フジロックで名演、Dawesが語るジョニ・ミッチェル復活劇と音楽的チャレンジ

ドーズ、フジロック’22にて(Photo by Hachi Ooshio)

これでもか!!と照りつけていた太陽がようやく沈み、涼やかな風に身をあずけて、私自身がフジロックに戻ってきた喜びに浸っていると、19時半オンタイムでバンドが登場した。初日のフィールド・オブ・ヘヴン、夜の幕開けを任されたのは、ドーズ(Dawes)だ。出囃子の「苗場音頭」に意表を突かれつつ、1週間前にリリースになったばかりの最新作『Misadventures of Doomscroller』のオープニング曲「Someone Else’s Cafe / Doomscroller Tries To Relax」が始まるや、ステージ前に詰めかけた熱心なファンから大きな拍手が!!

【画像を見る】ドーズ フジロック’22ライブ写真(記事未掲載カット多数)

ギターを抱えて中央に立つテイラー・ゴールドスミス(Vo,Gt)。向かって左にサポート・ギタリストのトレヴァー・メネア、その後ろにリー・パルディーニ(Key)、向かって右の奥にはテイラーの実弟グリフィンがドラム・セットを構え、手前にいるウィリー・ゲルバー(Ba)は、まぁ、よく動き回る。テイラーが繰り出すギターが、乾いたリズムに絡み付いていく。心地よさを増幅させるビター・スウィートな歌声に聞き惚れていると、徐々に演奏のグルーヴが大きくなっていき、ヘヴンの会場をまるっと包み込んでいた。清涼感のあるコーラス・ワークもよく映える。グッド・メロディと、ダイナミックかつ曲によっては即興性を発揮する演奏がバランスよくブレンドされてバンドを動かしている。各人の確かなスキルに裏打ちされた演奏は緩急自在で、人懐こさをもって観客を巻き込んでいく。フランク・ザッパやハービー・ハンコックにピンク・フロイド、グレイトフル・デッドまでをインスピレーションにした最新作からは序盤に2曲、その他彼らの歴史を網羅した選曲は、初来日を意識してくれたのだろう。で、ラストは「All Your Favorite Bands」で泣かされた。本当にドーズを観ることができたんだなぁと、ひとしきり感激。


フジロック’22にて、左からトレヴァー・メネア、リー・パルディーニ、テイラー・ゴールドスミス、グリフィン・ゴールドスミス、ウィリー・ゲルバー(Photo by Hachi Ooshio)

ロサンゼルスを拠点にするフォーク・ロック・バンドとして2009年にデビューしたドーズ。その前身バンドであるサイモン・ドーズは、高校の同級生だったテイラーとブレイク・ミルズによって結成された。ミルズ脱退後にバンドはドーズと名前を変えたが、今でもテイラーと、ソロで活躍するミルズは、折にふれコラボレーションする友人同士だ。

ファーザー・ジョン・ミスティからロジャー・ウォーターズまでを手がける売れっ子プロデューサー、ジョナサン・ウィルソンのキャリアも、このドーズと共にスタートしたと言っていいだろう。2000年代後半、ジョナサンが自身のスタジオにコナー・オバースト(ブライト・アイズ)、クリス・ロビンソン(ブラック・クロウズ)やベンモント・テンチ(ハートブレイカーズ)らを招いてセッションを行なっていたところにドーズのメンバーも参加しており、その流れでドーズの最初の2作『North Hill』(2009年)と『Nothing Is Wrong』(2011年)はジョナサンと制作、これらが2000年代のローレル・キャニオン・サウンドとして注目され、両者は音楽ファンにその名を知られることとなった。2011年には、ジャクソン・ブラウンのバック・バンドを務める機会にも恵まれた。

また2014年、T・ボーン・バーネット監修により、1966年にボブ・ディランが書いた幻の詩に音楽をつけて演奏するプロジェクト、ザ・ニュー・ベースメント・テープスにテイラーが、エルヴィス・コステロやジム・ジェームス(マイ・モーニング・ジャケット)、マーカス・マムフォード(マムフォード&サンズ)らと参加したこともドーズの知名度を上げるのに役立ったはずだ。

かようにして、テイラー・ゴールドスミス、あるいはドーズは、気づくと“いいところ”に顔を出しているのである。

テイラーに取材したのは、フジロック出演の前日、東京のホテルのカフェだった。その数日前からネット上ではニューポート・フォーク・フェスティバルで歌うジョニ・ミッチェルの姿が拡散され続けていた。ブランディ・カーライル&フレンズによるジョニ・ジャム(ジョニ・ミッチェル・トリビュート)のステージでテイラーは、「Come In From The Cold」をジョニと歌っていた。ほら、また“いいところ”にいる!!  そんな奇跡にも近い出来事を当事者の口から聞けるチャンスでもある。思いのほか小柄なテイラーと挨拶を交わし、2022年春に筆者が編集を担当した書籍『ウエスト・コースト・ロック読本』(シンコーミュージック・刊)を渡すと、ファントム・プラネットやファーザー・ジョン・ミスティの写真を見つけて「友達なんだ!」と嬉しそうだったが、ドーズの写真を見つけたときの感嘆は一際大きかった。


テイラー・ゴールドスミス(Photo by Hachi Ooshio)

—この本に掲載されているような70年代のウエスト・コースト・ロックは聴いてきましたか?

テイラー・ゴールドスミス:もちろん。でも、デビュー作の頃、自分たちの音楽がロサンゼルスの音楽っぽく聞こえていることには、気づかなかったんだ。僕たちとしては、ボブ・ディランやCCR、ザ・バンドやジョン・プラインなんかを意識していたからね。でも、みんながウォーレン・ジヴォンやジャクソン・ブラウン、ジョニ・ミッチェルの名前を出して「ロサンゼルスっぽいねぇ」なんて言ってくれたから……僕たちの血の中にロサンゼルスが入っているってことだろうね(笑)。

—今名前が出たジョニ・ミッチェルと、つい先日同じステージに立って歌っていましたね。

テイラー:たった2日前のことだよ!!(と胸に手を当ててうっとりと感慨深げな顔。実際には現地7月24日の出来事)。

—その話を聞きたくて(笑)。

テイラー:(笑)彼女は僕のナンバー1フェイバリットだよ。あのステージは、僕のキャリアの中でも最高の喜びだったね!!


ジョニ・ミッチェルと一緒に歌うテイラー・ゴールドスミス、ニューポート・フォーク・フェスティバルにて

—実際の会場の空気は、どんな感じだったのですか?

テイラー:彼女の出演は観客にとってはサプライズだったから、約1万人の観客は本当に盛り上がったよ。彼女はもうお年だから心配な面もあったんだけど、いざステージに出たら、踊りまくって、ずっと笑顔で。会場中がグッド・エナジーに包まれていた。そして一旦彼女が歌い出すと、その声は本当に奥深くて、感動的だった。僕は泣かないように頑張っていたんだ、泣いている僕に注目が集まったらまずいと思って(苦笑)。それでも泣きそうだったけど……ってあとでジョニに言ったら、「私は全然!!」って(笑)。今もまた泣きそうだよ。

—(笑)。私は、心おきなく泣かせていただきましたし、世界中でたくさんの人が泣いたと思います。

テイラー:彼女は大きな手術をしていて、だから人々はみんな、もう彼女が2度と歌えるようになるとは思っていなかった。ところが、彼女は歌ったんだ。それが実現したということに、みんなは何かを感じ取って泣いたんだと思うよ。

Translated by Miho Haraguchi

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE