「33回刺した」16歳の女性死刑囚なぜ死刑を免れることができたのか? 米

ポーラは授業をサボり、学校で女友だちとケンカするようになった――1年に2~3回、次から次へと転校した。ロンダがいなくなったため、ハーマンの暴力は妹に向けられた。

ポーラは1人で家出する術を身に着けた。ある時、父親に殴られたポーラは警察署に逃げ込み、家以外ならどこでもいいから住む場所を見つけてくれと懇願した。

ポーラは13歳だった。その後2年間、他人の家を転々とした――里親の家、シェルター、少年院。だがいずれも数週間、長くても数カ月おきに両親の元に戻され、悲惨な目に遭った。

14歳の誕生日を迎えてまもないある朝、ポーラは自宅のベッドから出てこなかった。誰とも口を利かなかった。目もあけなかった。まるで緊張病にかかったかのようだった。グロリアが何を言っても、何をしても、ピクリともしなかった。しまいには、事態の重さをみかねた母親が娘を医者に見せた。様子を見るために、ポーラはイーストシカゴの精神病センターに入院した。

4日後、彼女は退院した。退院後は再び両親のもとに送り返された。

とある火曜日の昼休み、15歳になったポーラ・クーパーはカレンとエイプリルを連れて外に出た。ホワイトデニムのジャケットのポケットには、処方箋と母親からのメモが入っていた。避妊薬の補充をもらうための早退届けだ。3人の高校1年生は、道路の角にあるキャンディランド・アーケードへ向かうことにした。

ポーラは数週間ほどリュー・ウォレス高校――4回目の転校先――に通っていたことがあり、カレンはその時の親友だった。16歳のカレンは大柄で、ときどき息切れした。童顔のせいか(眉毛に傷があったが)周りからはプーキーと呼ばれていた。すでに3歳の息子がいて、普段は家で名付け親に預けていた。エイプリルも同じような道をたどっていた――だがこの時はまだ、妊娠7カ月を隠し通せていた。

少女たちは数ブロック歩き、グレンパークを通り抜け、45番街を下ってブロードウェイへ向かった。アーケードでゲームをし、男の子たちとおしゃべりして、お菓子を買った。たいしたこともなく、3人とも退屈していた。

3人は午後いっぱい学校をサボることにした。エイプリルが年下の女の子を誘った。他の2人とは初対面の、デニースという14歳の中学1年生だった。4人は3ブロック先にある、エイプリルが姉妹と住んでいる家へ向かい、ポーチに座ってワイルド・アイリッシュローズを飲んだ。その週の初めに少女たちは隣人の家で盗みをしていたが――裏口近くの窓を割って侵入し、90ドルを取って逃げたのだ――盗んだ金はほとんど使い切っていた。お菓子を買った後、4人の手元には25セント硬貨が数枚残っているきりだった。


ルース・ペルケさん(COURTESY OF PELKE FAMILY)

エイプリルが自宅の真裏に住む老女のことを持ち出した。「あのおばさん覚えてる? 前に裏に立ってた人」 ポーラとカレンは老女を覚えていた。「あのさ、おばさんとこに押し入ろうよ」とエイプリル。「大金やら宝石やらいろいろ持ってるんだよ」。

少女たちが話しているのは、裏道の向かいにあるルース・ペルケさんの家だ。玄関に円柱のある真っ白い家だ。ペルケさんについて知っているのはエイプリルから聞いた話だけだった。聖書を教えていて、高齢で、一人暮らし。聖書の勉強について聞けば家の中に入れてもらえる、とエイプリルは言った。

気温の高い午後3時すぎ、ポーラとデニースとカレンはエイプリルの家のポーチを出て、聖書教師を訪ねた。アダムス・ストリートの白い家の裏道を渡った。

3人は刈り込まれた平坦な芝生を横切り、階段を上った。玄関のひさしの下にある、手入れの行き届いた2本のシダと両サイドに建つ円柱を通り過ぎ、ポーチの上に集まった。

カレンが呼び鈴を押した。

ポーラは耳を澄ませた。床板の向こうからゆっくり足音が近づく。ガラス窓の向こうの動きが手に取るようにわかった。ペルケさんがドアを開ける。ポーラはカレンの背中越しに、初めて老女を見つめた。ひょっとすると農場育ちで工場勤めだったかもしれないが、ペルケさんは上品な女性で、白くて細い首をしていた。カールした明るい白髪はセットされ、頭の上に眼鏡をのせていた。優しく、落ち着いたまなざしだ。背はポーラよりわずかに低い程度だったが、ずっと小柄に見えた。誰もが思い浮かべるいいおばあさん、優しいお母さんだった。

「伯母が聖書のクラスについて知りたがっているんです」とカレンが言った。「いつ開催されていらっしゃるのかなって」。

「今は都合がよくなくてね」と老女は言った。「伯母さまと一緒に土曜日にいらしてくれたら、詳しく教えてさしあげるわ」 ペルカさんはそう言ってドアを閉めた。

少女たちはゆっくり方向転換し、来た時と同じ道を戻っていった。

「じゃあ、これでおばさんを脅そう」――家に戻ると、エイプリルはポーラにそう言った。少女たちはキッチンに立っていた。エイプリルは引き出しからナイフを取り出した。幅広で刃渡り12インチの肉切り包丁だ。

今度はおばさんの家に行って、クラスの情報を紙に書いてほしいと言わなきゃ――日にちとか、住所とか、電話番号とか。ポーラはホワイトデニムのジャケットを脱いで、ナイフをくるんだ。

一行は裏道を渡り、再び角を曲がって、アダムストリートの入り口を歩いて行った。

再びカレンが呼び鈴を鳴らす。

再びペルケさんがドアを開けた。一番後ろにいたポーラはジャケットを胸元に抱えた。ペルケさんが網戸を開ける。1人、2人、3人。少女たちはそれぞれ敷居をまたいだ。

居間に入ると、大きな暖炉があった。壁紙にはツタ模様が広がり、書き物机には葉っぱがプリントされていた。そこかしこに、穏やかな風景や雪が積もる小屋などの小さな写真が飾ってある。ポーラは注意深くジャケットをソファの上に置いた。

一行は老女の後に続いてダイニングルームに入った。大きなテーブルに足踏みオルガン、書き物机。机の上には息子のオスカーさんが少年時代、馬の隣に立つ白黒写真が飾ってある――少女たちはそれが誰だか分からなかったし、この家でその写真がどれだけ重要なのかも知らなかった。ペルケさんは机の前で立ち止まり、紙とペンを引き出しから取り出した。少女たちに必要な情報を書きとめるためだ。老女がかがむ――するとポーラが後ろから近づいて、突き倒した。

ペルケさんはカーペットの上に座り込んだ。両脚を前に広げ、厚底シューズのつま先は天井を向いていた。手の届くところ、テーブルの上にガラスのペーパーウェイトがあった。ポーラはそれを取り上げ、老女の頭に振り下ろした。

一瞬、時間が止まった。すると老女の頭から赤い鮮血が吹き出した。血は飛び散り、白髪が赤く染まった。

ペルケさんはぴくりともしなかった。ポーラは老女を見下ろした。今までこんな風に誰かを、ましてや大人を叩きのめしたことはなかった。

のちにポーラは、この後のことをこう振り返る。突然、テーブルの上にナイフがあった。ちょうどそこに、手の届くところにあったのだと。彼女はナイフに手を伸ばした。


ポーラ・クーパー(2012年)とビル・ペルケさん(2015年)SARAH TOMPKINS/THE TIMES/AP; CHRISTIAN K. LEE/AP

Akiko Kato

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