大江千里だから書けるジャズアルバム、1998年から渡米までと現在を語る



田家:大江千里さん7枚目のジャズアルバム『Letter to N.Y.』から「Out of Chaos」。

大江:まさにコロナ禍はカオスで、ニューヨークがなくなるような感覚が僕の中でありましたね。だけど、やっぱり底力を感じたというか。今町中は歯抜けだらけですけどエネルギーはやっぱりある。僕は街に教えてもらったり育ててもらっているんだけど、街に恩返しできてないっていうのもあるし、この街で踏ん張るぞっていうね。カオスの中で、しっかりと目を見開いていくぞっていう表明のような曲なんですよね。

田家:これだけジャズアルバムをお作りになって、ジャズかポップスかみたいなことって、もう全然問題にはないわけでしょ?

大江:やっぱりジャズは大好きですし、僕は人生の8、9割ぐらいをポップスのシンガー・ソングライターとして真剣にやってきたので、その両方の経験は本当にかけがえのないもので、それが今自分の中でマージするっていうか、重なり合うっていう感覚があって。

田家:今月は4週間いろいろお話を伺って、時間も削り、体も削り、精神も削りながら、詩を書いてきた言葉っていうのは今どんなふうに思ってらっしゃるんですか?

大江:やっぱりいい言葉は重要で。言葉があるから粘りが生まれる。言葉の形を借りて心の中にあるモヤモヤしたものを引っ張り上げてくれるツリーとのような感覚をフックしてくれる。それで引っかかってきたことを通して伝えたい思いっていうのは常に作者の中にあって。それは瞬間のもので、ポップミュージックの美しいところ。僕は今スタンダードを探していく年齢に入ってると思うんですけど、ジャズの現場だろうがポップの現場だろうが、全然キャリアとか関係ない誰かに会ったときに、僕の曲を歌いたいんだって言ってもらえるようなことが起こり始めるといいなってビジョンを描きながら曲を書いていて。来年、本当の40周年のゴールに向けて、いい音楽アルバムを作りたいなって。ずいぶん時間は流れてるのかもしれないけど、音楽を始めたときワクワクしたのがそのまま続いてる感じですよね。

田家:ポップアーティスト大江千里という意味では、これから幅広くいろんな形で活動が広がるって思っていいんでしょうか。

大江:それは僕はちょっとわかんないんですけど、いろんな人と出会うっていうことも最近多々あるし、ニューヨークって不思議な場所で、年齢が関係ないんですよね。ジャンルも関係ない。常に好きなものってやっぱり三つ子の魂で変わらないんですよね。それをどう引っ張り上げてくるのかっていう。自分1人じゃないところに向かっていくような気はするんですよね。

田家:これから楽しみですね。

大江:楽しみです。本当に。

Rolling Stone Japan 編集部

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