中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

THE SPELLBOUND:左から小林祐介、中野雅之(Photo by Masanori Naruse)

THE SPELLBOUNDによる1stアルバム『THE SPELLBOUND』がついに完成した。まさに「ついに」である。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之によるヴォーカリスト募集に、THE NOVEMBERSの小林祐介が手を挙げたのが2019年春。そこから約3年もの時間を費やして、1stアルバムに辿り着いた。中野がバンドとしてオリジナルアルバムを完成させるのは、BOOM BOOM SATELLITESのラストEP『LAY YOUR HANDS ON ME』から数えても、実に6年ぶりである。

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BOOM BOOM SATELLITESの頃から中野はよく「バンドというものはひとつの生き物として人格や哲学を持つようになる」といったことを語るが、アルバムを聴くと、THE SPELLBOUNDにはBOOM BOOM SATELLITESともTHE NOVEMBERSとも異なる人格が宿り始めていることがわかる。

その1音を鳴らすことで、聴いた人にどんな映像を思い起こさせるのか。どういう心情にさせるのか。どんな世界へと連れていくことができるのか――そんな思考を巡りながら、1音1音をひたすら追究し重ねていく。そうした過程を経てできあがったTHE SPELLBOUNDの音楽は、アルゴリズムで解析できるものでもなければマニュアルに落とし込めるようなロジカルなものでもなく、ただただ「芸術」としか言いようがない。

小林祐介がTHE SPELLBOUNDを通して自分を解放することを知り、一人の人間としても音楽家としても大きく変化・進化を遂げていること。中野雅之が再びバンドに無我夢中になり、新たな深い音楽体験を生み出していること。そんな二人から成るTHE SPELLBOUNDという生き物の生き様とそこから発される音楽から、私たちは「人生の解放」「自分自身の解放」の希望を見出すことができる。THE SPELLBOUNDの究極的に誠実な音楽の描き方と、その音楽から放たれる「人生の肯定」について、とことん話を聞いた。

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―1stアルバムが完成したことに対して、今はどういった喜びや手応えが大きいですか?

小林(Vo, Gt):バンドを結成してしばらくは手探りな自分たちがいたことを思い起こすと、すごく遠くまで来られた実感があるんですよね。ここに辿り着くことをイメージして一歩一歩近づいてきたというよりかは、僕と中野さんが巡り合うことでどんなものが生まれるのかに対してまっすぐ向き合っていった結果、曲がどんどん足跡みたいに残っていったというか。時間を過ごしてきた中でのいろんなやりとりとか苦労、喜びが、1曲1曲のいろんな瞬間に込められているので、僕としては「デビューアルバムが完成した」「1枚のアルバムを作りました」ということを遥かに超えるスケールの大きな物語があるような感覚があります。それは多分、聴いた人にも伝わるんじゃないかなと思うので、音楽自体にどっぷり浸かって楽しんでもらうと同時に、その奥にあるいろんな見えないものとかまで伝わるといいなと思ってます。

―中野さんはよく「バンドはひとつの生き物になっていって、人格や哲学を持つようになる」といったことをおっしゃいますけど、今小林さんが話してくださった物語が背景に広がっている楽曲がアルバムとして揃うことで、BOOM BOOM SATELLITESともTHE NOVEMBERSとも違う、THE SPELLBOUNDとしての「人格」が確かに見え始めているように感じました。中野さんも、BOOM BOOM SATELLITESとはまた違った音楽の魅力や凄みに到達できているという手応えがあるのでは?

中野(Programming, Ba):そうですね、でも無我夢中だったので。最初は何ができるのかわからないし、「何か生まれるかどうかを見てみよう、生まれなかったら諦めよう」という約束で小林くんとお試しでやってみようと。そこから本当に牛歩で、駄目なことが起きても「こういう理由で駄目なのではないか」と、ちょっと苦痛も伴いながら少しずつ前に進めていって、ようやく「こういうものを僕らが鳴らしたらいい音楽になるんじゃないか」というものが手に入ったのが1年後ぐらい。そこからまた1曲作り溜めていくごとに課題が出てくるんだけど、一つひとつ問題を解決していって、「また諦めないでやったらこれもいい曲になった」と少しずつ曲が集まってきて。耐えないことには手に入らないものがあるから、つらいこともあったけど諦めないで最後までやりきってよかったなと思います。耐える時間は、小林くんがすごく大変そうだったりすると、ちょっとした罪悪感も生まれるんですよ。でも乗り越えたときに「そのためにあった試練だったんだな」というのがわかると、また音楽に対しての愛情が高まって……ということを繰り返していく中で、人格を持つとか哲学が生まれるとかまでいったかはわからないけど、こうあるべきなんじゃないか、こういうことを提案したいのではないか、という共通認識みたいなものは生まれてきたんじゃないかな。そこに辿り着くまでの過程が全部アルバムの収録曲に入っているので、「産声を上げるところまでのプロセス」みたいな記録がこのアルバムにはあるかなと思います。

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