Tani Yuuki、Ado、BE:FIRST…Spotifyランキングで振り返る2022年の音楽トレンド

(左上から時計回り)Tani Yuuki、Ado、BE:FIRST

 
Spotifyが世界4億5,600万人以上のユーザーによるリスニングデータをもとに、2022年を振り返る各種年間ランキングを発表した。この示唆に富んだチャートを掘り下げるべく、音楽ジャーナリスト・柴那典と、Spotify Japanの音楽部門で企画推進を統括する芦澤紀子の対談を実施。今年を象徴するアーティストやトレンドについて大いに語り合ってもらった。(※文中のアーティストは敬称略)



左から芦澤紀子、柴那典(Photo by Mitsuru Nishimura)


国内で最も聴かれた楽曲「W / X / Y」の背景

ーまずは、今年のSpotifyランキングをご覧になっていかがでしたか?

柴:いろんなランキングがあるなかで、〈国内で最も再生された楽曲〉のインパクトが一番大きかったですね。一言でいうと「世代交代」の年だったなと。Saucy Dog、マカロニえんぴつというTOP5の顔ぶれもそうだし、1位がTani Yuuki「W / X / Y」というのは少し意外でもありました。まだ世間的にはそこまで知られていないストリーミング発のシンガーソングライターが、多くの国民的スターを退けて1位となった。この結果に、Spotifyの特性も顕著に表れているように思います。




ー「W / X / Y」がこれだけ多く再生されたのは、どういう背景があるのでしょう?

柴:2020年代の音楽シーンにおける大きな変化といえば、TikTokをきっかけとしたヒットが生まれるようになったこと。とりわけ瑛人「香水」、優里「ドライフラワー」を筆頭に、弾き語りの男性シンガーソングライターがどんどん世に出てくるようになった。そのなかでTani Yuukiも2020年のデビュー曲「Myra」で一躍ブレイクを果たすと、昨年5月にリリースした「W / X / Y」が再びTikTokでバズり、「Myra」を超えるヒットになっていきました。

芦澤:コロナ禍によりライブが自粛され、エンターテインメントにアクセスできる機会が減少してしまった。そんななか、動画投稿サイトのユーザーが自身で「歌ってみた」「踊ってみた」といったタグを付けて動画を投稿したり、もしくはコロナの閉塞した気持ちに共感を誘うような弾き語りの曲がネット上で支持を得るという傾向が強まっていきました。それが「香水」や「ドライフラワー」のヒットに繋がったと思うのですが、この状況が長期化するにつれて弾き語りとはまた少し違うトレンドが生まれてきた。そこから「W / X / Y」のような横ノリの曲がTikTokで支持され、インフルエンサーも動画を投稿し、それが拡散されるといった流れのなかで徐々に楽曲が広まり、Spotifyのバイラルチャートを駆け上がっていったことが現在の人気に繋がったと思います。「W / X / Y」はリリース当初から大きく目立っていたわけではなく、昨年末くらいから半年以上かけてじわじわと人気が出てきたので、かなりのロングテールと言えますね。


Photo by Mitsuru Nishimura


Photo by Mitsuru Nishimura

柴:以前、Tani Yuukiにインタビューしたときに印象的だったのが、「Myra」がTikTokでヒットしたことで「一発屋」と言われたり、彼自身にとってすごくプレッシャーになったと。そこから「Myra」に寄せた曲を作るべきかと悩んだりしたけど、「W / X / Y」では自分が本当に書きたい曲を作ることができて、それが結果的に「Myra」を超える人気を得たことで、ようやくアーティストとしての手応えを掴むことができたと話していたんです。

芦澤:動画投稿サイトでのバズだけだと一過性で消費されていく感じがありますが、バズをきっかけにSpotifyのようなストリーミングでフル楽曲が聴かれるようになり、ここからソーシャルなどでシェアされるようになると、今度はバイラルチャートを上昇して広い音楽ファンに注目されるようになる。

柴:TikTokはヒットを生む装置として強力ではあるけど、1曲だけのバズは継続的な人気や支持にはなかなか結び付きづらい。そのことが近年、ネガティブなポイントとして露出してきているわけですけど、その傾向のなかで、Tani Yuukiは2曲目で大きな波を作れたという点ではブレイクポイントだった。ただ世間的には、これからのアーティストという位置付けですよね。ワンマンのキャパもSpotify O-EAST規模ですし。


Tani Yuuki「W / X / Y」は〈国内で最も再生された楽曲〉1位のほか、〈国内で最もいいねや保存された曲〉1位、〈国内で最もゲーム機で再生された楽曲〉4位にランクイン。

ー個人的には「W / X / Y」を聴いて、海外のバイラルヒットみたいなサウンドだと思ったりもしました。ベッドルームポップっぽいというか。

柴:たしかに。Powfuがビーバドゥービーをフィーチャーした「death bed (coffee for your head)」の打ち込みも入ったポップな感じとか、少し近い感じがしますよね。もしくは、ナイジェリアのシーケイ(CKay)がバイラルヒットさせた「love nwantiti (ah ah ah)」や、彼とピンクパンサレスが『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のサントラでコラボした「Anya Mmiri」の、ちょっとベッドルーム的でエモい感じ。Tani Yuuki自身はJ-POPの人ですけど、TikTok発のベッドルームポップと位置付けると、この3組で括れるのかもしれない。




 
 
 
 

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