パット・メセニーに「創造性」を学ぶ 次世代とも共鳴する伝説的ギタリストの思想

ジェイムズ・フランシーズとマーカス・ギルモアについて

―そのプロジェクトのために声をかけた二人について、まずは個性的な鍵盤奏者であり、作曲家でもあるジェイムズ・フランシーズと演奏を重ねてみての印象を教えてください。

メセニー:ジェイムズの素晴らしいところは従来のピアノ/鍵盤/オルガン奏者という括りで語るのがとても難しく、その枠には収まらない、特異な存在だという部分だ。彼のような奏者はこれまでいなかったかもしれない。そういう人にはいつだってワクワクさせられる。幸いにも私はこれまで、独自のやり方を生み出す「特異」なミュージシャンたちと多く共演してきた。若い頃に憧れたゲイリー・バートンしかりだ。ゲイリーはヴィブラフォンに革命を起こした。彼のようなヴィブラフォン奏者はそれまでいなかった。スティーヴ・スワロウも同じだ。彼らは楽器奏者としての新しいあり方を作った。ジェイムズは発展途上ではあるけど、既にその兆しを感じる。彼でなければこのバンドは成立しなかっただろう。他に誰も思いつかない。それくらい彼にしかないものがある。

今回のバンド編成というのは、従来のオルガン・トリオと重なる部分も多い。私自身、カンサス・シティで活動していた若い頃に、何度も経験した編成だ。ジェイムズがそういう側面を持ち合わせているのは確かだけど、それだけじゃない。どんなメロディを奏でるか独自のアイデアを持っているし、一つのフレーズに5オクターブのレンジを持たせることもできる。彼がやろうとすることはどれも普通と違う。しかも、今のポップ・ミュージックへの造詣も深い。かと思うと、オスカー・ピーターソンを参照している面もある。彼にしかない、独特な組み合わせがあって、どれも私としては気に入っている。何より、感性がとにかくいい。いろいろ言葉で語ることはできるけど、私からすると、感性がなければあまり意味がない。彼の場合は感性がいい。何をするにも、私にとってはそこが一番重要だ。


ジェイムズ・フランシーズ『Purest Form』収録曲「713」

―もう一人は個性的なドラマーであるだけでなく、ビートメイカーとしても活動しているマーカス・ギルモアです。彼と演奏を重ねてみてどんなことを感じましたか?

メセニー:NYは今、ドラマーの黄金時代が到来していると感じる。ずっと長い間、いいドラマーを探すのに本当に苦労してきた。ドラマーを雇っても、口頭でいちいち細かく説明しなければならなかった。「ここは、even 8th note(8分音符をイーブンに)のワルツなんだけど、3拍子じゃないからボサノヴァじゃなくて……」という感じで延々と説明しないといけなかった。当時名を馳せた数少ない常連メンバー、ジャック・ディジョネットやボブ・モーゼス以外に声を掛けた場合は特にそう。自分が思い描くスタイルで叩ける人を見つけるのが本当に難しかった。それが今や、NYには「明日ライヴで叩いてくれ」とお願いできるドラマーが少なくとも12人はいる。グルーヴを説明する必要がないだけでなく、彼らはみんな私の作品を聴いて育ってきている。そういう意味で、ドラマーに関しては、これまでにない面白い状況になっている。



―たしかにそうですね。

メセニー:このプロジェクトのドラマーの椅子に誰を座らせるかという部分では、これもなかなか楽しい道のりだったよ。マーカス・ギルモアは4代目で、今は5代目としてジョー・ダイソン(クリスチャン・スコットやドクター・ロニー・スミスが起用)がいる。彼も信じられないくらい優秀なドラマーだ。このプロジェクトで起用したいと思った候補が6人いて、一人に絞り込むのは難しかった。

