川谷絵音が振り返る2022年の音楽シーン

川谷絵音の2022年を総括

―最後に、川谷さん自身の一年を振り返ってもらいたいと思います。まずは、ラランドのサーヤさんがシンガーを務める礼賛が本格始動して、所属バンドが5つになるという。

川谷:礼賛は曲を自分が作ってないっていうのが新鮮なんですよね。「バイバイ」は僕がサビを作って、詞も半分くらい書いたんですけど、それ以外は歌詞もメロディもほとんどサーヤちゃんで。これまでそんなに曲を作ったことがない人だから、いろいろ試しながら少しずつ型を決めていって。今はかなりヒップホップっぽいラップ多めの曲を作ったり、そうやって変化していくのを見るのが楽しいっていうのと、あとは発見があるんですよね。僕がサーヤちゃんにオケを渡すときに「どこにメロを乗せるつもりで作ってる」みたいなことは言わないので、イントロのつもりだったところに歌が入ってたりして。そしてそのメロディやラップが素晴らしいんですよ。思ってもない方向に行ったり、想像を超える歌詞やメロディがくるから、それが自分のインプットになったりもするんです。

―川谷さんが参加していて、自分が作詞作曲を担当していないバンドってなかったですもんね。

川谷:ないですね。そういう意味ではすごく特殊だし、あとはサーヤちゃんのカリスマ性を間近で見れるのと、メンバーがみんな演奏上手いのも相まって、シンプルにやってて楽しいです。


礼賛は1stアルバム『WHOOPEE』を1月18日に配信リリース

―バンドでのオリジナルアルバムはなかったですが、美的計画としてのアルバム『BITEKI』が4月に出ました。2022年は歌い手さんや声優さんに対する楽曲提供が増えた一年でもあって、曲ごとにシンガーを迎える美的計画とのリンクを感じたりもしたのですが、どんなふうに捉えていますか?

川谷:楽曲提供に関しては、特に狙いはなくて。オファーをくれた人たちは「もともとゲスやインディゴが好きでした」って言ってくれる方が多くて、長くやってると昔リスナーとして聴いてくれてた人たちがミュージシャンになったりするわけですよね。浦島坂田船のメンバーの方も、もともとライブを観に来てくれたりしてたみたいで、これまでやってきたことが芽を出してるというか。ボカロの曲にゲスっぽいピアノのリフが入ってたりしますけど、歌い手文化にも自分たちの曲が影響を与えていたりするんだなっていうのは、こういうオファーを受けて思ったりしました。美的計画もネットシンガーと一緒に作ったりしたから、曲の作り方はたしかに近かったのかもしれないです。

―もともとシンプルに「歌声が好きな人と一緒に曲を作ってみる」っていうのが美的計画のスタートだったと思うんですけど、アルバムを出したことでの発見はありましたか?

川谷:最終的に、前から好きだった(さとう)もかちゃんと一緒にやれたのはよかったですね。結構攻めた曲もあるんですけど、しっかり形になったと思うし、もっとたくさんの人に聴いてもらえそうなアルバムだと思うので、ひとまずはサブスクに置いておけばいいかなって。有名な人ばかりが歌ってるアルバムじゃないけど、いずれ再発見されそうな、いろんな基礎があるアルバムだと思うので、少しずつそこに気づいてもらえたらうれしいです。




―2022年の楽曲全般から感じるのは、「肩の力を抜いて」というのは言い過ぎかもしれないけど、少なくとも肩肘を張った状態では作っていないというか。特にゲスでの活動が象徴的かと思うんですけど、思いついたアイデアをどんどんやってみたり、そういう一年だった印象もあります。

川谷:たしかに、肩の力は抜けてるかもしれないですね。ゲスの「スローに踊るだけ」とかシングルで切るような曲じゃないかもしれないけど(笑)、「幕張でやったし(6月に幕張メッセで行われた結成10周年記念公演「解体」)」っていうテンション感でリリースしたり。ほなみちゃんが忙しすぎて、ちゃんMARIもずっと映画音楽を作っていて、課長はレシピ本があるので(笑)、最近は4人ともわけわかんなくなってて。でもツアーを回りながら次に作りたい曲が固まってきたので、また制作に入りたいと思ってます。

