チープ・トリックのリック・ニールセンが語る、「最後の日」までロックを奏で続ける理由

パンデミック以降の「別世界」

ーパンデミックの前に、あなたはお子さんたちとザ・ニールセン・トラストというグループを結成しましたよね。あの家族バンドはどんな風にして始まったんでしょう?

リック:ちょうどチープ・トリックがツアーで世界中を周ったあとだった。ロビン(・ザンダー、Vo)はアリス・クーパーとオーケストラで数曲歌う予定が入っていて、ヨーロッパへ行くことになっていた(2020年3月にドイツで開催された「Rock Meets Classic 2020」)。それで、チープ・トリックとしてのスケジュールは3月が1カ月オフになったんだ。ダックスはチープ・トリックでドラムを叩いていたが、もう一人の息子のマイルスは自分のバンドや、奥さんとのバンドをやっていた。個別にちょっと共演する機会はあったが、家族全員で一緒にやる機会はなかったから、せっかく1カ月空いたからやろうぜという話になった。リハーサルをして10数回のショウを告知し、チケットも全てソールドアウト。2回やって、さぁこれから!という時に、そこで(パンデミックが広がって)終わっちゃったのさ。



ーチープ・トリックとしての活動も、パンデミックの影響で様々なプランが先延ばしになりましたよね。こんなに長い間自宅で過ごすのはデビュー以来初めてだと思うのですが、家では毎日どんな風に過ごし、何を考えていましたか?

リック:インスピレーションに富んでいる期間とはとても言えなかったな。よく「いつも曲は書いていたんでしょ?」と言われるが、曲を書きたいと思わせられることがないんだよ。何より辛いのはーーきっとそう思う人間も多いだろうがーーいつ終わるのかが見えない、この先何が起こるか分からない点だ。こんなのは初めてだろ? 世界中がめちゃめちゃだ。治療薬はないし、人はどんどん命を落としている。アメリカではすでに4年間のパンデミックが起きていたわけだが……政治的にな(トランプ政権のこと)。あの時もなんの救いもなく、そのことが(ニュー・アルバムで)ジョン・レノンの「Gimme Some Truth」をカバーするインスピレーションになった。何かを発言したいが、俺たちは政治的なバンドじゃない。だったらジョンの言葉を借りて語ろうじゃないか、とね。



ーニュー・アルバムの『In Another World』は昨年の早い段階でほぼ出来上がっていたそうですが、歌詞を見てみると、パンデミックが影響した感じの曲がいくつかありますね。アルバムのタイトルにもそういうニュアンスは込められていますか?

リック:ああ、それは間違いなく。アルバム・タイトルも、「Gimme Some Truth」を入れることにしたのも、曲順を決めたのも、ここ3〜4カ月の話だよ。「The Summer Looks Good On You」を作った時点ではまだアルバムのことは頭になくて、曲単位でレコーディングをしているに過ぎなかった。俺も他のことを並行してやったりしてたし。そうこうしているうちにパンデミックになり、レコード会社もBMGに移るなど色々あった。でもその時すぐリリースする理由もなかったんで、時期が来たら出せばいいと思っていたんだ。実際、一度決めていたリリース予定からはさらにもう一度延びたわけだが、こうしてようやく出る運びになった。「The Summer Looks Good On You」も「Gimme Some Truth」も、当初はアルバムに入れないつもりだった曲なんだよ。

アルバム・タイトルも他に候補はあったが、『In Another World』が一番フィットするように思えた。まさに今、俺たちは今までとは違う別世界にでもいるみたいじゃないか。そしてそれがいつ終わるのかも、いつになったら安全になるのかも、いつまた日本に行けるのかも分からない。俺は毎年、感謝祭の時期はロンドンとイタリアで過ごしていたんだ。でも行けなくなったし、クリスマスも家には家族を来させなかった。その頃は家の中でも手袋をしていたくらいだ。俺には孫が12人いるが、その子たちがどこへ出歩いていたかなんて分からないからな。かなり怖かったよ。今もだ。



ープロデューサーのジュリアン・レイモンドとのつき合いは長くて、1994年の『Woke Up With Monster』で曲を共作したのが最初だったと思います。彼も元々は自分のバンドを率いて活動していましたが、どんなきっかけで親しくなったんですか?

リック:ジュリアンは何年も前にごく短い間だが、トムと一緒にプレイしていた時期があった。あいつはチープ・トリックの大ファンなんだよ。いつも電話をしてきては「リック、君がやった昔のテイクがある。これを完成させよう」とか言うんだ。それで「わかったよ」と二人でスタジオに入る、というようなことをずっと続けて来た。

ジュリアンはキャピトル・レコードで働いてからハリウッド・レコードに移り、その後ビッグ・マシーン(以前チープ・トリックもアルバムをリリースしていたインディ・レーベル)に呼ばれてナッシュヴィルに移住し、そこでヒットを出すようになった。俺もグレン・キャンベルの曲で仕事をしたよ(2008年の『Meet Glen Campbell』、2011年の『Ghost On The Canvas』に参加)。とにかくロックとチープ・トリックが大好きな男だ。どんな時も必ず引き受けてくれるし、予算がない時はタダでやってくれたこともある。彼自身もソングライターだし、チープ・トリックの歴史をリスペクトしてくれているので、わけのわからないソングライターを外部から連れてくるようなことはしない。チープ・トリックでヒットを出したいと思ってくれてはいるが、これ以上バカなことをしてバンドを危機に晒すようなことはしないんだ。チープ・トリックはもう十分バカなことをやってきたからな! バンド内で意見が割れて揉めた時も、ジュリアンの1票が重要になることが多い。大抵の場合、「やろうよ!」ってけしかけてくるがね。だから悪い結果は全部あいつのせいだ!(笑)

Translated by Kyoko Maruyama

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