中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

「自分に対してポジティブな変化を強く望むのであれば何かしら起こせるのではないか」(中野)

―ドキュメンタリー映像『THE SPELLBOUND|Tongpoo videos vol.4』(監督:岩井正人)も拝見しましたが、中野さんと小林さんが、まるで監督とオリンピック選手かのように、一緒に高みを目指しながらたったひとつの音の鳴らし方についてめちゃくちゃストイックに会話してるシーンが印象的でした。そういったコミュニケーションも通して、小林さん自身がTHE SPELLBOUNDでどう変わったと自負しているのかは今日聞きたいと思っていたことだったのですが、音楽を作って鳴らすことや歌うことに対する意識はどう変わりました?

小林:中野さんとコミュニケーションを取る中で、自分にとっての根本に質問を投げかけられる場面がずっとあったんですよね。「なんで君は歌ってるの」「ステージに立って誰に何を伝えたいんだ」「この音楽は何を伝えるためのものなんだろうね」とか。そういうものを日々意識することが多くなってきたんですけど、その中で音楽に対して自分が思うのは――野暮な言い方になっちゃうかもしれないですけど――自分の中にある愛みたいなものとか、大きなエネルギーみたいなものを、大事な人に届ける一番のやり方が僕にとっては音楽であるし歌うことであると。そういう生き方をしたいというふうに思えてきたことが、音楽に対して一番変わったことで。前の自分は、音楽が音楽の範囲を飛び越えてなかったかもしれないし、歌が歌止まりになってたのかもしれない。それは音楽や歌を卑下する言い方ではなくて、人に何かを伝えることとか、人と何かをシェアすることのすごさや尊さが、歌や音楽という芸術的なコミュニケーションになったときにものすごく美しい力を発揮するんだということを改めて感じたんですよね。僕はBOOM BOOM SATELLITESからなんとなくその感覚を知ってる、と思っていたんです。だからTHE SPELLBOUNDで曲を作ったり中野さんと話をしたりしている中で、BOOM BOOM SATELLITESの体験から感じていたものと、今の僕が「何か掴んだかもしれない」と思うものが結びついたときに、これでよかったんだって思う瞬間がありました。

―中野さんは、曲を作ってアルバムを作って、4年ぶりにライブステージに上がってと、またこうして「バンド活動」をやっていることに対して、どういった感情が一番大きいですか。

中野:そうですね…………頑張らなくちゃと思って(笑)。創作にしても、ライブの演奏にしても、とても体力と集中力がいるので。僕が作りたいものに見合った体力と集中力を身につけておかないと自分が残念な思いをするから、今まで以上にストイックに生活しないと達成できないなって。いい音楽が作れているし、ライブバンドとしても可能性を感じていて夢が持てると思っているので、2022年以降もこの新しく生まれたバンドの成長の道筋を育んでいきたいなということですね。僕は歳上で50歳ですけど、「もっとこうありたい」って、自分に対してポジティブな変化を強く望むのであれば何かしら起こせるのではないかって、そういう期待を持って過ごしていきたいと思ってるし、それが様々な人たちにも何かしら力を与えることになるかもしれないって、そういう気持ちでいます。

―小林さんが30代半ばで人生の転換期・成長期を迎えられたこともそうですけど、中野さんが今こうしてまた新しいことを始められていることが、人間は終わりを迎えるまで新しい自分や人生を求め続けることができるんだという希望を体現してくださっているなと思います。

中野:小林くんにも質問されたんですけど、僕、ロールモデルにしてるミュージシャンとかがいないんですよ。「こういうふうな歳の取り方をしたいな」っていう、理想としている人物がいないんです。それは他人に関心がないというよりも、どれも自分とは違う感じがするからで、だから自分で探すしかないんだなと。自分のことを満足させたり、これが正解だって思えたりするのは、自分の行動でしか証明できないような気がしていて。それを何かを作ったり人前で演奏したりという行為でもって自分で確認していく。「来年の正解は来年にしかない」という感じなので、その時々で自分に対して誠実にいようかなと思ってます。

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