渡辺志保×DJ YANATAKE「BAD HOPの武道館ライブと地方のシーンの活況」

BAD HOP(from Rolling Stone Japan)

毎回、ヒップホップにまつわる特定のトピックを選んで、じっくり深堀して伝えていこうという連載「INSIDE OUT catch up!」。DJ/ラジオ・ディレクターのDJ YANATAKEと音楽ライターの渡辺志保がblock.fmで手がける人気ヒップホップ専門番組「INSIDE OUT」の中のスピリットを組んだ連載企画だ。今回も前回に引き続きカニエ・ウェストの話題から……。

※この記事は9月25日発売の「Rolling Stone JAPAN vol.04』に掲載されたものです。

渡辺:前回の対談の後、怒涛のリリースラッシュがありましたね。カニエ・ウェスト関連作に始まって、ビヨンセ&ジェイ・Zの夫婦ユニットであるザ・カーターズやドレイク、エイサップ・ロッキー……。

DJ YANATAKE:カニエは7曲入りのパッケージをアルバムという形で全5部作としてリリースした。カニエ・ファンにとってはすごくエキサイティングな1カ月だったんじゃない?



渡辺:正直、カニエ周辺に振り回されすぎたという感じもあります。その時期、毎週金曜日に関連アルバムが発売されていたわけですけど、カニエ周辺は特に音源以外の要素が多すぎて、少し疲れたというのが正直な感想かもしれません。だから、制作に数年を費やしてストレートに密度の濃いアルバム『Redemption』を発表したジェイ・ロックらのほうが、しみじみと「いいアルバムだな」と聴くことができたような。

DJ  YANATAKE:リリースの新しい施策が多すぎて、逆にこれまでのオーセンティックな作品の方が聴きやすかったのかな。

渡辺:そうなんです。あと、カニエは「2日前にできたような曲をそのままアルバムとして出します」という姿勢じゃないですか。ジャケ写も、アルバム発売の直前に自分のiPhoneで撮影した写真だし。制作日数と楽曲のクオリティは関係ないにせよ、方や1週間くらいでパッと仕上げたアルバム、方や数年かけてみっちり作ったアルバムが同時に発売されるわけですよね。そこのスピード感というか、リスナーとして状況の変化に追いついていけない感じはあったかも。

DJ  YANATAKE:本当にそこだよね。これから先、ストリーミングでのリリースが中心になっていくことは間違いないし、今回の施策はアーティストからの問題定義のようなところもあるように感じたな。まさに「アルバムの概念とはなんぞや」と。これまでレコードとかカセット、CDに収まる尺で曲を作って収録して、みんながある程度同じ価格帯を決めて、それを販路や流通を介し、それぞれに利益が落ちるようなシステムを作って長年やってきたわけじゃないですか。それが今、大きく変わろうとしている。

シーンにおける「アルバム」の意味

渡辺:Spotifyなどのサービスが発達した今、超インディのアーティストでも、メジャーのアーティストと同じプラットフォームに並ぶことができるわけですよね。その状況をすごくエキサイティングだと思う反面、混沌としているなという感情も抱いてしまう。

DJ  YANATAKE:うん。面白い面もあるけどね。特にヒップホップを追いかけている人は、いろんな定義が曖昧すぎると感じているかも。

渡辺:あと、新しいことは何でも「言い出しっぺが勝ち」って感じがありますよね。カニエが「7曲入りでもアルバムだから」と言えばそうなる。

DJ  YANATAKE:そうそう、最初にやった人がね。刺激を求めているということなんだろうけど、カニエはその象徴だし。俺は今回のリリースの仕方もすごく面白いと思ったし、アルバムって概念も「もういらねえや」と思った。いい曲ができたらそのときに出す、っていうのもすごく今っぽい。逆に言うと、すぐに出せるようになったんだから、時代性にあった出し方としてはすごく面白い。あと、ストリーミングのことを考えると、だんだん曲も短くなってるよね。1分台や2分台の曲が増えてきた。これは、ストリーミングで多く再生されるためだよね。もちろん、これだけが理由ではないけど。

渡辺:そうそう。カニエとは逆に、ドレイクはCD二枚組で、全25曲入りのアルバムを完成させた。となると、アルバムを一回聴くのに楽曲を25回再生せねばなりませんから、その分再生回数が増える。結果、ドレイクは初週のアルバム再生回数が10億回を超えて世界新記録を樹立して話題になった。こうなってくると、いくらアイデアがあっても足りないって感じになりますよね。



DJ  YANATAKE:今後はどうなっていくと思う?

