「33回刺した」16歳の女性死刑囚なぜ死刑を免れることができたのか? 米

淡いイエローの家は、街を構成する多くの家と変わらなかった。場所はインディアナ州ゲーリー。日の出から1時間が経過していた。ウィスコンシン・ストリートのこの家に、1人の女性が娘2人と暮らしていた。姉のロンダは12歳、妹のポーラは9歳。1979年のことだ。

母親――名前はグロリア――は、娘たちを急き立てて朝日の下に連れ出し、その後ガレージの奥へ、さらに赤いシヴォレーベガの後部座席へ押し込んだ。少女たちはまだ幼く、へとへとに疲れ切っていた。2人は母親がどうするつもりか分かっていた――母親が夜通し話をするので、寝かせてもらえなかったのだ。最初は優しい声で、その後は怒鳴り声で、最後にはすすり泣きながら――娘たちは抵抗するのを辞めた。

娘たちを車内に押し込むと、グロリアはガレージの扉をコンクリートの床まで引き下ろした。彼女は運転席に滑り込み、窓を降ろして、車のキーを回した。エンジンが低くうなり声をあげる。母親は娘たちが目を閉じ、うつらうつらと眠りに落ちるのを待った。茶色い肌をした、小さく整った娘たちの顔がバックミラーに映る。3人はじっとしていた。まるで水の中にいるように、手足が重くなった。

エンジンは回り続けた。数分が経過し、空気が重くなった。

ガレージの外では隣人が起き出していた。ガレージの中では、少女が不自然な眠りに堕ちていった。

その後にロンダが覚えているのは、二段ベットの下段で、ローラと隣合って横たわっていたことだ。どうしてそうなったのかは分からない。2人ともまだこの世を去ってはいなかった。グロリアが娘たちの上にかがみこむ。もう大丈夫よ、と言って、母親は出て行った。

どのぐらい時間が経過したのだろう、ロンダは身体を動かせるようになった。ゆっくりと起き上がる。ドアに母親からの手紙がテープで留めてある。「お母さんは予定通り、やり遂げます」。ロンダはキッチンへ駆けていき、伯母を呼んだ。伯母は、走って隣人を連れてくるようロンダに命じた。窓越しに、ガレージの扉の下から排気ガスが朝日に向かって漏れているのが見えた気がした。

ホリス氏がグロリアをガレージから引っ張り出し、芝生の上にあおむけに寝かせた。彼は膝をつき、肘を寄せ、両手を重ねてグロリアの胸元を強く押した。何度も、何度も。道向かいに住む看護婦の隣人も駆けつけ、交代でグロリアの蘇生を試みた。

救急車と消防車が到着し、今度は救命士がグロリアの救助に当たった。その頃にはポーラも外に出て、立ったまま様子を眺めていた。見知らぬ他人が母親の胸を推しているのを見た妹がヒステリーを起こすのが見えた。何度やってもグロリアは反応しなかった。

ロンダが一生引っかかっていることがある。誰も2人を診察しなかったのだ。消防士も、救命士も、2人の脈をとることすらしなかった。グロリアが病院に搬送され、姉妹は伯母の元に預けられた。1週間後に母親が早期退院した時、誰もなにも訊かなかった。母親が娘を引き取りに来た時、止めに入った者もいなかった。

何が妹を変えたのか分からない、とロンダは長年言い続けていた。だが今になって、問題の答え合わせをするかのように、あの時がそうだったのだと語った。あれがポーラの変化の始まりだったに違いない、と。「だってそうでしょう。私たちはみな死ぬはずだったんです。自分たちも覚悟していましたし、それを望んでいたんですから」 だが3人は生き残った。これから先――あの黄色い家で、どう暮らしていこう?

Akiko Kato

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