ボーイズ・ノイズ、テクノ・プロデューサーとして挑戦した新たな試み

ボーイズ・ノイズ(Photo by Shane McCauley)

21世紀を代表するDJ/エレクトロニック・ミュージシャンの一人、ボーイズ・ノイズ。メインストリームとアンダーグラウンドを自由に行き来するベルリン出身の彼が、5枚目のオリジナル・アルバム『+/-』(読み:Polarity)をリリースした。その作品の魅力をThe Sign Magazineの小林祥晴が紐解く。

2021年の今、ゼロ年代半ばに隆盛を極めたエレクトロ出身のアーティストにどれだけのアクチュアリティがあるのだろうか? 現行のポップミュージックを貪欲に追いかけるリスナーの大半はそんな風に感じているに違いない(いや、若いリスナーにはエレクトロが何だかわからない人も少なくないだろう)。確かに当時のエレクトロブームに乗って頭角を現した有象無象は今や見る影もない。ジャスティスやデジタリズムといったトップクラスのアクトも精彩を失った。だが、ザ・ウィークエンド『マイ・ディアー・メランコリー、』に起用されたゲサフェルスタイン、フランク・オーシャン『ブロンド』でフックアップされたセバスチャンなど、数少ない例外もいる。そして、エレクトロのオリジネーターの一人であるボーイズ・ノイズことアレックス・リダも、現在のポップミュージックの潮流をしっかりとキャッチアップしつつ、同時に時代に流されない自身の表現を貫き続けているアーティストの筆頭格だ。

まずは簡単に振り返っておこう。ゼロ年代はインディロックとクラブミュージックのクロスオーバーが活気づいた時代でもあった。ジェームス・マーフィーとティム・ゴールドワーシー率いるニューヨークのDFA、エロル・アルカンが主催するロンドンのパーティ=トラッシュ、あるいはベルギーの2 Many DJ’s/ソウルワックスなどの活躍でバンド音楽とダンスフロアの垣根が取り払われ、ゼロ年代半ばにはロック的なダイナミズムを宿したダンス・ミュージックが躍進。やがてそのムーブメントではシンセベースにディストーションをかけた荒々しいサウンドがひとつのフォーミュラとなり、「エレクトロ」という呼称で世界に広まることとなった。そして、そのエレクトロサウンドのオリジネーターと呼ばれるのがフランスのジャスティスであり、このドイツ出身のボーイズ・ノイズだったのである。


Boys Noize - Volta 82(2005)




Boys Noize - Feel Good (TV = Off) [2006]




エレクトロの産業的発展形とも言えるEDMの躍進と前後して、エレクトロは勢いを失った。ボーイズ・ノイズも一時ほどの脚光を浴びなくなっていたが、実はここ数年のメインストリームにおける彼の急激な躍進ぶりは目覚ましいものがある。

その契機となったのは、やはり2019年にリリースされたエイサップ・ロッキー「Babushka Boi」だろう。この曲の共同ソングライター/プロデューサーとして抜擢されたボーイズ・ノイズは、そのダークで硬質なサウンドが現行のラップやポップミュージックとも相性がいいことを証明。この仕事でロッキーから気に入られたのか、彼からの紹介でフランク・オーシャン「DHL」の共同ソングライター/プロデューサーにも起用されている。


A$AP Rocky - Babushka Boi (2019)




Frank Ocean – DHL(2019)



他にもスクリレックスやタイ・ダラー・サイン、フランシス・アンド・ザ・ライツなどとのコラボ作があるが、現在までのボーイズ・ノイズ最大のヒットは、何と言ってもレディー・ガガとアリアナ・グランデによる大アンセム「Rain One Me」だ。この曲はメインプロデューサーのブラッドポップやバーンズによるフレンチハウス風のプロダクションが入る前に、ベースとなる曲をガガとボーイズ・ノイズが中心になって書いたのだという。


Lady Gaga, Ariana Grande - Rain On Me(2020)



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