中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

既存のフォーマットにとらわれない

―具体的に曲のことも聞かせてください。まず、2月9日に先行配信された「MUSIC」。これは「MUSIC」というど直球なタイトルで、サウンドや歌詞的にも11曲の中では異色なので初めて聴いたときにびっくりしたのですが、どういうところから生まれた曲ですか?

中野:小林くんって、ものすごく音楽博士なんだけど、面白いくらいダンスミュージックだけごっそり抜けてる人なんですよ。たとえば今のトレンドでダンスミュージックというとポストEDMみたいなものになっちゃうけど、それよりも、たとえば2000年代のエレクトロクラッシュとか、90年代のレイヴっぽいものとか、Vitalicとかを、「こんなのあったんだよ」といった感じでスタジオの時間の合間とかに小林くんに聴かせて。小林くんはそれをすごく新鮮な気持ちで聴いてくれるから面白くて。小林くんって、ロックとかパンク、ニューメタル的なものも好きじゃない?

小林:うん、そうですね。

中野:そういう音楽の中にはないベクトルというか、ダンスミュージックの刹那的なところとか精神の解放という着眼点で、小林くんなりのものを作ってみればいいんじゃないっていうふうになったんだよね。小林くんってクラブ遊びとかの経験もあんまりなかったりするけど、僕はやっぱりダンスビートが好きで。ダンスビートって、そのリズムがすでに意思とかミッションを持ってたりするから、その中でできることやふさわしいことがあって。最初、それを小林くんと共有するのが難しかったんですよね。ロックってどこか反社会的、闘争的な音楽の要素があるじゃないですか。優しいロックは優しいロックのそれがあるけど、ダンスミュージックのそれではなくて。それで、いろいろ一緒に聴いたりYouTubeで昔のMVを見たりして、何とか共有できないかなあと。そんな中で、「MUSIC」には小林くんなりのいろんなアイデアが出てきたんじゃないかな。

小林:そうですね。「MUSIC」というタイトルは、中野さんが仮でつけたものがそのまま生き残ったんですよね。

中野:うん。仮というか、これに「MUSIC」とつけることで決着をつけたいなという気持ちも少しはあったと思うんだよね。「音楽」というエスケープゾーン、魔法のツールがあるということにしてもいいんじゃないかなと思って。

小林:そんな話をしてましたね。



―そして、アルバムのプッシュ曲には「Nowhere」を選ばれています。

中野:そうですね。僕、すごく好きな曲ですね。楽曲の制作過程でいうと、僕がヴァンゲリスみたいな――ヴァンゲリスの中でもあんまりビート感が強くないもの、映画『ブレードランナー』の最初の作品のオープニングとかに流れてくる、フワッとしたシンセに、リーディングを乗せた曲――そういうトラックを作ってみるところから始まったんですけど、どうも食い足りないというか、やっぱり最終的にはビートミュージックにしたくなっちゃうんでしょうね。結局歌が入ってきたら、どんどん盛り上げたくなっちゃったっていう。痛快な爽快感がある曲ですね。どの曲も、最初のアイデア自体が創造物と言ってもいいくらい、フォーマットのある形じゃないものを思いつくことが多いので、だから生みの苦しみも大きいんですよね。



―これをプッシュ曲に選んだのはどうしてですか? それこそ、いわゆる今世の中にあるポップミュージックのフォーマットとは全然違うもので。リード曲として、たとえばストリーミングのプレイリストに入ったときにいい違和感が生まれる曲ですよね。

中野:そうなんですよね。ラジオでパワープッシュが取りにくいとか、そういう側面もあると思う。逆に言うと、既存のフォーマットに収まりやすいもので世の中は溢れているから。それってマーケティングで音楽が作られているとも言えるので。僕たちとしては「今こういうことが思いついた」「気持ちよかった」「感動した」とか、そういうことで音楽が生まれていって欲しいし、そういう曲が一番届けたいものだったりするから。親しみやすくて聴き慣れたフォーマットの中で作られている音楽の中でも素晴らしいものはたくさんあるけど、自分たちにしか作れないオリジナルなものがせっかくできたなら、そのままの形で届けてみたいという気持ちがありますね。すごくイキイキしてる生き物みたいな音楽だなって思うので。


Photo by Masanori Naruse

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE