パット・メセニーに「創造性」を学ぶ 次世代とも共鳴する伝説的ギタリストの思想

パット・メセニー(Photo by Jimmy Katz)


パスクァーレ・グラッソと「器楽奏者にとっての創造性」

―最後の質問です。あなたがパスクァーレ・グラッソについて語っていたのを読みました。パスクァーレは自分が頭の中で創造した音楽を形にするために様々な技術を身に付け、組み合わせ、試行錯誤しながら、その頭の中で創造した音に近づけようとしているようなギタリストです。それは自分が出したい音を鳴らすために新しい方法を発明しようとしていると言ってもいいかもしれません。しかも、パスクァーレが参照しているのは最新のテクノロジーではなく、ビバップやスウィング・ジャズなどの誰もが知っている過去の遺産です。にもかかわらず圧倒的に新鮮に聴こえます。あなたもパスクァーレ同様、発明と言ってもいいやり方で音楽を作ってきたミュージシャンです。だからこそ彼に強く共感するのかなと思います。パスクァーレの話を前提にあなたに伺いたいのですが、「器楽奏者にとっての創造性」とはどんなものだと思いますか?

メセニー:まず、君がパスクァーレ・グラッソを取り上げてくれたことが嬉しい。彼は私からすると今の音楽を語る上で欠かせない存在だ。彼が出てきて10年くらいになるけど、誰も彼のことを語らないのが不思議でしょうがないよ(笑)。なぜなら、私から見て、彼は本当に特別なミュージシャンだからだ。いわゆるポストモダンと呼ばれる時代において「創造性」というのは興味深いもので、中には「パスクァーレ・グラッソは好きだけど、彼はバド・パウエルを参照しているよね」と言う人がいる。まるでそれが悪いことかのようにね。もしくは「古臭い」と言う人さえいる。最近、何かの大会の審査員をやったんだけど、ギタリストが10人ほど出場していて、10人中9人は、私やジョン・スコフィールドとビル・フリゼールを少しずつ違う形で組み合わせているように聴こえてしまった。そのうち5人はきっと、私のこともフリゼールもスコフィールドも聴いたことがないと言うだろう。彼らはむしろカート・ローゼンウィンケル辺りをイメージしているんだと思う。さっきも話したように、私は45年以上活動しているし、バド・パウエルにしても亡くなってからほんの55年しか経っていない(1966年没)。どこを境に「モダン」と言うようになったんだ。私がリヴァーブを使ったからなのか。わからないよね。私が考える「創造性」というのは、こういう話題を超越するものだ。

パスクァーレの音楽から聴こえてくるのは、非常に入り組んだ表現の中で即興で音を紡いでいる、ということだ。同じものをロバート・クレイにも感じる。彼はブルース・ギタリストだけど、その場で創造もしている。ただ奏でているだけじゃなくて、即興で弾いている。パスクァーレがやっていることは、どんな楽器でも難しいけど、特にギターでは難しいことだ。かれこれ70年もの間、多くのギタリストがやろうとしてきたんだ。彼はそこを見事にやってのけた。彼は入り組んだ表現の中で自由に演奏できる、という境地に達している。これは滅多にできることじゃない。しかも、そうやって奏でる作品が非常に創造性に溢れている。それが私の作品とどう関連しているかは、わからない。でも、他人がやっているのを見抜くことならできる。そして、様々な形になってそれは(自分の作品の中に)表れる。音楽性は全く違うかもしれないけど、過去には同じことをデレク・ベイリーにも感じた。自分が思い描いたものを無限に思える形で表現できてる人を見ると、そう感じるんだ。



例えば私が「Are You Going With Me?」(『Offramp』収録)を毎日24時間一生弾き続けたとしても、同じ演奏を繰り返すことは絶対にないだろう。発展し続けるだけだ。パスクァーレもまた、同じことを「Tea For Two」でやるだろうし、デレク・ベイリーも彼の曲でそうするだろう。「創造性」というのは、「これ」や「あれ」に限定されることはない。私を始め、パスクァーレや多くの仲間が所属するコミュニティではよく派閥争いみたいなものがあって、同じコミュニティの中でさらに細分化して「◯◯◯派のほうが×××派よりも本質的に創造性がある」と言う人たちがいるけど、私はそういう意見に賛同したことはない。

純粋に「創造性」の話をしたければ、ビートルズを超えられる人はなかなかいないことは、彼らがあの9年間でやったことを見れば明らかだ。アルバム毎にサウンドがまるで違うという話をよく聞くけど、彼らの場合は曲単位で全く違う作品だ。楽曲も、感性も、全てが最高だ。曲作りにおける創造性という点では、現代における格好の例なんじゃないかな。一方で、60年代のマイルス・デイヴィス・クインテット(ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス)は、おそらく人類が到達し得る頂点を極めていたと思う。素晴らしい手本はすぐそこにあるんだ。少なくとも私はそこを目指したいと思ってやっているよ。




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Translated by Yuriko Banno

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