ヒップホップ・カルチャーを担う女性たち「Shiho Watanabe」

歴史について学んでみるのも大事

ーライターとして、これだけは譲れないことはありますか?

渡辺 「締め切り」と言えればカッコいいんですけど(笑)。アーティストにしろヒップホップのカルチャー全体にしろ、闇雲に先鋭的な部分だけを伝えないことですかね。派手な部分だけを切り取ったり、炎上するような流れにはならないようにしています。あとは、パイオニアの方たちを忘れないということ。実際にアトランタやニューヨークに行くたびに思いますけど、このカルチャーを作り上げたのはここにいる人達で、そこには抑圧や搾取といった背景がある。それを利用してボロ儲けするみたいなことは嫌だから、そこに対するリスペクトは常に持っています。

ーでは、特に若いアーティストと仕事をする上で大切にしていることはありますか?

渡辺 これは年齢に限らず、まずは相手をリスペクトすること。私は所詮人の作ったものを聴いてそれを紹介する職業だから、0から1のものを生み出すことは出来ないんですよね。だからどんなに若かろうと、その人がどんな人かということも関係なく、なにかをクリエイトしてそれを世に放つ人を尊敬しています。あとは、あえて表現方法としてラップを選んだというのは、何かしらの理由があると思うから、「そもそもなぜラップをしようとしたのか」というところまで汲み取って話を聞くようにしています。

ーライターだからこそ味わえる、仕事のやりがいがあれば教えて下さい。

渡辺 私が関わった仕事に対して、読者やリスナーの方から感想をいただいたときは、それがどんなに小さくても本当にやってよかったと思いますね。外の世界の人に向けて発信しているので、それを受け取って、なにかしらリアクションをくれるのはうれしいです。あとはアーティストご本人に喜んでもらえる時も醍醐味を感じますね。

ーヒップホップ業界で働きたいと思っている女性に向けてアドバイスやメッセージがあればお願いいたします。

渡辺 もし少しでも興味があるならば、なにかしらのライブや現場に足を運んでみて、どういう人がいるのか観察するところからでもいいと思います。もし何か発信したいと思っているのであれば、ブログでもYouTube、TikTokでもなんでもいいから、まずは自分で実際にやってみるっていうのがいいんじゃないですかね。全体的に女性が少ない業界だから、居心地の良いところとは言えないかもしれませんが、一緒に働きたいという気持ちは強くあります。かつ、もし「ヒップホップ」について書きたいんだったら、やっぱりヒップホップは音楽であり、カルチャーであり、アートだと思うので、まずその歴史について学んでみるのも大きな一歩だと思います。現場に来てほしいと言いつつも、いろんな事情で外出できない方も多いと思いますし、密接に歴史や政治とも繋がっているヒップホップについての知識を深めていくのも大事なことだと思います。


Photo by Mitsuru Nishimura/撮影協力:Quintet

渡辺志保
音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、エイサップ・ロッキー、ニッキー・ミナージュらへのインタビュー経験もあり、年間100本ほどのインタビューを担当する。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)など。block.fm「INSIDE OUT」などをはじめラジオMCとしても活躍するほか、ヒップホップ関連のイベント司会やPRなどにも携わる。

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