本当は無実かもしれない5人の凶悪殺人犯

5つの事件は当然有罪になると見られていた――が、真相は違うと支援者たちは言う(Photo by ZUMA)

近年、実録犯罪ものが再びブームになっている。とくに注目を集めている冤罪ものでは、様々な司法制度の過ちに光が当てられる。

闇に葬られた証言、矛盾する時間軸、視野の狭さ、主観的状況証拠や心理的プロファイル頼みの捜査や、昔からよくある手抜き捜査――こうした冤罪の特徴が、長年有罪確実と考えられてきた有名事件にも当てはまるとしたら? 米国で起きた5つの殺人事件を例に挙げてみる。

・スコット・ピーターソン


スコット・ピーターソン(中央)をテーマにした最新ドキュメンタリーは、彼が無実である可能性を示唆している(Photo by Bart Ah/Getty)

A&Eネットワークで放送された6話完結のドキュメンタリー『The Murder of Laci Peterson(原題)』は、長らく解決したと思われていた事件を違う視点からとらえた作品だ。ドキュメンタリーでは、今は死刑を待つ身のスコット・ピーターソンの貴重な音声が登場する。妊娠した妻が失踪して殺害されてから彼はめったに発言せず、証言台に立つことはなかった。検察側の勝利に終わった事件は、彼の家族や弁護団、法律の専門家やジャーナリストに話を聞きつつ、公判中の映像や、有罪と死刑の評決を支持する陪審員とのインタビューを交えて、徹底的に検証される。

陪審に提示された証拠の中でもとくにひどかったのが、ピーターソンとアンバー・フレイ氏との束の間の情事だ。2人は妻のレイシーさんの失踪後も連絡を取り合っていた。フレイ氏は警察に協力してひそかに通話内容を録音したが、有罪につながる証拠は何ひとつ掴めなかったものの、ダメージは絶大だった。ピーターソンが結婚生活と父親になることに不満を抱えていたことを示す証拠はこれだけだったが、検察側は殺人の動機として位置づけた。

検察側は、レイシーさんがどこで、どうやって殺害されたか、という仮説を立てられなかった。ピーターソン宅からも、彼が所有していた倉庫からも、サンフランシスコ湾に遺体を捨てるときに使ったとみられるボートからも、血痕や争った形跡は一切発見されなかった。ピーターソンは警察に対し、その日はバークレー・マリーナで釣りをしていたと供述した――3カ月後、まさにその場所でレイシーさんとお腹の胎児が(別々に)発見された。偶然であるはずがない、と検察官は主張した。だがピーターソンのアリバイは衆知の事実だった――ドキュメンタリーは他の誰かがレイシーさんを殺害したと仮定し、もしピーターソンに罪を着せて容疑を逃れようと思ったら、どこに遺体を捨てるべきか分かっていたはずだ、と論じている。

次に登場するのが、20名以上の近隣住民の証言だ。隣人たちはその日の午前中、レイシーさんによく似た妊婦が犬を散歩している姿を見たと供述したが、検察はすでにレイシーさんが死亡したと主張した後だった。警察はろくに確認もせず、これらの証拠は信憑性に欠けるとして却下した。だがドキュメンタリーでは、こうした目撃証言を裏付けるとみられる新たな証拠として、いつもピーターソン家に郵便物を届けていた郵便局員の証言を紹介している。ピーターソン夫妻はマッケンジーという犬を飼っていて、郵便物を届けるたびに必ず吠えた。だが、クリスマスイブの日は静かだった、と局員は語った。つまり、その日家には誰もいなかったということだ。局員のデジタルスキャナーの記録によると、ちょうどレイシーさんの目撃情報と同じ時間帯だった。もしピーターソンが家を出た後、レイシーさんがまだ生きていて犬を散歩していたなら、彼が彼女を殺害することはできなかったはずだ。

もしスコット・ピーターソンが無実なら、誰がレイシーさんを殺したのか? 複数の目撃者が、クリスマスイブの朝にピーターソン宅の道向かいで強盗があったと証言している。そのうちの1人は、強盗に関与した2人の男とレイシーさんが対峙しているのを見た、とまで言っている。ドキュメンタリーによれば、なかなか筋の通った説明だ。

・でっちあげ? 捜査ミス? 無実を訴える殺人犯の顔(写真)

Translated by Akiko Kato

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