中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

THE SPELLBOUNDのミッション

―ライブについては今後どう進化させていきたいと考えていますか? これまでフジロック含め3ステージ拝見しましたが、ステージごとに進化を遂げられていて、特に3本目のライブでは唯一無二のライブバンドとしての圧倒的な完成度に到達されていたように思いました。

中野:ライブは……もっと上手になりたい(笑)。「上手」というのは演奏面もあるけど、伝える人として上手になりたいって思いますね。誰にでも届いたらいいなって思うし。やってみてわかったことも多いんですけど、いわゆるポップスやバンドもののロックとはまたちょっと違うダイナミックレンジがこのバンドにはあるんだなって。要は音楽って、ただ言葉で伝えるよりも、音楽やメロディに乗せて、あるいは音響によって、後押しする効果がある。たとえば「なにもかも」という言葉自体にはそれほどたくさんの意味が含まれていなくても、繰り返されることで後押ししたり、背景になる音楽が彩ることでその言葉がものすごく大きな意味合いを持ってきたり、聴く人が自分の中にある「なにもかも」と照らし合わせていろんな感情が湧き起こったり、そういう可能性がまだたくさんあるような気がするんです。そういうことが新たな音楽体験にもなると思うから、もっと上手く伝えていきたいと思う。「なにもかも」という言葉が全然違うものに聞こえてきて、全然違う人生とか何かを見出してしまうような、そういう体験をする時間になったらまだまだたくさんの可能性があるんじゃないかな。僕らが想定している以上のことだって起きるかもしれないし。そういうところを僕らも楽しみにしながら成長させていけたらいいなというふうに思いますね。

小林:「伝える人として」という言葉が今中野さんからありましたけど、やっぱり僕自身の人生のすごく大きなミッションのひとつは、人に何かを伝えることに対してどれだけ情熱や誠実さを持って向き合えるかだと思っているんです。それに気づけたのがTHE SPELLBOUNDのステージで、そうすることで見られる景色を知れたのもTHE SPELLBOUNDでした。それをどれだけ拡張していけるか、どれだけ大きなエネルギーをファンとシェアできるか。とにかく、一生ものになるような瞬間をどれだけ人生かけてやれるかという、その一点だけですね。

―最後に。ドキュメンタリーの中で中野さんは「コロナで人生を奪われた人たち」という表現をされていましたが、今の世の中で人生の行先が見えづらくなった人たちにとって、このアルバムがどういうものであったらいいなと思いますか。

中野:僕が思ってる以上に「音楽」というものは、生活をメンタルで支える力を持っているようなんですよ。BOOM BOOM SATELLITESのときからそれに自覚的になってきて、これはすごく重要な仕事なんだという想いが、あるときからだんだん強くなってきて。誠実な音楽を人格のあるバンドで発信していくことで、必ず力を発揮するだろうと信じているところがあるので。別にコロナの社会に対して歌ってるわけでもないし、何かに打ち拉がれている人に対して優しくしてあげてるわけでもないんだけど、必ず役に立つこと、エネルギーを与えることはやってきたつもりなので、何か受け取ってもらいたいなって思いますね。僕らは社会のシステムを変えることはできないわけですけど、よりダイレクトに人の心に入り込んで伝えていく力を持っているとは思うから、その力を信じてこれからもやっていきたいし、僕らの音楽を聴いていい気持ちになってほしいなということですね。

小林:コロナ禍でいろんな人生が右に左に振れてしまうすごく激しい時代の中で、僕たちもものすごく大変だったし、もっと大変な人たちも世の中にたくさんいるわけなんですけど、その先にあったものがこのアルバムで。バンドをやり始めた自分たちとか、コロナ禍でこれからどうなるんだろうと思っていたファンたちからしてみたら、このアルバムが出てる未来というのはいい未来だと思うんですよ。だから、「今日生きててよかった」とか「このバンドを信じててよかった」って、その都度思ってもらえるような未来をどんどん用意していきたいという気持ちがあります。その第1弾のアルバムとして受け取ってもらいたいし、今日を迎えてよかったと思ってもらえたら嬉しいですね。


Photo by Masanori Naruse

<INFORMATION>


『THE SPELLBOUND』
THE SPELLBOUND
中野ミュージック
発売中
http://the-spellbound.com

1. はじまり
2. MUSIC
3. Nowhere
4. 君と僕のメロディ
5. 名前を呼んで
6. Sayonara
7. なにもかも
8. A DANCER ON THE PAINTED DESERT
9. スカイスクレイパー
10. FLOWER
11. おやすみ

配信用リンク
https://orcd.co/thespellbound

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