パット・メセニーに「創造性」を学ぶ 次世代とも共鳴する伝説的ギタリストの思想

パット・メセニー(Photo by Jimmy Katz)


パット・メセニーが音楽を作る意義

―左右の手を別人格のように操るジェイムズ・フランシーズがいることで、通常ならカルテットで演奏することをトリオでやる、「1人少ない条件で演奏する」ような音楽になる部分もあると思います。その通常とは異なる条件は、あなたの演奏にどんなインスピレーションを与えたのでしょうか?

メセニー:我々がオルガン・トリオの伝統を参考にしているのは明白で、私が最初の数年間カンザス・シティでやったライブの半分はオルガン、ギター、ドラムという編成だったのも事実だ。鍵盤の左手がベースの役割を担って、ギターは、オルガンが左手でベース、右手で単音を弾いている時に隙間を埋める役割を担う。今回も、そういう側面を含んでいるのは確かだ。ジェイムズの弾き方もそこに通じるものがある。

と言いつつ、この編成なら違うこともいろいろできる。テクノロジーの発展もあり、私がギターを使ってベースパートを弾くことだってできる。以前からいろいろやり方はあったけど、最近の技術の進化は目覚ましいものがあるからね。実際にベース・ギターを私が弾いている場面もある。ベースを弾くのは昔から好きだ。さらに、オーケストリオン(メセニーが2010年から使い始めた自動演奏装置)といった機械装置も使用している。私はこのプロジェクトを「どちらか」(に選択肢を絞ってしまうの)ではなく、「どっちもやる」と捉えている。

私はもともとトリオ編成というものに惹かれているんだ。なぜなら、全員が常時何かをしてないといけないからだ。カルテットだと、誰か一人がボーッと立っているだけという場面もある。トリオのそういう部分が気に入っている。それに今回は、普通と違うトリオでもある。このトリオが成立するのもジェイムズがいるからこそだ。彼のようなミュージシャンとはこれまで出会ったことがなかった。優れたオルガン奏者はこれまでも出会ったことがある。何年も前にラリー・ゴールディングスとマイケル・ブレッカーでプロジェクトをやったこともある(1999年リリースのアルバム『Time is of the Essence』)。そのために書いた「Timeline」という曲を今作でも取り上げている。ジェイムズは渋々オルガン・トリオ風の演奏をするんだけど、彼がそうするのは、あれだけ上手くできるとみんなわかったら、その仕事しかこないんじゃないかと恐れているからだと思う。そういう技術も持ち合わせているけど、単なるオルガン奏者だと思われたくない、という思いがジェイムズは強いんだ。



―先ほども名前が出ましたが、あなたのデビュー作『Bright Size Life』はジャコ・パストリアスとボブ・モーゼスとのトリオで録音した唯一のアルバムです。ここから2曲取り上げているのはなぜですか?

メセニー:さっき話した通り、初めて誰かとプレイする時は、私の古い曲を演奏させる。その中でも『Bright Size Life』からの曲を取り上げることが多い。私の代表的な作品をどこまで弾きこなせるか、その技量を測る意味でね。私がやることのほぼ全てが『Bright Size Life』に詰まっている。それが今でも私の音楽の核となっている。不思議だけど、どの曲も、45年ものあいだ叩きのめされても生き残ってきた。だからどうにだってできる。今回彼らがあの2曲を弾いてるのを聴いて、あまりに違うアプローチだったから、アルバムに入れる価値があると思ったんだ。

―『Bright Size Life』はあなたとジャコのベースが時にその役割を入れ替えたりしながら、自由に即興演奏をしているアルバムだと思います。『Bright Size Life』に収録された曲には自由に即興演奏をできるスペースがかなり用意されているから、『Side Eye』のようなプロジェクトにふさわしかったのかと想像したのですが、どうですか?

メセニー:それを言ったら、全曲を譜面に書き起こした前作『Road To The Sun』を唯一の例外として、私がこの45年間やってきた全ての作品に言えるのは、私にとってそもそも音楽を作る意義というのは、私が即興奏者として生きるための環境を開拓するためだということ。今回のアルバムも、これまでの作品と目指すものは何ら変わらない。即興演奏を行なう受け皿を作ること。中には入り組んだものもあるし、シンプルな構成のものもある。私の場合、譜面にしたら20ページや30ページ分の書き下ろした音楽の後にようやく即興演奏が出てくることも珍しくない。セロニアス・モンクの曲を演奏するのとは対照的だ。そうやって譜面に書かれた音楽と即興音楽を両立させる方法を見つける、というのが音楽を作る上で私が目指していることでもあるんだ。



―ジェイムズもマーカス・ギルモアもヒップホップ育ちのミュージシャンで、彼らの音楽の中にはヒップホップが自然に、かなり深く入っていると思います。この20年、ヒップホップをインストールしているジャズ・ミュージシャンが数多くシーンに出ています。そういった状況をどう見ていますか?

メセニー:ジャンルに関する話になるとどうしても退屈に思えてしまう。音楽よりも、政治や文化的比重が多くなってしまうからだ。音楽の可能性を全て見渡してから過去60年ほどの間に人気を博した音楽を見ると、そのほとんどは、音楽の持つ可能性のごくわずかな割合を占めるに過ぎない。つまりどういうことかというと、そのほとんどが4分の4拍子で、ほとんどは1拍目で誰かが音を出して、2拍目に裏拍子(バックビート)があって、別の何かがあった後、4拍目で何かあって、長調と短調でできている(笑)。音楽的な部分は以上だ。あとは服装やどういう種類の人たちを代弁しているのか、ということばかり語られる。私が興味があるのは音楽だ。クラシックやジャズといった大きなジャンルの話でさえも、何を話しているのかわからないんだ。君の質問にも「いいんじゃないの」くらいしか言えないよね。

Translated by Yuriko Banno

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