―ジェニーハイももともと自由なバンドですけど、さらに自由度を増した印象です。

川谷:ジェニーハイは2022年に出した曲が全部タイアップだったので、ある程度「こういう感じの曲」っていう要望はあったんですよね。ただ、「超最悪」はドラマの主題歌で、プロデューサーのMEGUMIさんから「パンクにしてくれ」っていうリクエストがあって。「僕らがパンク?」っていう(笑)。でもそれによって、これまでとは色の違う曲が作れて、より自由になったっていうのはあるかもしれないです。

―インディゴは11月に、バンド初の武道館公演を行いました。

川谷:2023年にアルバムを出すつもりで、曲はほぼほぼ出そろってるので、すぐにできるっちゃできるんですけど、何か一個ピースが足りない気がして……もう2022年は終わったことにしようって(笑)。前ほど急がなくなったんですよね。昔は急いでリリースしてましたけど、ゆっくりアルバムを出してもいいんじゃないかって、変な余裕が出てきた感じはあります。まあ、ライブや楽曲提供も多かったし、音楽以外の活動もあって、自分の曲に向き合う時間があんまりなかったっていうのもあるんですけど、それはそれでいいというか。ちゃんと時間があるときに作った方がいいものになるから、今後はそうしていきたいなって。


Photo by Masato Yokoyama

―川谷さん自身としては、2023年はどんな年にしていきたいですか?

川谷:この前、インディゴの「想いきり」がアメリカのフォロワー数が多いTikTokで紹介されて、USでの再生回数が結構伸びたんですよね。もともとなぜかSpotifyでの再生回数が多くて、スペインのバンドがカバーしてたりしたんですけど。そういう気づきもあって、海外を視野に入れたいなっていうのは思っていて。それこそ藤井くんの流れもあるし、バンドでも海外のいいニュースを作れたらいいなって。(2019年に)中国をツアーしたときはすごく楽しかったし、反応も新鮮だったので、いずれアメリカとかに行きたくて。そのためにどれだけ種をまけるか。ただ、「そっちに向けて曲を作る」みたいなことではなくて、単純にいい曲を作っていれば、どこかで見つかる可能性はあるのかなって。だからこそ、さっきの話どおり、これからも肩に力を入れずにやっていけたらとは思っていて。

―2023年は日本全体がもう少し外向きになっていくでしょうね。

川谷:海外に行きたい気持ちが強くなったのは、2022年に入って来日公演が増えたのも大きくて。特にサマソニでThe 1975を観て……そうだ、リストに入れ忘れてましたけど、The 1975の「Part Of The Band」は超好きで、「Daydreaming」と並んで2022年一番聴いた曲かもしれないです。サマソニに出た日本のミュージシャンはみんな、「The 1975みたいになりたい」って思ったんじゃないかな。ミュージシャンズ・ミュージシャンというか。ああいうバンドのあり方は美しいと思うし憧れますね。もちろん、僕らにも自分たちがこれまでやってきたことがあって、それが2023年以降、何かに繋がっていくような予感がします。

【画像を見る】川谷絵音 撮り下ろし写真ギャラリー




礼賛
『WHOOPEE』
2023年1月18日(水)デジタル・リリース
アルバム予約URL:https://raisan.lnk.to/whoopee

礼賛 ONEMAN TOUR 2023 「whoopee」
2023年1月21日(土)八王子 MATCH VOX
2023年1月28日(土)福岡 LIVE HOUSE Queblick
2023年1月29日(日)岡山 CRAZYMAMA 2nd Room
2023年2月04日(土)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
2023年2月10日(金)梅田 Shangri-La
2023年2月11日(土)名古屋 CLUB UPSET
2023年2月19日(日)渋谷 WWW X
2023年5月25日(木)恵比寿 LIQUIDROOM ※追加公演


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