ザ・ホワイト・ストライプスが挑んだ音楽の「再定義」とは? 2000年代ロック最大の発見を振り返る

キャリア後期の傑作『イッキー・サンプ』

『ゲット・ビハインド・ミー・サタン』(2005年)は、「ギターとドラムだけのロックバンド」という当初自分たちに課した制約からも逸脱して見せた作品だ。1曲目の「ブルー・オーキッド」はジャックお得意の激しいブルーズギターが中心に据えられているものの、アルバム全体ではほぼギターは鳴りを潜めている。「ザ・ナース」はマリンバとピアノのエキゾチックな響きから始まる曲(そして突如として落雷のようなギターが空気を切り裂く)。のちにジュラシック5にサンプリングもされた「マイ・ドアベル」は、ブレイクビーツ風のドラムとパーカッシヴなピアノによるファンキーなナンバーだ。

The White Stripes - Blue Orchid


The White Stripes – The Nurse


The White Stripes - My Doorbell


ギターとドラムだけというホワイト・ストライプス結成当初からアイデアは新しく刺激的だったが、それさえも繰り返していけば一つの形式として固定化し、マンネリに陥る。だからこそ、ある形式から逸脱することに成功すれば、「脱・形式化」して生まれた新たな形式からもまた逸脱しなければならない。これは、そのような問題意識を彼らが持っているからこそ生まれたアルバムだろう。しかも、どの曲も演奏は徹底してミニマル。決して安易な肥大化をせず、必要最小限のサウンドのみを使って「脱・形式化」を繰り返えせるところが彼らの突出したポイントでもある。

彼らにとって最後のアルバムとなった『イッキー・サンプ』(2007年)は、ジャックの鬼神じみたギターが復活すると同時に、さらなる音楽性の拡張――というより、さらに多様な音楽的な伝統との接続を試みたアルバムだ。

アルバムのタイトル曲でもある「イッキー・サンプ」では呪術的なアナログシンセのフレーズがのたうち回り、まるで南米の黒魔術の儀式に迷い込んだような妖しさを放つ。そして50年代のシンガー、パティ・ペイジのカバーである「コンクエスト」は暴力的なまでの勢いで演奏される壮絶なマリアッチ(メキシコの伝統音楽)。「プリッキー・ソーン、バット・スウィートリー・ウォーン」ではスコットランドのバグパイプも使われている。

The White Stripes - Icky Thump


The White Stripes – Conquest


伝統に連なりつつ再定義するというバンド結成当初からのビジョンに忠実でありながら、これまでのどのアルバムとも似ていない。ホワイト・ストライプスの最高傑作というと『ホワイト・ブラッド・セルズ』か『エレファント』を挙げる人が多く、筆者も異論はないが、この『イッキー・サンプ』はその二枚に次ぐか、ほぼ肩を並べる傑作と言っていいだろう。

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