渡辺:分からないな(笑)。自由度が増していくことは本当にいいことだと思いますけど、去年、一般的に高く評価されたヒップホップ・アルバムとしてケンドリック・ラマーの『DAMN.』とジェイ・Zの『4:44』が挙げられると思うんです。あれって、すごくオーセンティックなヒップホップ・アルバムじゃないですか。なので、シーンにおけるアルバムっていうのは二極化していくと思います。話題作りに特化した極端なものと、オーセンティックなもの。

DJ  YANATAKE:俺も本当に極端な言い方をしちゃうと、アルバムっていう概念とか様式ってなくてもいいのかなって。もっと新しいアートフォームを作り出す可能性もあるよね。

BAD HOPの武道館ライブと日本の若いアーティスト

渡辺:あと、今のアーティストにとって、ストリーミング以外の主な収益源といえばツアー・ビジネスがあると思うんですけど、それも今後、変わっていくのでは?と感じています。私も実際、アメリカで大きいライブを観ることがありますが、空席がチラホラ目立つこともある。最近も、フューチャーとニッキー・ミナージュのコラボ・ツアーがキャンセルになってしまって、理由はチケットのセールス不振。チャンス・ザ・ラッパーら、CDや音源は売らずに、ツアーやマーチャンで儲けるというスキームを作っていたけど、それもそろそろ飽和気味になっていくのかなと感じています。

DJ  YANATAKE:これから音源ではなくライブで食っていかなきゃ、という局面にいたけど、既にそのビジネスも飽和していると。「こんだけライブやってるの?」っていうくらい、みんなライブやってるもんね。アメリカの大型フェスも、中止になっているアナウンスをよく聞くし「これだけのメンツを集めて中止!?」って思うこともある。

渡辺:だから、そこに代わる新しいモデルができてくるのかな?と思います。

DJ  YANATAKE:みんな、アルバムやツアーのたびにマーチャンもちゃんと売ってるし、日本はそこがまだ弱いかなって思うね日本でもこの夏に、AKLOとZORNがジョイント・ツアーをしていたし、そういう動きが活発になっていってもいいと思う。そんな中、日本ではBAD HOPが武道館でライブをやるっていう。

渡辺:彼らは箱を押さえるところも、全部自分たちでやってるんですよね?

DJ  YANATAKE:そうだね。それに関しては楽しみでしかないな。BAD HOPを応援したくなる理由って、みんなそれぞれあると思うんだけど、彼らは純粋なヒップホップしかやってないんだよね。例えば、フェスに出た際にいろんなジャンルの人にウケる曲をやりましょうとか、向こう側のファンにも訴えていこうということで他のジャンルの人とコラボするとか、そうやって大きな会場にリーチしてきたヒップホップ・アーティストはこれまでたくさんいた。でも、BAD HOPはマジで純然たるヒップホップ・サウンドだけをやり続けて、それで武道館まで行ける。そこは本当に応援したくなるポイントかな。



渡辺:私も、若いラッパーの子の話を聞いていると、今や「高校生ラップ選手権でBAD HOPのT-PABLOWの姿を見てラップを始めました」という子もどんどん出てきてるじゃないですか。

DJ  YANATAKE:そういう若い高校生の子とかがすげえバッチリな曲を作ってSoundCloudやYouTubeにアップしている。すごい子たちが本当にいっぱいいるから、すごく面白いですよ。

渡辺:みんな、センスがどんどん研ぎ澄まされて、高いレベルからスタートしているような感じがしますよね。

DJ  YANATAKE:正直、似たような曲もすっごく多いし、何をリアルに歌うかといえば、「毎日遊んでいたい」とか、それくらいになっちゃう。それはしょうがないんだけど、頭一つ抜きん出るには、それ以上のことを歌わないといけないよね。でも、間違いなく若いアーティストの層が厚くなってきていると感じます。

