反ワクチンに人種差別、エリック・クラプトンの思想とどう向き合うべきか?

二転三転したクラプトンの対応

ウェイクリングやソーンダズ氏のような人々をあっけに取らせたのは人種差別的発言だけではない。それに対するクラプトンの対応もしかりだ。ステージ上での暴言がイギリスのメディアで報じられたあと、クラプトンは音楽紙Soundsに手書きの書簡を送って謝罪した。「バーミンガムで暮らす外国人の皆さんにお詫びする……ただ(いつものように)一杯ひっかけて、さあいよいよ飲むぞという時に、とある外国人が俺の彼女の尻をつねったものだから、ちょっと引け目を感じたんだ」(彼が言わんとしているのは、金持ちのサウジアラビア人が当時彼の恋人だったパティ・ボイドに色目を使ったという話)。だが、彼は白人至上主義を支持するようなことも付け加えた。「イーノックはこの国を動かせるだけのガッツがある唯一の政治家だと思う」。同じ号のインタビューでも、彼はバーミンガムでの暴言を再び軽くあしらった。「実際かなり面白いと思ったんだ」と、モンティ・パイソンのスキットに喩えて言った(フィリップ氏はこれに異を唱える。「モンティ・パイソンでおなじみの無様でおちゃらけた感じではありません。彼の発言は扇動的でした」)


2007年の回想録で、クラプトンは問題の事件にあらためて触れ、バーミンガムのステージ上での発言は「決して人種差別を意図した発言ではない。むしろ、当時の政府の安い労働力に関する政策や、明らかに強欲に基づく政策によって引き起こされた文化的混乱、人口過多への非難だった」と書いている。ソーンダズ氏やRARコミュニティの人々にとって、この説明は「バカげて」いた。実際、「ウォグ」という蔑称を用いたのだから、弁解の余地はほとんどありそうにない。

当時アメリカでは、バーミンガムの事件はほとんど報じられなかったが、2017年に公開された公認ドキュメンタリー映画『エリック・クラプトン~12小節の人生~』で再び話題に上った。この中で彼はついに発言を認め、キャリアのどん底だった時代を語った。クラプトンは劇中はもちろん、映画のプロモーション取材でも黒人の友人らがいることを引き合いに出し、人種差別に無自覚なわけではないと言って、当時の大量飲酒のせいにした。「本当にひどいことをした」と、彼はある媒体に語った。「俺はひどい人間だった」と、これまでとは打って変わって、バーミンガムでの暴言は「全面的に」人種差別的だったことを認めた。「言い訳はできない。本当に最悪のことをした」と言ったが、ここでもやはり「実際、面白いと思ったんだよ」と付け加えた。

「当時は他人の言うことをあまり気にしてなかった」と言うバディ・ガイは、最近までバーミンガムの出来事を知らなかったそうだ。「白人がこう言っただの、黒人がこう言っただの。誰が何を言おうと、どう感じようと、俺は全然かまわないよ」

だが、あの夜バーミンガムにいた人々や、当時その話を耳にした人々にとって、クラプトンの釈明は空虚にしか響かない。ウェイクリングはクリーム時代の2曲を除いて(「Badge」と「White Room」)、あれからクラプトンの曲は一度も聞いていないという。フィリップス氏も同様に、昔のクラプトンのレコードには手を付けていない。「酒の力で洗練されたウソが出てくるわけがない、そんなの誰でも知っています」とウェイクリング。「酒は間違ったタイミングに、間違った人の前で、本音を大声で語らせるものなんです」

Translated by Akiko Kato

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