大江千里だから書けるジャズアルバム、1998年から渡米までと現在を語る

Let it be, SWEET / 大江千里

田家:2002年7月に発売になったシングル「Let it be, SWEET」。2003年がデビュー20周年だったんですね。

大江:時代は2000年でミレニアムから次のフェーズに入って。この曲は自分の中でまだモヤモヤした中、始めるんだっていう決意を歌っている。今聞くとわかる部分がすごくあって。2002年は、一緒に故郷から出てきた仲間、キーボードをやっていた仲間が亡くなったり、飼っていた犬が次々亡くなったり、母が亡くなったり、365日中360日長い手紙のやりとりをメールでしてた友達が亡くなって。40代を始めるために何か喪失だったり、モヤモヤする霧の中をかき分けながら始めるんだって方向に向かって既に歌い始めてるんじゃんって。そのままじゃ駄目なのかいっていいながら、自分を許すために何かを始めるっていうか。

田家:Disc4を聞いてて、歌い方がちょっと変わってるかなっていう感じがしましたけど。

大江:そうですかね。なんかぶっきらぼうっていう感じですかね?

田家:それは自分で意識されてるわけではなくて?

大江:曲調もあると思いますね。

田家:ニューヨークに行ったとき、ボイストレーナーの方に歌い方をかなりいろいろ言われたというのをどっかで読みましたけど。

大江:「To be easy」って言われて、それがわかんなかったんです。そんなに焦って急いでがんばらなくて、ちょっと深呼吸しようかって言われて。僕はその深呼吸ができなかったというか。深呼吸をしている間に時間が過ぎていくからって。それがまず1点と、もう1点は Deep Breath、お腹で息をしようと言われたんですけど、大江千里歌唱法はチェストボイスなんです。彼女のトレーニングが舌を震わせるチャーチ的でゴスペル的な感じだった。そこと自分の音楽がうまく交差しないって結果を自分の中で理解していた部分もあるんだと思います。ポケットの中で手と手が触れ合ってギュって握手するようなドキドキするポップソングと飛距離ができてきて、フィクションでいくのか、なりきりでいくのか、私小説でいくのかを30代のときは果敢にチャレンジして。サウンド的にもあらゆるアプローチをやって。40代になったときは、今まさに田家さんがおっしゃったように、投げるように歌ってるっていうのは、どっかでもう答えが出ていたような感覚がありますね。この曲を書いたのは42歳だったと聞いてちょっと今驚いてて。もうちょっと後だったと思っていました。

田家:生き急いでいたっていうことなんでしょうね。

Rolling Stone Japan 編集部

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