ウクライナ情勢について思うこと―貴重な話をありがとうございます。さて、あなたに影響された若いミュージシャンたちの話を聞いていると、『レイト・フォー・ザ・スカイ』や『フォー・エヴリマン』など、初期のアルバムに人気が集中しているように思います。でも、『ライヴズ・イン・ザ・バランス』や『ワールド・イン・モーション』など、社会的なテーマを取り上げた80年代のアルバムの曲も、もう少し若い人たちに聴かれるといいのにな、と思っていて。ジャクソン:うん、わかるよ。それは人々が何に耳を傾けるか、何に注意を払うかが変化してきたことと関係していると思う。テイラー・ゴールドスミスが生まれたばかりの赤ちゃんと動画を送ってきてくれて何ともかわいかったんだけど、彼は最近「カット・イット・アウェイ」をよく聴いているそうだ。それにしても「カット・イット・アウェイ」とは……どのアルバムに入ってたっけ?
―『愛の使者(Layers In Love)』です。ジャクソン:そうか、もう誰も聴いてない曲だと思っていたよ(笑)。80年代当時の僕に何が起きていたかというと、アレンジのやり方について学んでいる途中だった。デヴィッド・リンドレーがバンドを去った後で、それまでとはまったく異なるサウンドに挑戦したいと思っていた時期だったから。その分、ドラムスの音が極端にビッグな曲もあったりするけれど。
―その頃の作品であなたが早くから指摘していた“戦争と金”の問題は、形こそ変わりましたが、今でも根本的に解決されないまま続いていると思います。今、ウクライナで起きていることについては、どのように感じているのでしょうか?ジャクソン:まったくもっておぞましい出来事だ。かつて、ロシアは常にアメリカの“危険な敵”として存在していた。民主主義の敵、合衆国の敵という位置付けでね。しかしソビエト連邦が崩壊してから、世界はより民主的で、より平等な政治形態へと向かって行ったはずだった。
僕にとってはこの世界について抱いていた様々な疑問がリアリティを増してきた時期でもあった。世界は軍需産業の複合体であると思っていたし、武器製造会社を潤す戦争というビジネスなんか不要だと思うし、不要であり続ければいいのにと願っている。
戦争の本質は今も同じで、軍需産業こそ真の敵という気持ちは変わらない。しかし、たとえば今ウクライナの人々に向かって、「軍隊は必要ない」と言い切れるのか……それはまた別の問題で、非常に難しいところだ。
僕は外交官ではなくミュージシャンなので、政治や世界の仕組みについて完全に理解しているわけではないが。音楽を通して発する言葉として、戦争について語り、戦争の時代に生きるとはどういうことかを語ろうとした時期があった。そんな時期に取り組んだのが、「エニシング・キャン・ハップン」という曲。しかし、今のウクライナの状況にも合う曲としてもう一回歌うなら、歌詞を2~3行作り直さなきゃいけない。今起きていることは、かつてあったような“秘密の戦争”とは違うからね。
―ところで、新曲は書いていますか?ジャクソン:いや、まだ。今は他のプロジェクトで忙しくてね。デヴィッド・リンドレーについての映画と、ドラマーたちの映画を手掛けていて、両方に携わっているんだが……映画は音楽とまったく違うアートフォームで、作るのがなかなか難しい。デヴィッド・リンドレーのドキュメンタリーには息子も関わっていて、彼に言われたよ、「自分が持っているデヴィッドのお気に入り映像を寄せ集めたら映画になるとでも思ってるんじゃない?」と(笑)。実際はそんな簡単にはいかなくて、“筋”を書くことの大切さを知ったし、映画の作り方を学びながら少しずつ作っている感じだね。
―昨年でソロ・デビュー50周年、70代半ばに差し掛かりましたが。ライブ活動については、どこかで一線から退くことをイメージしているのでしょうか。それとも、ボブ・ディランのようにネバーエンディングな活動を生涯現役で続けていく?ジャクソン:(頭を横に振る)それは無理だ。この年齢になると、さすがに移動を続けるのもきついしね。すぐに引退するということはないし、今年いっぱいは頑張ろうと思っているけれど。いつまで続けられるのか、何ともわからないな。
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