The 1975、リナ・サワヤマ擁する「Dirty Hit」レーベルオーナーが明かす革命の裏側

アーティストの冒険を尊ぶ姿勢

―The 1975がそうであるように、Dirty Hitの所属アーティストは自分たちが信じるクリエイティブを貫いている印象です。その勇気に対して、どんなサポートを心掛けていますか?

ジェイミー:レーベルやA&Rの人たちというのは、自分のやり方が90%正しく、アーティストが正しいのは10%だと考えがちだ。でも僕としては、9割方アーティストが正しくて、自分の貢献は残りの1割、彼らがやり易い方法を示してあげたり、環境を整えてあげたりすることだと思っている。これは当然、いいアーティストと仕事しているのが大前提の話だけどね。

僕がよく話すのは、レーベルとしてできることはたくさんあるし、優秀なスタッフも世界中にいるけど、レーベルがアーティストになることはできないということ。本物のアーティストさえいれば、僕たちも繁栄できるし、アーティストも成功できる。僕は自分をファシリテーターだと思っている。A&Rとマーケティングに本当に求められているのは、アーティストが掲げるビジョンを達成できるよう手助けしてあげることに尽きる。でもそこにはまず、アーティスト自身のビジョンが必要なんだ。

―Dirty Hitが求めているのはどんなアーティストでしょうか?

ジェイミー:まずは、僕がその人の音楽を気に入ること。あとは実際に会った時、その人のことを信じようと思えること。僕たちも時には判断を誤ることもある。「これはいけるぞ」と思ったのに、蓋を開けてみるとそうではなかった、というふうにね。だから方程式というのは存在しなくて、「運命的な出会い」としか言いようがない。

―いつもどうやってアーティストを探しているんですか?

ジェイミー:彼らのほうから僕たちを見つけてくれるんだよ(笑)。真面目な話、僕は世界で一番ダメなスカウトマンだ。毎晩ライブに足を運ばなければといけないとか、ネット上でバンドを探さないといけないとなったら、たぶんこの仕事を辞めるだろう。さっきも言ったように、「運命的な出会い」なんだよね。やるべきことをやっていれば、必ずチャンスは訪れる。それを見逃さないことだよ。それに僕らの場合は幸いにも、何組もの素晴らしいアーティストがすでに在籍していて、彼らの存在が他の素晴らしいアーティストを惹きつけてくれることもあるし、みんなレーベルのカルチャーを気に入ってくれているようにも思う。

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―あなたのインスタのプロフィール欄に“I’m a designer, unite pariahs.” (僕はデザイナー、はみ出し者は団結しよう)と書いてありました。The 1975の曲「I Like America & America Likes Me」からの一節ですよね。

ジェイミー:そうだね。これまで聴いてきた中で最高の歌詞だと思うし、心から共感している。自分たちはいつだってアウトサイダーだと思っているから。

―Dirty Hitにもぴったりの表現だと思いますが、アウトサイダーを集めたり支え合ったりするのは意識してきたことでしょうか?

ジェイミー:どうだろう、考えたことがなかったな……(考え込む)。でも、そうかもしれない。自分たちの美徳として、僕が好きなアーティストはみんな何かしらのアウトサイダーだ。それに、そういう才能はいつだって、社会の主流から取り残された人たちの代弁者として世に出てくるものだから。



―2010年代前半にThe 1975やウルフ・アリスがブレイクした頃、Dirty Hitは当時のUKロックシーンに新たな価値観を提示しているように映りました。それから2020年代に差し掛かるあたりで、リナ・サワヤマやビーバドゥービーなど、より多様なルーツやバックグラウンドをもつアーティストの活躍が目立つようになったと思います。この変遷については、どんなふうに捉えていますか。

ジェイミー:ビーバドゥービーに初めて会った時、彼女は16歳か17歳で、あまりの純粋さに「この子を守ってあげなければ」と思った。「Susie May」という曲を聴いて、非凡な才能に驚かされたし、プロダクションは初歩的だけど歌そのものは手が込んでいて美しく、絶対にこの子と仕事がしたいと確信した。彼女も他のレーベルに会うつもりはなく、僕と会う前からウチに決めていたみたいだ。不思議なもので、マシューと出会った時に感じたのと同じような縁を感じたのを覚えている。

リナが初めて僕のオフィスに来た時も同様だね。彼女の音楽を聴いて、計り知れない才能とパワーを感じたんだ。リナがいつも言ってるんだけど、彼女の曲「STFU!」を聴いて大笑いしたのは僕が初めてだったらしい(笑)。他のレコード会社の人間はみんな戸惑った反応をしたみたいだけど、僕はおもしろい曲だと思った。ポップスターがニューメタル風の曲を歌うんだからぶっ飛んでるよね。リナもきっと、僕には自分がやりたいことが通じると思ったんだろう。

こんなふうに、僕らは自分たちが気に入ったアーティスト、僕の魂に何かしら訴え掛けてくるものを持つ人たちと契約しているだけなんだ。だからこそ、これだけ幅広いラインナップになったんだと思う。ちなみに今は、新しいバンドと契約できたらと思っている。難しいのは承知しているよ。僕らはThe 1975とウルフ・アリスという、いまや世界最高のバンドになった2組を輩出してきたわけだから。もっとも、ウルフ・アリスはレーベルを離れてしまったけどね(メジャーのRCAに移籍)。この仕事をしてきて一番の後悔だ。



Translated by Yuriko Banno

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