歌うフリをしてた。それが、21歳になったあたりから音楽を深くやるようになって、コーラスを聴いた時にやっと気づいたんだ。「これはタイムレスな音楽だ!」って。

長谷川:ボーカルのスタイルも興味深いです。わたしもすごく影響を受けているんですが、トラックがどんどん複雑になっていったり、わけの分からないコードワークであったりしても、ファルセットですごく軽い響きに音が乗っている。そこが全然ブレないことがずっと気になっていて。そういうボーカルのスタイルといつ出会ったというか、自分の中で生み出したものなのかは気になります。

ルイス:19歳の頃、車で歌ってた時にコードにメロディがはまる感覚が気に入ったんだ。なんか、しっくりきたんだよね。あとは、僕の声の音域が影響してる。低音域はあまり得意じゃないんだ。


Photo by Kazma Kobayashi

−先ほどルイスさんが「タイムレスな音楽」という表現を使っていましたが、お二人の作る音楽は革新的でありながらタイムレスな音楽だと言えそうな気がします。そういった「タイムレスな音楽」を作るためには、何が必要で、何が大事だと思いますか。

ルイス:良い質問だね。そうだな……客観性も含みつつ、アイディアがユニークで良いもの。もし目指すべきものがあってそれにオリジナリティがあれば、間違った方向にはいかないだろうし、道を見失うことはないはず。僕はそう信じてるよ。

長谷川:わたしもルイスの話を聞きながら、ずっと考えていたんですけど…… おそらく、なんというか、あるものがタイムレスであると形容される時に、何がタイムレスを可能にしているのかについて考える必要が、少なくともわたしのスタイルにおいてはあります。例えば、歴史的に見た時に、一つのアイコニックなアイデアが発生している人の前にも同じようなアイデアを持っている人がいたんだけども、なぜか後のほうだけが残ったっていう例は結構あると思うんです。それはなぜかっていうと、多分プレゼンテーションの強度っていうものがあって、ある一つのアイデアやある一つのクオリティということではなくて、なぜそれをこの人がやらなければならなかったのか、そういう「やり方」がすごく大事なことなんだと思います。わたしはどうしても穿った見方というか、なんというか、斜めからずっと見ているようなタイプの人間なので、あんまりこう……この場には合っていないかもしれないですが。タイムレスな音楽を作るためには、逆説的に「タイム」が何を風化させて、何を残すのかっていうことについて、そこに規範性が強く関わっていることを強く意識しなければいけない。今、わたしが「何をすべきか」っていうプレゼンテーションをちゃんと行えているとするならば、わたしは自分自身のことを「タイムレス」と形容できるかもしれないです。

ルイス:そういう考え方もおもしろいね!


Photo by Kazma Kobayashi




長谷川白紙
「口の花火」
配信:https://hakushihasegawa.lnk.to/mflashYo


ルイス・コール
『Quality Over Opinion』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12961

Translated by Emi Aoki, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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