ジャクソン・ブラウン来日取材 亡き盟友への想い、ウクライナ情勢、ニコとザ・フーを巡る秘話

ジャクソン・ブラウン、ツアー初日の大阪公演にて(Photo by KAZUKI WATANABE)

 
3月20日の大阪からジャパン・ツアーが開幕、広島、名古屋を回って残るは東京公演のみとなったジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)。続くインタビューはツアー初日の前週に東京で行なったもの。話は突如リリースされたブレイク・ミルズらとの共作曲から始まり、交流が続くフィービー・ブリジャーズ、相次いで亡くなった盟友、ジェフ・ヤングとデヴィッド・リンドレーへの想い、ウクライナ情勢、そして現在進行中のプロジェクトについてと多岐に及んだ。

今年で75歳になるジャクソンだが、好奇心旺盛で若い友人たちの話になると目が輝く。会話している間もスマホで素早く検索してあれこれ確認、感性の若さが所作から伝わってくる。前夜まで追悼する文章を悩みながら書いていたというデヴィッド・リンドレーや、長い間活動を共にしたジェフ・ヤングについては、さすがに話しながらしんみりする場面もあったが、残された側として彼らの貢献を語り継いでいこうという強い意志が感じられた。


ツアー初日の大阪公演にて(Photo by KAZUKI WATANABE)


ジャクソン:(テーブルに置いたLPの中から『愛の使者(Lawyers In Love)』のジャケットに手を伸ばして)これを見せてもらってもいいかい? 裏に当時のメンバーの顔写真が載ってるから見たいんだ。

―どうぞどうぞ。

ジャクソン:(写真を指差しながら)これがラス・カンケル(ドラマー)……これがオルガンのダグ・ヘイウッド……このLPはOBIが付いてるんだな。この下に隠れているボブ・グラウブ(ベーシスト)の顔が見たいよ。

―帯をご存じなんですね……あっ、そんな風に引っ張ったら破けちゃうんで(慌てて帯を外す)。

ジャクソン:ボブはこんなだったか、おかしいね……(当時の髪型を見て苦笑)。


『愛の使者』ジャケット写真(discogsより引用)

―この『愛の使者(Lawyers In Love)』のユニークなジャケットは、誰のアイディアでこうなったんですか?

ジャクソン:僕のアイディアだよ。この自動車は、エンジニアのグレッグ・ラダーニのものなんだ。彼は本当にいいやつで、こういうジャケットにしたいと説明したら興味を示して、気前よく車を貸してくれた。それでどうやってこの写真を撮ったかというと……地面に穴を掘ってメルセデスを途中まで埋めた(笑)。で、周りに水を注いで実際にこの状態にしたってわけ。

―なんてことを……。

ジャクソン:弁護士(Lawyer)が乗りそうな車種にしたかったから、メルセデスはちょうどよかったんだ。以上がこのジャケットの真相。まあ、これは僕のベスト・レコードとは言えないけれど。

―ありがとうございます。今日は、あなたの古い友人たち、新しい友人たちについて、いろいろ質問させてください。近年うれしいのは、あなたが若いミュージシャンたちと積極的に交流していることです。ちょうど今月、ドラマ『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』に提供した曲、「Silver Nail」が公開されたばかりですが、ブレイク・ミルズ、キャス・マックームス、マット・スウィーニーとあの劇中歌を共作することになったいきさつを教えて頂けますか?

ジャクソン:もう公開されてるの!? 全然知らなかった。あの曲がどういう風に仕上がったのか聴かせてもらってすらいないからさ……タワーレコードに買いに行かなくちゃ。君、今そのアルバム持ってる?

―いや、あの曲はデイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスとしてのアルバムには入ってなくて、配信で聴けるようになったところです。どういう経緯であの曲を共作することになったんですか?




ジャクソン:ブレイク・ミルズは仲のいい友達だから。彼から電話で一緒にやりたいと言われて、やってみることにした。僕が手伝ったのは歌詞で、あのドラマのために書いたのは1曲だけ。原作の小説は読んでいたから、まあ内容はだいたい理解していたよ。

ブレイク・ミルズがサイモン・ドーズという、ドーズ(Dawes)の前身に当たるバンドをやっていたことは知ってるよね? 彼はテイラー・ゴールドスミスと、まだ高校生だった10代の頃から共にプレイして腕を磨いてきた。彼らは僕にとてもよくしてくれる、大好きな人たちだよ。

ブレイク・ミルズとはヴァル・マッカラム(ジャクソンのバンドのギタリスト)を通して知り合ったんだ。彼とヴァルはトニー・バーグがプロデュースした作品で一緒にプレイしていた。トニーはサイモン・ドーズのアルバムや、ヴァルのアルバム(2012年の『At The End Of The Day』、ジャクソンもコーラスで参加)、フィービー・ブリジャーズのアルバムも手掛けていて、本当に素晴らしいプロデューサーだと思う。彼らの周辺にあるシーン全体が、僕にとってインスピレーションの源になっているんだ。

ブレイク・ミルズの『Break Mirrors』(2010年)は傑作だったね。彼とはパーティーなんかで何度かセッションしたし、彼のライブも観に行ったりして親しくなった。ブレイクはツアー生活が嫌でサイモン・ドーズから脱退したことがよく知られている。彼のような若いミュージシャンはそういうとき路頭に迷ってしまいがちだが……ブレイクは賢明で、その後裏方としてスタジオワークに力を入れ始めて、瞬く間にプロデューサーとして売れっ子になった。最近はトニー・バーグと一緒にスタジオを構えて活動しているし、とても意欲に満ちた男だと思うよ。


ジャクソン・ブラウンとブレイク・ミルズのセッション動画(2013年)

―そしてフィービー・ブリジャーズとの交流も話題です。すでにビデオや、彼女のシングルで共演してかなり打ち解けたと思うのですが、彼女からはどんな刺激をもらっていますか?

ジャクソン:おお……(ため息)。彼女は僕のフェイバリット。友人でもあるけど、もうすっかり彼女のファンだし、とても刺激を受けている。あまりにも大きな才能の持ち主だ。僕が彼女の作品にこんなに心を動かされるのが何故なのか、言葉で説明するのは難しいけれど…声の抑揚や、歌唱のシンプルさが、ストーリーテリングに深さを与えている気がする。しかも多くのラインを費やせず、ほんの数ラインで、とても説得力のある伝え方ができるんだ。天才的だと思うよ。


フィービーが出演した「My Cleveland Heart」MV

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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