マーカスのことは、彼が子供の頃から知っている。ロイ・ヘインズの孫だからね。彼にしばらくやってもらって、今はジョーがやってくれている。今回のアルバムを録音した後に、ジョーを想定して書いた新曲が12曲ほど既にある。ジョーはニューオーリンズ出身のドラマーだから、また違った味があるんだ。私にとっては、このプロジェクトにかかわらず、どんなバンドにも言えることだけど、独自の何かを持っている奏者を見つけたら「その人に向けてどんな曲が書けるか」と考えるきっかけになる。彼らを刺激するものであると同時に、私から見た彼らの光るものをしっかり見せることを念頭に書くわけだ。あまり得意じゃない部分があれば、それを避けるとかね(笑)。こうしたことは全て、バンドリーダーとしての役目だ。私はギタリストとして語られることが多いけど、自分にとって一番メインの仕事はバンドリーダーであり、自分が尊敬するミューシャンたちが演奏できる受け皿を用意しながら、私自身が伝えたい物語を伝える音楽を表現する場を作ることだと考えている。そしてたくさんライブを行ないながら、数多くリサーチを続けること。最終目的はいつだって人前で演奏することだ。


パット・メセニー「Side Eye」での演奏、ドラムはジョー・ダイソン

―今のお話にもあったように、『Side-Eye』は「若い世代のミュージシャン陣を代わる代わる迎えたい」というのが念頭にありますよね。そのコンセプトは今回のアルバムの選曲や、新曲のコンポーズにどう作用していますか?

メセニー:私は活動を始めた頃から、新しいミュージシャンを発掘してきた。おかしいと思うかもしれないけど、『Bright Size Life』を作った時は、まだ誰もジャコ・パストリアスのことを知らなかったんだ(笑)。彼に参加してもらうのに、周りを説得しなければならなかったくらいだ。レコード会社(ECM)としてはデイヴ・ホランドやジャック・ディジョネットあたりを期待していたのだろう。そのすぐ後にも、また別の無名のミュージシャンを起用した。ライル・メイズだ。そうやって、その人に沿った曲を書くだけでなく、その人のサウンドを確立させてあげられると感じる人を探すのは、活動していく上で欠かさずやってきた。特にサウンドは重要だと思っている。作曲する上で、その人のサウンドを思い描くことが曲を書くきっかけになるし、そう思わせてくれるミュージシャンが好きだ。

このプロジェクトに関していうと、『Side Eye』は新曲と古い曲が半々という構成だ。私は、誰かと初めて音を鳴らす際、私の古い曲を彼らがどういう風に演奏するのかをまず聴いてみたいと思っている。そこから彼らの傾向がわかるし、ああいう表現をどれだけ得意としているかもわかる。今回のジェイムズの場合、彼は私の作品となかなか面白い繋がりを持っている。彼の父親が私の作品の熱狂的なファンらしく、生まれた時からずっと聴いてきたわけだ。それと並行して、彼はヒューストン出身で、あそこには素晴らしい音楽教育があって、NYを拠点にしているミュージシャンの半数がそこの高校出身だ。ビヨンセも通っていた(※)。そんな彼の経歴を含めたフィルターに通すことで、私の音楽がまた違って出てくる。

※High School for the Performing and Visual Arts、通称HSPVA。ロバート・グラスパーやジェイソン・モランも同校の出身。

それだけじゃない。彼は非常に優秀なミュージシャンだ。私の楽曲は、人が思っているよりも演奏するのが難しい。簡単に演奏しているように聴こえるかもしれないけど、即興を得意とする凄腕のミュージシャンたちが、例えば「James」(1982年作『Offramp』収録の名曲)のブリッジでボロボロになるのを何度も見てきた。でも今回一緒にやってみて、ジェイムズには十分弾きこなす技量がある。なぜなら、子供の頃から聴いてきて、曲をよく理解しているから。また、彼の持ち前の傾向として、そこからさらに新しい形に持っていく。それら全ての点を合わせれば、私にとって申し分ない。今では、彼のことをより知ったのもあって、彼に沿った曲作りも刺激に満ちている。彼に何ができるのかわかったのと同時に、何がまだできないかもわかったから。彼はまだ若い。私も何人かの鍵となる年上のミュージシャンに育ててもらった自負がある。彼らは私がまだできないことをみつけ、あえてそれを私にやらせた。同じことを私もジェイムズにしているんだ。彼が普段頼まれないことをあえてやらせる、という。そんなことも意識してやっている。彼ならできるとわかっているからね。彼に限ったことじゃない。ドラマーにしてもそうだ。それが誰だろうとね。

Translated by Yuriko Banno

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