渡辺:今の若い子はSNSを使って、“いろんなことを同時にやる” のが当たり前。だからこそ、アウトプットされるものも面白くなるのかなと感じます。

東京だけじゃなく、地方の子たちこそ新しいアイデアに長けている

DJ  YANATAKE:世界的にヒップホップが一番面白いのは間違いないと思ってるし、この時代に若い子がどんどん出てくるのはうれしいな、と。しかも東京だけじゃなく、地方の子たちこそ、新しいアイデアに長けている。大阪のCz Tigerとか、“Dirty Kansai” と名乗っているJIN DOGG、YOUNG COCOとかね。最近はMerry Deloっていう姫路の十代の子の「Scooter」という曲をDJ TY-KOHプロデュースのもとリミックスを作って、その1曲が全国でバーッとバズったんですよ。彼が注目されたら、次に同じ地元のMaison Deというクルーが話題になって。その中でもShurkn PapってMCの「Road Trip」というMVがバズった。



こういうアーティストって、今までは地元の先輩にお伺いしないとクラブでライブをすることすら出来なかったんですよね。ライブ出来ても、いい時間をもらえなかったり。でも、今じゃYouTubeで一発当てちゃえば、すぐに全国まで届く。しかも、東京のクラブシーンもどんどん新しいヒップホップのスターを探していて、フレッシュな若者のライブを探しているから、地方のMCでもバンバン東京に呼ばれるようになっている。それこそ、さっきも名前が出たYOUNG COCOとかJIN DOGGもよく東京にいるし。それに、やっぱりうれしいのは、このクオリティを毎週、みんな地元のクラブでやってるんだよね。そう思ったら「これはすげえことになってきたな」と思いますね。今や、「田舎のほうはまだまだだね~」なんて、全然通用しないから。

渡辺:昔は東京の渋谷に行かなきゃヒップホップの新譜すら手に入らなかったですけど、今は時差もないですからね。

DJ  YANATAKE:昔はレコードに入ってるインストを使わないとライブもできなかったしね。それもさ、ちょっとしか入ってこないレコードを地元の先輩が全部持っていっちゃうとか、そんな状況もあったわけだし。かつ、全国のシーンを見ながら、東京ではNormcore Boyz、ひいては彼らが所属しているクルーのTokyo Young Visionみたいな子たちが出てくると、東京出身の俺としてはうれしいなと思いますね。



渡辺:しかも「曲を作り始めてまだ1、2年なんです」って子も多くて、本当にたまげます。同じく、ヒップホップに希望を感じるということでいうと、やはり今年のフジロックでのケンドリック・ラマーのパフォーマンスは素晴らしかった。私も勢いあまって最前列のほうまで行ってしまったんですけど、私の周りのオーディエンスの方たちはみんなリリックも歌って、飛び跳ねながら目一杯楽しんでいて。たまにステージ前方のスクリーンに、後ろのほうまでびっちりお客さんが集まっている様子も映っている。グリーンステージのキャパって4万人くらいらしいんですけど、日本のロックフェスでアメリカのヒップホップ・アーティストのライブを観るためにこれだけの人が集まるって、最近ではなかなかないよな、と。

DJ  YANATAKE:今回のケンドリックの成功がきっかけになって、もっと海外のヒップホップ・アクトの招聘が盛んになったらうれしいよね。

渡辺:サマソニの時期、私はちょうど海外に行っていてチャンス・ザ・ラッパーらの来日ステージは観れなかったんですけど、ご覧になった方はみんな絶賛してましたしね。

DJ  YANATAKE:8月に開催された日本のヒップホップ・フェスとも言えるSUMMER BOMBも、開催5年目の今年は、今までで一番お客さんも入っていて、大成功と言えると思う。MCバトル・ファンが集まっていたフリースタイル・ダンジョンのステージもあれば、外ではダンス・バトルをやっていて、もちろんメイン・ステージでは常にライブをやっていたし、その一方、WEBラジオ「WREP」の生中継もやっていて。コンテンツがたくさんあって、すごく楽しかった。天気も最高だったしね。今年のフジロックで深夜行われていたChaki Zuluくんのステージも良かったみだいだし、それを言うと、KOHHくんやPUNPEEくんも既にフジロックのデカいステージに立ってるんだから、来年以降、フェス・シーンにおけるライブアクトとしての日本語ラップも、もっと進化して行ってほしいなと思いますね。BAD HOPとか、フェス映えするんじゃないかなって思うしね。

渡辺:早くも来年にも期待したいです!

Edited by Toshiya Ohno

DJ YANATAKE
毎週月曜日 22:00 block.fm「INSIDE OUT」

渡辺志保
毎週月曜 22:00 block.fm「INSIDE OUT」、毎週土曜20時 WREP「DJ’S PLAYLIST」にてラジオ・パーソナリティーを担当中!

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