川谷絵音が振り返る2022年の音楽シーン

川谷に刺さった2022年の洋楽

ローリングストーンUS版のアルバムランキングの1位は、ビヨンセ『RENAISSANCE』です。

川谷:わりとディスコやハウスっぽかったですよね? 2022年はドレイクもそうだし、僕のトップ10に選んだピンクパンサレスもガラージっぽいし、ハウス寄りの音楽がリファレンスにあるアーティストが増えた気がしますね。そのなかでも、ビヨンセがこういう作品を出したのは大きなトピックというか。アルバム自体すごくよかったですしね。

―近年はすでに多彩な作風でしたけど、とはいえR&Bのイメージが強いビヨンセがここまで明確にダンスミュージックに舵を切ったのは驚きだったし、さすがだなと。

川谷:それでチャラくならないのがすごいですよね。ハウスをポップソングに取り入れるとなると、どうしてもチャラくなっちゃうイメージがあって。だけど、ビヨンセのアルバムは説得力がある。これはなかなかできることじゃないなって。



―文脈的には、ブラックカルチャーであり、LGBTQコミュニティへのリスペクトとしてのハウス/ディスコ路線というのも大きかったと思います。

川谷:そこは日本と海外の違うところですよね。

―コロナのこともあって、社会的な発言をするアーティストは増えた印象ですけど、それが作品や曲にどこまで反映されてるかというと、まだ難しいところですね。

川谷:ちゃんと音楽と社会が一体化してるのは羨ましいなとも思いますけどね。まあ、そっちを考えるだけじゃダメだと思うし、音楽の良さも含めて、やっぱり「ちょうどいい」ものがいいですよね。ビヨンセの曲は単純に曲がめちゃくちゃ良いし、それをリリースすることで社会的な影響も与えられて、どっちもあるのが素晴らしいなと。日本だとどうしてもそれを両立するのは難しいのかなと現状を見て思います。少しずつ変わってはきてると思いますが。


Photo by Masato Yokoyama

―他にローリングストーンUS版のランキングで気になる名前はありますか?

川谷:自分のトップ10に入れた、スプーンの『Lucifer on the Sofa』が13位でびっくりしました。僕は1曲目のギターリフでもうやられちゃったんですよね。「久しぶりにこういうの来たな!」って。マネスキンみたいな古代ロックじゃなくて(笑)、僕が好きなロックの感じというか、ポストロックっぽさもあったりして。もちろんマネスキンも大好きなんですけど。

―スプーンはある意味、マネスキン以上に「古代ロック」なんだけど、それをモダンなサウンドデザインに仕上げてますよね。

川谷:そうなんですよね。マネスキンは古臭い熱さだけど、スプーンは微熱というか。バンドをやってる身としては、こういうアルバムが出てくるとすごく助かるんですよね。スプーンみたいにキャリアの長いバンドがこういうアルバムを出してくれると、自分たちもバンドをやりやすくなるなって。

―そのなかで、2曲目の「The Hardest Cut」を選んだ理由は?

川谷:「Wild」と迷ったんですけど、この曲のリフが一番好きだったので。最近はギターリフが好きな曲ってあんまりなくて、もし訊かれたらミューズの「Plug in Baby」と答えそうなくらい時が止まっちゃってるんですよ(笑)。久々にかっこいいリフを聴いたなって。



―リストの一番上はアウスゲイルですね。

川谷:昔からずっと好きで。たしか最初のアルバム(2014年の『In the Silence』)が、インディゴのアルバム制作と同時期に出たんですよね。「夜汽車は走る」のサビのコードが速く切り替わるところは、アウスゲイルの「King And Cross」から影響を受けてたりします。北欧系はずっと好きですけど、ビョークやシガー・ロスなどの冷たい雰囲気もありつつ、アウスゲイルはもっとキャッチーで。新作『Time on My Hands』は生音のドラムがかっこいいのと、スタジオに籠っていろんなシンセサイザーを試したり、時間をかけて作ったアルバムみたいで。メロディもアレンジも素晴らしくて、非の打ち所がないです。今一番ライブを観たいアーティストですね。





―来日公演もだいぶ増えてきましたけど、誰か観に行きましたか?

川谷:11月にアレック・ベンジャミンを観ました。あの人もアウスゲイルと同じく、冬っぽい声じゃないですか? でも、本人はめちゃくちゃ陽キャで(笑)。音楽とのギャップがすごくて、ずっと冗談を言ってるんだけど、曲に入ると透明感があって良かったですね。あとはリトル・シムズ。生バンドで観たかったからDJセットでどうかなと思ったけど、本人のラップスキルが高すぎて、かなり楽しんじゃいました。ブラック・ミディはスケジュールが合わなくて残念でしたけど、アルバム(『Hellfire』)はかなり聴きましたね。サマソニで観たスクイッドはずっと即興をやってて、「早く曲やってほしいな」と思ったりもしました(笑)。

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