中野雅之・小林祐介が語る、THE SPELLBOUNDのロックが内包する「一点突破」と「自己受容」

「肯定」を大事にしたい背景とは?

―まさに今話してくださったようなバンドストーリーや、小林さんがこのバンドをやる中でいろんなものを乗り越えながら自分を解放していく様、そして中野さんがBOOM BOOM SATELLITESをまっとうされた後もまたこうして音楽を探求し新しいサウンドスケープを生み出していること、それらすべてが――言葉で言うとダサくなるんですけど――「人生の解放」とも言うべきような、人生の明るい希望を見せてくれる音に昇華されていて、それがTHE SPELLBOUNDの人格や哲学の核になっているんだなと強く感じます。

中野:ロックバンドなんですけど、いろんなことに肯定的であったり、包容力があったり、たとえばネガティブな側面があったとしてもちゃんと最終的には出口があるようなものを提案していると思います。前に進んでいくというか――言葉にするとダサいんですけど(笑)――そういうフィーリングを常に残していくということは、ずっと制作のムードの中にあったかなと思います。THE NOVEMBERSというバンドは作風が広いし、小林くんもいろんなパレットの色を持っている人なんだけど、僕が抽出した部分は割と一点突破で。美しさと優しさの部分。そして美しい日本語、言葉遣いの丁寧さですね。もしかしたら小林くん自身はそこまで自覚的じゃなかったのかもしれないんだけど、そこが僕の小林くんのすごく好きだった部分で、一緒に作る音楽には絶対に合うと思ったから、そこを掘っていきました。

―THE SPELLBOUNDが「肯定」を大事にしたい背景って何なんだと思いますか。

中野:僕は、自分の人生の経験と、今の社会的な背景、その両方からですね。肯定的に生きることを許してない人が多いのかなって。抑圧みたいなプレッシャーが強い中で、そうではない提案をしたいという気持ちがあります。あとは、自分の人生の中で、たとえば最愛の友人を亡くしたことに対しても、肯定的でなければ先に進めないし、死を受け入れるということもすごくポジティブな側面があって。そこにしがみついているよりも、受け入れてその先に行こうとすることは僕にとっても重要だし、僕の作った音楽のファンの人にとっても重要なことだと思うので。だから肯定的であることが僕にとっては今とても大事なのかな。それを小林くんに求めてしまったところがあるのかなって思うんですけど(笑)。

小林:僕は、今話に出た「肯定」という言葉からはずれちゃうかもしれないんですけど、「自己受容」の感覚に近いところがあって。いろんなものを受容するような懐の広い眼差しで自分の人生や大事な人のことを見ていったときに、肯定するために何かを見るというよりかは、「あなたがあなたのまま、ネガティブもある、ポジティブもあるというような中でお互い息をして、そんな今日は天気がよかったりして」みたいな――些細なこととか、全然ドラマチックじゃないものの中に「自分たち、これでよかったよね」みたいな気持ち――そういったものが、作品のオーラみたいなものとしてあると思っていて。僕はTHE SPELLBOUNDを中野さんと一緒にやるようになって、人に対してとか、自分の身の回りや自分の人生に関して、新しい視点を持つことができたと思っているんです。何かを大事にすることとか、何かを受け止めたり背負ったりする責任や喜びみたいなものを、きちんと正面から向き合う視点を持つことができたのが一番大きいと思っていて、それはやっぱり作品にダイレクトに出たなと、完成した後に思いました。


Photo by Masanori Naruse

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